【R18】婚約が有効だったとは知りませんでした【完結】

迷い人

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50.諦め

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 ティナが部屋の鍵を開け、部屋の外にでれば狭い廊下だった。
 先を行けば、上がり階段しかなく上へ行けば、濃い草と土の匂い。

「温室……」

 見覚えのあるソコは、王城にある温室の中。 アルフレットが拘束され子供達に囲まれていた場所だった。 目の前の城の何処かに王妃がいる。 だが、指輪の件で騙したなと言う思いよりも、うっかり見つかっては大変だから、早く逃げようという思いの方が強かった。

 温室から出れば、激しい雨が降っている。

 狼の姿であっても匂いを追ってくるのは難しいだろうと思えば安堵した。

 そんな風に考えたが、助けに来てもらえなかった自分への慰めのようで、自分に苛立ちを覚えたのも事実だ。

 雨なら丁度いい……うん、丁度良かったんだ……。

 そして、ティナは濡れることも気にせず、雨の中を飛び出して行く。 薬のせいで全力は出せないけれど……それでも、誰も追いつく事はできないだろう力で走った。



 ティナが部屋を出て数分後、ロイは目を開いた。

 決して眠っていた訳ではなかった。 伝える事は伝えたのだから、後は2人に任せようと考えた。 考えつつも腹立ちはあった……悪役を引き受けようとしたのに、それを利用出来なかったアルフレットに対して。

「本当、馬鹿な人だ……。 さて、私はどうしますかねぇ?」

 ティナが脱走することも織り込み済だったロイは、危険が無いようにティナに護衛は付けてある。 元々、彼女を害する事は出来ないが、それでも心配だったから……。

 小指に押し込まれた指輪を外しロイは手の平の中で転がした。

 指輪の内側を見れば、ソレが魔道具ではなく、王が王妃に送ったものだと分かった。 それは強い願いだったのだろうが……ダメなものはどうやったってダメなんだと、ロイは苦々しく笑う。

「アレほど民を思う王妃もいないだろうな……。 振り回される側は迷惑でしかないが」

 ロイは呟きながら、普段は控えているタバコに火をつけた。

『ティナがアルフレットからはなれるようであれば、ソレはソレで構わないの~~。 だって、恋心は人に言われて芽生える者ではない訳だしぃ? だけど、英雄と聖女の血を活かすことができるよう色んな人とティナを合わせて、あの子が気に入る子を作っておくの。 わかったぁ? ロイちゃん』

 王妃はそうロイに命じていたのだ。

「そんなに簡単に人の気持ちを操作できるなら苦労はしませんよ」

 その場にいない王妃に、ロイは文句をいいながら、タバコの煙を吐き出す。

「さて、王子様がこの場に辿り着くまで、あとどれくらい時間必要でしょうかねぇ?」

 ロイは、タバコの火を消した後、ソファに深く腰を落とし、腕を組んで目を閉ざした。





 結局、アルフレットが監禁室に辿り着いたのは、その日の夜遅くだった。

「ティナ!!」

 鍵は開いていた。

 飛び込んできた狼姿のアルフレットの視線は、ベッドの上をかすめ見てソコに誰も居なかったことにほっとするが、だがティナの残り香に動揺を隠せなかった。 愛液の香りに……狂いそうになる思いを抑えた。 愛液の香りはあるが彼女の血の匂いは無い……むせるような男女の交わりを思わせる匂いが無い。 ロイが精を放った様子はない。

 混乱した様子で、アルフレットは自らを宥めようと必死になっていた。 犯すとか、孕ますとか、そんな事を言っていても、幼い頃から唯一無二の自分の味方を疑いたくなかったから。

「アナタは、ティナ様を迎えに来ることに悩んだのですか?」

「来たじゃないか!!」

 不機嫌そうに周囲をきょろきょろと眺め、血の跡を見て……耐えていた理性が……切れた。

「ロイ!! ティナにティナに!!」

 アルフレットは、衝動的に激動に身を任せ……だけど泣きながらロイの首筋に牙を立てた……。 その涙はティナを思ってか、ロイを思ってか……アルフレット自身も分かっていない。 プチッと首筋の皮膚を牙が通り抜け、そのまま食いちぎろうとした。 だけど、口内に広がる血の匂いで正気を取り戻した。

 アレはロイの血だ……と。

「ぁ……」

 食いちぎる前に、口を離したのはアルフレットにとって幸いだった。
 もし、殺してしまえば大きな傷となっただろう。

 血の流れる首筋を抑え、静かに微笑むロイ……。

「ティナ様はもういません。 遅かったんですよ」

「来たじゃないか。 オレは……行く……から、オマエは傷の手当をしろ」

 訳の分からない行動への怒りと……殺さずに済んだ安堵。

 ロイは、怒りのままに殺して下さればよかったのに……そんな思いのまま静かに微笑んだ。 そうすれば、ティナ様もその本気を理解するかもしれないと……。

「ティナが居ないなら、ココに用はない」

 ロイはアルフレットを引きとめるよう、言葉を続ける。

「来てないと一緒ですよ。 私はティナ様に謝らなければいけません。 来ると言っていたのに、来なかったのですから」

「来たじゃないか。 ティナは何処だ?」

 ムッとしながらアルフレットは言えば、ロイは入り口から半分身体を出しているアルフレットに歩み寄り、首にかけてある皮紐をそっと奪った。

「返せ!」

「返しますよ。 それだけではなく倍にしてさしあげます」

 ティナが置いていった指輪を紐に通して、ロイはアルフレットの首に紐をかけ戻す。

「どういうことだ?」

「ティナ様は、ソレを置いて何処かへ行ってしまいました。 自主的にどこかに行かれたので、拉致でも監禁でもありません。 もう探す必要はありません。 今日は、ユックリとお休みになって、明日からの業務に備えてください」

「探さなくていいって、どういうことだ?!」

「ですから、呪いを解呪する方法をティナ様が見つけ、実行し、成功した。 そうなれば、もうティナ様の役目は終了です。 団長と一緒にいる必要もありません」

 あえて団長と、仕事上の付き合いだとロイは協調した。

「……迎えに行かないと」

「なぜ?」

 何故と問われれば、アルフレットは何故だろうと戸惑う。

 直ぐにココに来なかったのはオレじゃないか……。

 ずっとティナを追いかけまわしておきながら、嫉妬して、怒って……身勝手だと思う。 だから……追いかけるのを躊躇った。 オレに後を追う資格はあったのか?

 今のオレが、追いかける意味はあるのか?

 どうせ……無理なんだ……。

 オレと関わらない方が、彼女は幸せなんだ。




 騒々しい期間は10日ほどで終わりを告げた。
 幸福を感じた日々は……2.3日……。

 良い思い出……だったなぁ……。

 良い思い出だった。




 本格的に呪いの解除が行われるまで、少しばかり日が必要となる。
 アルフレットは、隊員たちが呪いを解く間もずっと狼の姿から人に戻ることはなく、ボンヤリと狼のまま過ぎ去る日々に身を任せていた。
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