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08.信用したいのにさせてもらえない殿下は、何処までも優しく微笑んだ
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モルトが先導する馬列には、ギルベルト様、赤髪のアリー、ルカ、へルティの他に私も混ざっていた。
どうしてこうなったのかと言うと、
リシィを偽って書かれた手紙をへルティがギルベルト様に見せたとき、そこにあったギルベルト様の反応は、へルティの予測とは違い不機嫌と不信と寂しさが入り混じったかのような複雑な表情だったそうです。
「これは、本当にリシェの手紙なのか?」
声こそ小さいものの、責めるように問われたへルティは、
「そのように聞いたからこそ、殿下にお渡ししたのです。 お気になるようでしたら、その手紙を持ってきたものを連れて参りますが?」
このように逃げたそうです。
そして、拠点に来て日も浅い人間である私が、殿下を動揺させるために手紙を偽造したということで場を回避しようという言う話でした。
「命の保証はします。 退職金は通常の3倍。 戦場で勤めるよりももっと有意義な勤務先を責任をもって斡旋します。 なので、あの手紙は貴方が私情によりかいたものだと殿下に話してください」
誠実……と言っていいのか……なんだか複雑な気分になります。
「わかりました。 その手紙は私が私の責任で書いたと殿下に説明いたしましょう」
「助かります」
殿下を惑わすために文章を偽造した犯罪者に対する周囲の視線は同情一択。 ここでの価値観は一般的ではないと言うのが良く分かる出来事でした。 そして、お手紙マニュアルはこうやって人を消耗しながら作っていたのですね。
その努力、別な方向で使えば宜しいですのに。
目的地は、拠点から少し離れた森の中。
馬での移動は、私は赤のアリーの前に乗せられています。
ちなみに……、ギルベルト様と、へルティには正体はバレてはいませんが、殿下の剣の師匠であり面識もあるアリーには、モルトとルカの様子から私が誰かバレてしまったようです。
アリーは、馬の移動速度を少しずつ少しずつ落とし、一行から距離を置きボソリと尋ねてきました。
「こんなところで、何をしているのですかねぇ?」
軽い口調だが、声色は明らかに責めていた。
アリーは私とギルベルト様の結婚を反対しなかった数少ない人の1人。 まぁ、賛成していただけた訳ではありませんけど……。
「そろそろ、色々と話し合う必要があるのかと思いまして……私も2年の間に色々と変化がありましたので……」
静かに視線を伏せながら私は語る。
「まぁ、ほんとうに色々大変だった……ようだな」
苦笑交じりの声に同情が混じる。
「最近は特に……。 日常を暮らす分には、良い人達に恵まれていますのでそう大変なことはありませんよ。 だからこそ、このままではいけないと思ったのです。 もし1人キリだったら、きっと私はいつまでもギルベルト様を待つことが出来たでしょうけど。 今は……私にも守りたい人達が出来てしまったので」
「それは、殿下ではないのが残念ですよ」
「さすがに2年も放置されますと、仕方がありませんわ」
沈黙に苦笑が混ざりこんでいるのが分かった。 アリーは誤魔化すように話を逸らしたが、
「さて、モルトと少年が気にしているみたいだ。 急ぎ……、ぁ、そういえば、モルトもアナタと同じ事を考え、行動しているのですが、待つ事はできなかったのですかね?」
「それは、モルトが私に秘密にしていたので、それに、私と旦那様との話を、他の者に決められるのは嫌だわ」
「なるほど、そういうところ嫌いじゃないですよ」
アリーは、長くギルベルト様の護衛を務め剣の師匠でもある男性で面識がある。 比較的恵まれた神の加護とギフトを持ちあわせ、それを利用する局面があったことから加護とギフトの違いを理解している。
これが、他の人達と違い、ギルベルト様の幸福を素直に願えた理由と言えるのではないでしょうか?
この世界でのヒエラルキーを決める『加護』と『ギフト』を研究している神殿所属の老神官フィンが加護とギフトを説明するとこんな感じでした。
加護とは、基本スペックの能力Upを示します。
誕生と共に加護が与えられているため、人々は個性として受け入れ神の加護として認識はしていない。
火系の神(腕力〇%増し)
風系の神(速度〇%増し)
全能の神(ALL〇%増し) 以下略
ギフトとは、技能や才能を言う。 神殿でそのギフトを鑑定することで、就職が優位になることもあり、一般的には職業適性として考えられている。
ただし、王族に対しては庶民の理想が高く、ギルベルト様に関しても必要以上の期待が向けられている。 ギルベルト様のギフトは、指定した部下に対する能力変化という他者に影響を与えることが出来る変わったギフトを持っている。
100人の部下の能力をUpするなら全体的に1%上昇。 これを基準とし、50人なら2%上昇、10人なら10%上昇、2人なら50%と一定の法則の元で、部下の能力をUpする。
リスクとしては、肉体が上昇率についていかない場合、大ケガを負う事。 そして、自分自身にはその力を使えないと言うこと。
「ところで、戦地に来た理由は分かったのだけど、なぜへルティと一緒に?」
私は、苦笑と言うか嫌味と言うか……多分複雑な声色になっていたと思う訳です、えぇ、少しばかり愚痴っぽく話してしまいました。
「それは、殿下をお宥めするために無色の娘からの手紙を偽造したものの、その偽造がばれた場合の責任を押し付けるため。 だそうです」
「あ~~~、アレかぁ……」
「非常に条件の良い退職金額に、新しい職場紹介等をされましたが、私には利用できないのが残念です。 まったく、事情も分からない戦場に来てまだ3日ですのに、酷い話ですわ。 それはともかく、髪の色や雰囲気が変わり過ぎていて、ギルベルト様だと一瞬気が付きませんでした。 いったい何が?」
「あ~~~、う~~~ん、神の約定はどうにも説明しにくいと言うか、神の都合で色々と変えてくると言うか、そうだなぁ……。 戦争宣言をしながら、真面目に戦争をせず、戦争を長引かせ民に不便を強いている殿下に対する神の罰と言うところでしょうか? というか、アナタこそその髪の色はどういうことですか」
「私は染めただけですわ」
「そ、そうですか……」
先を行く者達からかなり遅れ、到着した先ではダウン男爵が叫んでいた。
「私は、無謀にも国に対して反逆の意思を抱くリシェ殿に忠告をしに辺境まで訪れたのです。 ですが、彼女は私の忠告を無視し、自分を虐げた国を許さない。 自分の味方になれないなら、出て言ってくれと私を追いだしてしまいました。 そこで私は考えたのです!!」
泡を吹きながら語るダウン男爵を、ギルベルトはただじっと見つめていた。 その手には愛情に溢れたリシェから(とされている)手紙を握りしめる。
ダウン男爵が話せば話すほど、そこには嘘があると実感できた。
Aが真実を話しているならBは嘘を付いている。
Bが真実を話しているならAは嘘をついている。
ダウン男爵の言動と、へルティの言動を秤にかければ、そこには嘘……裏切りがあり、誰もが無益な争いがないようにと考えてきた自分が馬鹿に思えた。
自分の中の何かが限界を迎えているのをギルベルトは理解しつつも、彼は優しく問いかける。
「それで……どうしたのですか?」
ギルベルトの横には、手紙の内容と、男爵の言動の矛盾が、一言ごとに大きくなる様子に肝を冷やすへルティがいた。
「彼女が反逆の意思を露わにするのは、彼女に従う村人がいるから、それさえ失えば彼女は無力。 反逆もあきらめざる得ないだろうと、村を襲わせるという強硬手段に出たのです。 ですが、モルト殿があの不吉な女に騙されていた事から、このような状況に……どうか、私を……いえ、魔女によって騙されたモルト殿を助け、そして無実の私をここから解放してください!!」
「そうか、リシェはずっとあの土地に送られた事を恨んでいたのか」
「えぇ、そうです。 そうですとも。 あんなところに若い娘が送られ、なぜ、平気でいられましょうか!」
「そうか、参考になった。 同じ女性としてへルティは、どう思う……」
ギルベルトは、どこまでも優しい微笑みを浮かべたまま問えば、へルティは顔色悪く俯き、言葉を詰まらせ、傍観者たちは、状況が分からぬままその場を見守っていた。
「……ぁ、え……、私は……」
どうしてこうなったのかと言うと、
リシィを偽って書かれた手紙をへルティがギルベルト様に見せたとき、そこにあったギルベルト様の反応は、へルティの予測とは違い不機嫌と不信と寂しさが入り混じったかのような複雑な表情だったそうです。
「これは、本当にリシェの手紙なのか?」
声こそ小さいものの、責めるように問われたへルティは、
「そのように聞いたからこそ、殿下にお渡ししたのです。 お気になるようでしたら、その手紙を持ってきたものを連れて参りますが?」
このように逃げたそうです。
そして、拠点に来て日も浅い人間である私が、殿下を動揺させるために手紙を偽造したということで場を回避しようという言う話でした。
「命の保証はします。 退職金は通常の3倍。 戦場で勤めるよりももっと有意義な勤務先を責任をもって斡旋します。 なので、あの手紙は貴方が私情によりかいたものだと殿下に話してください」
誠実……と言っていいのか……なんだか複雑な気分になります。
「わかりました。 その手紙は私が私の責任で書いたと殿下に説明いたしましょう」
「助かります」
殿下を惑わすために文章を偽造した犯罪者に対する周囲の視線は同情一択。 ここでの価値観は一般的ではないと言うのが良く分かる出来事でした。 そして、お手紙マニュアルはこうやって人を消耗しながら作っていたのですね。
その努力、別な方向で使えば宜しいですのに。
目的地は、拠点から少し離れた森の中。
馬での移動は、私は赤のアリーの前に乗せられています。
ちなみに……、ギルベルト様と、へルティには正体はバレてはいませんが、殿下の剣の師匠であり面識もあるアリーには、モルトとルカの様子から私が誰かバレてしまったようです。
アリーは、馬の移動速度を少しずつ少しずつ落とし、一行から距離を置きボソリと尋ねてきました。
「こんなところで、何をしているのですかねぇ?」
軽い口調だが、声色は明らかに責めていた。
アリーは私とギルベルト様の結婚を反対しなかった数少ない人の1人。 まぁ、賛成していただけた訳ではありませんけど……。
「そろそろ、色々と話し合う必要があるのかと思いまして……私も2年の間に色々と変化がありましたので……」
静かに視線を伏せながら私は語る。
「まぁ、ほんとうに色々大変だった……ようだな」
苦笑交じりの声に同情が混じる。
「最近は特に……。 日常を暮らす分には、良い人達に恵まれていますのでそう大変なことはありませんよ。 だからこそ、このままではいけないと思ったのです。 もし1人キリだったら、きっと私はいつまでもギルベルト様を待つことが出来たでしょうけど。 今は……私にも守りたい人達が出来てしまったので」
「それは、殿下ではないのが残念ですよ」
「さすがに2年も放置されますと、仕方がありませんわ」
沈黙に苦笑が混ざりこんでいるのが分かった。 アリーは誤魔化すように話を逸らしたが、
「さて、モルトと少年が気にしているみたいだ。 急ぎ……、ぁ、そういえば、モルトもアナタと同じ事を考え、行動しているのですが、待つ事はできなかったのですかね?」
「それは、モルトが私に秘密にしていたので、それに、私と旦那様との話を、他の者に決められるのは嫌だわ」
「なるほど、そういうところ嫌いじゃないですよ」
アリーは、長くギルベルト様の護衛を務め剣の師匠でもある男性で面識がある。 比較的恵まれた神の加護とギフトを持ちあわせ、それを利用する局面があったことから加護とギフトの違いを理解している。
これが、他の人達と違い、ギルベルト様の幸福を素直に願えた理由と言えるのではないでしょうか?
この世界でのヒエラルキーを決める『加護』と『ギフト』を研究している神殿所属の老神官フィンが加護とギフトを説明するとこんな感じでした。
加護とは、基本スペックの能力Upを示します。
誕生と共に加護が与えられているため、人々は個性として受け入れ神の加護として認識はしていない。
火系の神(腕力〇%増し)
風系の神(速度〇%増し)
全能の神(ALL〇%増し) 以下略
ギフトとは、技能や才能を言う。 神殿でそのギフトを鑑定することで、就職が優位になることもあり、一般的には職業適性として考えられている。
ただし、王族に対しては庶民の理想が高く、ギルベルト様に関しても必要以上の期待が向けられている。 ギルベルト様のギフトは、指定した部下に対する能力変化という他者に影響を与えることが出来る変わったギフトを持っている。
100人の部下の能力をUpするなら全体的に1%上昇。 これを基準とし、50人なら2%上昇、10人なら10%上昇、2人なら50%と一定の法則の元で、部下の能力をUpする。
リスクとしては、肉体が上昇率についていかない場合、大ケガを負う事。 そして、自分自身にはその力を使えないと言うこと。
「ところで、戦地に来た理由は分かったのだけど、なぜへルティと一緒に?」
私は、苦笑と言うか嫌味と言うか……多分複雑な声色になっていたと思う訳です、えぇ、少しばかり愚痴っぽく話してしまいました。
「それは、殿下をお宥めするために無色の娘からの手紙を偽造したものの、その偽造がばれた場合の責任を押し付けるため。 だそうです」
「あ~~~、アレかぁ……」
「非常に条件の良い退職金額に、新しい職場紹介等をされましたが、私には利用できないのが残念です。 まったく、事情も分からない戦場に来てまだ3日ですのに、酷い話ですわ。 それはともかく、髪の色や雰囲気が変わり過ぎていて、ギルベルト様だと一瞬気が付きませんでした。 いったい何が?」
「あ~~~、う~~~ん、神の約定はどうにも説明しにくいと言うか、神の都合で色々と変えてくると言うか、そうだなぁ……。 戦争宣言をしながら、真面目に戦争をせず、戦争を長引かせ民に不便を強いている殿下に対する神の罰と言うところでしょうか? というか、アナタこそその髪の色はどういうことですか」
「私は染めただけですわ」
「そ、そうですか……」
先を行く者達からかなり遅れ、到着した先ではダウン男爵が叫んでいた。
「私は、無謀にも国に対して反逆の意思を抱くリシェ殿に忠告をしに辺境まで訪れたのです。 ですが、彼女は私の忠告を無視し、自分を虐げた国を許さない。 自分の味方になれないなら、出て言ってくれと私を追いだしてしまいました。 そこで私は考えたのです!!」
泡を吹きながら語るダウン男爵を、ギルベルトはただじっと見つめていた。 その手には愛情に溢れたリシェから(とされている)手紙を握りしめる。
ダウン男爵が話せば話すほど、そこには嘘があると実感できた。
Aが真実を話しているならBは嘘を付いている。
Bが真実を話しているならAは嘘をついている。
ダウン男爵の言動と、へルティの言動を秤にかければ、そこには嘘……裏切りがあり、誰もが無益な争いがないようにと考えてきた自分が馬鹿に思えた。
自分の中の何かが限界を迎えているのをギルベルトは理解しつつも、彼は優しく問いかける。
「それで……どうしたのですか?」
ギルベルトの横には、手紙の内容と、男爵の言動の矛盾が、一言ごとに大きくなる様子に肝を冷やすへルティがいた。
「彼女が反逆の意思を露わにするのは、彼女に従う村人がいるから、それさえ失えば彼女は無力。 反逆もあきらめざる得ないだろうと、村を襲わせるという強硬手段に出たのです。 ですが、モルト殿があの不吉な女に騙されていた事から、このような状況に……どうか、私を……いえ、魔女によって騙されたモルト殿を助け、そして無実の私をここから解放してください!!」
「そうか、リシェはずっとあの土地に送られた事を恨んでいたのか」
「えぇ、そうです。 そうですとも。 あんなところに若い娘が送られ、なぜ、平気でいられましょうか!」
「そうか、参考になった。 同じ女性としてへルティは、どう思う……」
ギルベルトは、どこまでも優しい微笑みを浮かべたまま問えば、へルティは顔色悪く俯き、言葉を詰まらせ、傍観者たちは、状況が分からぬままその場を見守っていた。
「……ぁ、え……、私は……」
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