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09.突然に話を振るのはやめてください
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その場にいる全員の視線がヘルティに集まった。
へルティが、手紙の責任を負わせるための女性文官へと視線を向ければ、困ったような顔をするばかり、長く共犯関係にあった者を連れてくれば良かったと後悔した。 昨日今日ここに来た相手では、察するべきものも理解できないだろう。
せめて、全部私の責任ですと狂乱状態に陥ったふりをしてくれれば、殿下は泣き叫ぶ女子供には甘く、もしかするとうやむやにしてくれるかもしれないのに。 そんな責任転嫁の方法ばかりを考え時間が過ぎていけば、ギルベルトは再びへルティに問いかけた。
「もう一度聞く、へルティ、オマエの持ってきた手紙は偽物か? 本物か? もしオマエが彼女のように辺境で使用人もなく暮らすとなった場合、それはどれほどの不幸だ?」
ダウン男爵は、昔からよくギルベルトの機嫌を取るため、自領土の鉄加工品を献上してきたおりに、側に仕えているヘルティも色々と受け取っているし、それなりに会話を交わしたこともあるが、手を組むような関係ではない。 爵位も加護もギフトも自分の方が上だ。
「私は全ての手紙を本物として受け取り、殿下にお渡ししております。 私自身は件の辺境を赴いた事はありませんが、噂を聞くばかりでは女性の身では確かにツライでしょう。 ですが!! 殿下の領地であれば、殿下を待っていると思えば、私なら耐えてみせます!!」
僅かの間を置き、
「先に住まいをしていた者達も……頼りになるものもいるようですし……」
「ヘルティ……オマエが、リシェを嫌っているのは十分に知っている」
「突然に何を」
「だから、俺は無駄な争いを生まぬよう、オマエの前ではリシェを語る事は一切なかったはずだが? なぜ……リシェの置かれた状況、いや……手紙に書かれていた内容を知っている?」
「わ、私は!! 殿下と無色が婚姻することが不幸だと思っていますが、無色の娘を嫌っている訳ではなく、だからこそあの無色の娘を気にかけていたのです」
「嫌っておらずとも出てくる侮蔑の言葉。 最悪だな。 あぁあああああ、もう、嫌だ、イヤだイヤだイヤだ!! 知っていた。 知っていたとも、オマエが長く嘘を付いていたことを。 なぜ気付かないと思う。 それほどまで俺が馬鹿だと思っているのか! 手紙の内容は常にモルトに確認していた。 リシェに疑念を抱くよう誘導はされていたが、嘘らしい嘘がない分には見逃した。 その方が身内内の争いを抑えられると思ったからだ!!」
幼い頃のギルベルトが、ヘルティを側に置いた理由は感情的で嘘が無かったから。 偽りばかりの大人たちの中で、良くも悪くも、例え彼女の情報、意見、考え方が間違っていても、彼女は自分が正しいと堂々と発言し、時に周囲が間違っていると癇癪を起した。 それは、彼女の心に嘘がないから出来るのだと、嘘を付かない彼女を大切にしてきたのだ。
リシェを嫌う言葉ですら、彼女のつく嘘すら真実からくる偽りであり、彼女は嘘を付けない人間なのだと自らを偽り続けた。 でなければ、自分が余りにも惨めで孤独だったから。
「俺を謀る事しか考えぬオマエは、俺にとって無価値だ」
冷ややかに見下すようにいい、視線を背けた。
去れ等と親切な言葉が掛けられる事はなく、ヘルティはイライラと感情を乱すギルベルトの気配にあてられる羽目になる。 せめて、意識を失えたなら……。 強健のギフトを恨めしく思ったことは、この時ほどなかった。
ギルベルトは改めてダウン男爵へと視線を向ける。
「ぇ、あ、は、その、いったい何が……」
ずっとダウン男爵の言い訳を受け入れるかのようにギルベルトは問いかけていた。 自分を信じたからこそ急にヘルティへの糾弾となったなら、これはチャンスだと思った。
不安を演出しつつ、心の中ではニタリと笑う。
「男爵、リシェが俺を憎み裏切ったと言う証拠を提示していただけるのでしょうね」
「へっ?」
「だから、証拠を出せと言っている」
「証拠など……。 長くギルベルト様につかえて来た私を信用してはくれないのですか!」
「長く、偽りを持って仕えた人間がそこにいる」
「心情的なものを考えれば……国を憎む気持ちも当たり前だと……」
「国は俺を追い詰めるために不毛な大地を俺に寄越し、俺はリシェをそこへおくりこんだ。 だから彼女は国と俺を憎むのは当たり前だと」
「は、はい……」
「ならば、悪いのは俺だろう?」
「ぇ、あ……」
肯定しても否定しても逃げ道はない。
ギルベルトは全てが嫌になっていた。
放棄したいと考えていた。
優しくしてくれた? 下心があったからだろう。
良い人達だ? 所詮は都合の良い嘘まみれだ。
民を大切に? 不満ばかりの民が何をしてくれる。
無色であるリシェとの婚姻を許さないと言っても、時間をかければ皆が理解してくれると考えていた。 甘い考えだった。
民の期待に応えなかった自分には罰が必要だと言うなら……あえて、自ら騎士や兵士を引き連れ、防衛任務についた。 結局嫌なものを聞かずに済む場所へと逃げただけだった。
リシェに会えない……。 それすらも、苦難を乗り越え愛し続けていたなら、人々は認めてくれるのではないかと思っていた。 だが、人は彼女を無色と呼び、人としてすら認識してない。
貧しい戦場生活。
部下達は騎士どころか兵士ですらなく、マトモに剣すら持てない。 殿下の軍に入れたなら、うちの息子でも戦果をあげられると送り込んだ貴族の多いこと。 多いこと。 馬鹿馬鹿しくて笑いそうになる。
確かに彼等は成果をあげたさ。
何しろ敵が、ろくに武器も持てぬ老人ばかりだからな。
もう嫌だ。
何もかも嫌だ。
「ダウン男爵、オマエは嘘をついている。 リシェがどうしているか、モルトから常に報告を受けている」
「ですから、そのモルト殿が!!」
「そして、先代の大神官と元聖女がついている」
「ぇ?」
「俺が地位も名誉も関係なしに妻に迎えたいとした相手を、なんの保険もなしに放り出したと思っているのか? あの地に送ったのは、あんな土地であれば、オマエのような輩が頻繁に来ないからだ。 そして、村人と取引をしているのはリシェではなく俺だ。 俺が迎えに行くまで守り切れば、戸籍をやり俺の配下として迎えようと」
「そんな……我々を騙していたと言うのですか……」
「何をもってだまして……いや、もう、いい」
「そういうわけにはいきませんぞ!! 私共は、殿下を主とし仕えるために存在しています。 そんな私共を裏切り、罠に嵌めるような行為許される訳がありませんぞ!!」
「では、そう訴えるがいい……どのみち、オマエには俺が王に相応しくないと声高に叫ぶしか、生きる道は残っていない。 俺が王となれば、オマエは俺に、俺の大切な人に対して牙をむいた反逆者となるのだからな」
「そんな……全てが貴方様を思って」
ギルベルトが冷ややかな視線を向けた後に背を向けてしまえば、ダウン男爵は緊張した面持ちの内側に安堵を隠し黙り込んだ。
男爵は、最悪な状況は避けていると、自分の感情を押さえつける。 冷静をかけば判断が狂う。 今、悪い状況であったとしても、抜け出す手段はあるはずだ。 何しろ私は長く殿下を支持し支援しているのだからな……。
「ヘルティ、敵と通じている黒幕は誰だ?」
そしてギルベルトは再び追求の矛先をヘルティへと変えた。
「黒幕とは何のことでしょうか?」
「2年も、このくだらない戦争を長引かせようと、ウォルランドと手引きをしている奴のことだ」
「私は、知りません」
「政治的な配慮は任せていたと思っていたが、実は何もしておりませんでしたと言う奴なのか?」
「ぇ、えぇ、そうです。 そこの女に指示をされていただけ、私は何も知らないんです!!」
予想外のタイミングに、リシェは驚き声を上げた。
「ぇ?」
へルティが、手紙の責任を負わせるための女性文官へと視線を向ければ、困ったような顔をするばかり、長く共犯関係にあった者を連れてくれば良かったと後悔した。 昨日今日ここに来た相手では、察するべきものも理解できないだろう。
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「もう一度聞く、へルティ、オマエの持ってきた手紙は偽物か? 本物か? もしオマエが彼女のように辺境で使用人もなく暮らすとなった場合、それはどれほどの不幸だ?」
ダウン男爵は、昔からよくギルベルトの機嫌を取るため、自領土の鉄加工品を献上してきたおりに、側に仕えているヘルティも色々と受け取っているし、それなりに会話を交わしたこともあるが、手を組むような関係ではない。 爵位も加護もギフトも自分の方が上だ。
「私は全ての手紙を本物として受け取り、殿下にお渡ししております。 私自身は件の辺境を赴いた事はありませんが、噂を聞くばかりでは女性の身では確かにツライでしょう。 ですが!! 殿下の領地であれば、殿下を待っていると思えば、私なら耐えてみせます!!」
僅かの間を置き、
「先に住まいをしていた者達も……頼りになるものもいるようですし……」
「ヘルティ……オマエが、リシェを嫌っているのは十分に知っている」
「突然に何を」
「だから、俺は無駄な争いを生まぬよう、オマエの前ではリシェを語る事は一切なかったはずだが? なぜ……リシェの置かれた状況、いや……手紙に書かれていた内容を知っている?」
「わ、私は!! 殿下と無色が婚姻することが不幸だと思っていますが、無色の娘を嫌っている訳ではなく、だからこそあの無色の娘を気にかけていたのです」
「嫌っておらずとも出てくる侮蔑の言葉。 最悪だな。 あぁあああああ、もう、嫌だ、イヤだイヤだイヤだ!! 知っていた。 知っていたとも、オマエが長く嘘を付いていたことを。 なぜ気付かないと思う。 それほどまで俺が馬鹿だと思っているのか! 手紙の内容は常にモルトに確認していた。 リシェに疑念を抱くよう誘導はされていたが、嘘らしい嘘がない分には見逃した。 その方が身内内の争いを抑えられると思ったからだ!!」
幼い頃のギルベルトが、ヘルティを側に置いた理由は感情的で嘘が無かったから。 偽りばかりの大人たちの中で、良くも悪くも、例え彼女の情報、意見、考え方が間違っていても、彼女は自分が正しいと堂々と発言し、時に周囲が間違っていると癇癪を起した。 それは、彼女の心に嘘がないから出来るのだと、嘘を付かない彼女を大切にしてきたのだ。
リシェを嫌う言葉ですら、彼女のつく嘘すら真実からくる偽りであり、彼女は嘘を付けない人間なのだと自らを偽り続けた。 でなければ、自分が余りにも惨めで孤独だったから。
「俺を謀る事しか考えぬオマエは、俺にとって無価値だ」
冷ややかに見下すようにいい、視線を背けた。
去れ等と親切な言葉が掛けられる事はなく、ヘルティはイライラと感情を乱すギルベルトの気配にあてられる羽目になる。 せめて、意識を失えたなら……。 強健のギフトを恨めしく思ったことは、この時ほどなかった。
ギルベルトは改めてダウン男爵へと視線を向ける。
「ぇ、あ、は、その、いったい何が……」
ずっとダウン男爵の言い訳を受け入れるかのようにギルベルトは問いかけていた。 自分を信じたからこそ急にヘルティへの糾弾となったなら、これはチャンスだと思った。
不安を演出しつつ、心の中ではニタリと笑う。
「男爵、リシェが俺を憎み裏切ったと言う証拠を提示していただけるのでしょうね」
「へっ?」
「だから、証拠を出せと言っている」
「証拠など……。 長くギルベルト様につかえて来た私を信用してはくれないのですか!」
「長く、偽りを持って仕えた人間がそこにいる」
「心情的なものを考えれば……国を憎む気持ちも当たり前だと……」
「国は俺を追い詰めるために不毛な大地を俺に寄越し、俺はリシェをそこへおくりこんだ。 だから彼女は国と俺を憎むのは当たり前だと」
「は、はい……」
「ならば、悪いのは俺だろう?」
「ぇ、あ……」
肯定しても否定しても逃げ道はない。
ギルベルトは全てが嫌になっていた。
放棄したいと考えていた。
優しくしてくれた? 下心があったからだろう。
良い人達だ? 所詮は都合の良い嘘まみれだ。
民を大切に? 不満ばかりの民が何をしてくれる。
無色であるリシェとの婚姻を許さないと言っても、時間をかければ皆が理解してくれると考えていた。 甘い考えだった。
民の期待に応えなかった自分には罰が必要だと言うなら……あえて、自ら騎士や兵士を引き連れ、防衛任務についた。 結局嫌なものを聞かずに済む場所へと逃げただけだった。
リシェに会えない……。 それすらも、苦難を乗り越え愛し続けていたなら、人々は認めてくれるのではないかと思っていた。 だが、人は彼女を無色と呼び、人としてすら認識してない。
貧しい戦場生活。
部下達は騎士どころか兵士ですらなく、マトモに剣すら持てない。 殿下の軍に入れたなら、うちの息子でも戦果をあげられると送り込んだ貴族の多いこと。 多いこと。 馬鹿馬鹿しくて笑いそうになる。
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何もかも嫌だ。
「ダウン男爵、オマエは嘘をついている。 リシェがどうしているか、モルトから常に報告を受けている」
「ですから、そのモルト殿が!!」
「そして、先代の大神官と元聖女がついている」
「ぇ?」
「俺が地位も名誉も関係なしに妻に迎えたいとした相手を、なんの保険もなしに放り出したと思っているのか? あの地に送ったのは、あんな土地であれば、オマエのような輩が頻繁に来ないからだ。 そして、村人と取引をしているのはリシェではなく俺だ。 俺が迎えに行くまで守り切れば、戸籍をやり俺の配下として迎えようと」
「そんな……我々を騙していたと言うのですか……」
「何をもってだまして……いや、もう、いい」
「そういうわけにはいきませんぞ!! 私共は、殿下を主とし仕えるために存在しています。 そんな私共を裏切り、罠に嵌めるような行為許される訳がありませんぞ!!」
「では、そう訴えるがいい……どのみち、オマエには俺が王に相応しくないと声高に叫ぶしか、生きる道は残っていない。 俺が王となれば、オマエは俺に、俺の大切な人に対して牙をむいた反逆者となるのだからな」
「そんな……全てが貴方様を思って」
ギルベルトが冷ややかな視線を向けた後に背を向けてしまえば、ダウン男爵は緊張した面持ちの内側に安堵を隠し黙り込んだ。
男爵は、最悪な状況は避けていると、自分の感情を押さえつける。 冷静をかけば判断が狂う。 今、悪い状況であったとしても、抜け出す手段はあるはずだ。 何しろ私は長く殿下を支持し支援しているのだからな……。
「ヘルティ、敵と通じている黒幕は誰だ?」
そしてギルベルトは再び追求の矛先をヘルティへと変えた。
「黒幕とは何のことでしょうか?」
「2年も、このくだらない戦争を長引かせようと、ウォルランドと手引きをしている奴のことだ」
「私は、知りません」
「政治的な配慮は任せていたと思っていたが、実は何もしておりませんでしたと言う奴なのか?」
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