【R18】旦那様の部下達は、私を妻だと認めたくないらしい。 ですが、アナタ方の許可など必要ありませんよね?

迷い人

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16.戦争準備

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 ギルベルトは自分に逆らう者、そして甘言、苦言を持って自分を支配しようとする者を放棄することとした。 これは個人ではなく、国や民のレベルに及ぶこととなる。

 ギルベルトが統治するはずだったフランセンという国は王都を中心に農業、畜産、林業等が栄えた国であった。 過去形なのは、2年前から、国は渇水、洪水と水に対する災害が増加し始め、生活に必要な生産量すらキープできなり、日常の生活にも影響が出てきたためである。

 ギルベルトが国、民を放棄しようとした理由は数多くあるが、決め手と言えば貴族から庶民まで問わす、リシェを敵として思想の暴走が始まったと、一旦王都に向かった老神官フィンから報告があったためである。

 ギルベルトが無色であるリシェと婚姻したことで神が起こり災害をもたらせたと、人々が考えているせいであり、もはやリシェを人柱として神に捧げなければ収まらない状況まで来ているという。

 ダウン男爵の行動もその一環であったそうだ。

 そこでギルベルトは、王都の貴族院に対してリシェとの離縁をほのめかし、時間稼ぎを行い、銀狼一族を戦場へと呼び寄せる事とした。 信用できる私兵を使って戦争を終わらせる決意をしたためであり、今後の計画にも都合が良いためだった。

 老神官フィンは、神殿本部に戻り2年間の研究資料と共に演説を行う。

『過去幾度か無色に対して研究が行われた。 禁書とされる中には神の加護ではなく、より人間社会に近い恩恵を人に与える精霊の加護を得られるとされた書物もある。 人は階級社会の最下層として無色を置く事で、自らよりも悲惨な存在を持つ事で、人々の不満を抑え混んできた一面が存在していた。
 だが、現実にはどうだ! 無色が居住先を変えれば、同時に精霊達も居住先を変えて、土地が得ていた加護は失われ、新たな転居先が豊かな環境を得ている。 無色の持つ力の見直しをし、先見の明を持ち、無色の娘を妻と迎えた主に、私は残された人生の全てを持って仕えようと思う。 国ではなくギルベルト様個人についても構わないと言うものは、私と共にくるがいい』

 このような演説をかます事で、孤児院上がりの神官達を中心に、そこそこの数の神官がフィンと共に戦場へと集まる事となった。



「アンタがリシェを泣かせていた甲斐性なしかぁあああああああ、とぉう!」

 銀狼一族が集まり、新しい簡易拠点を作っている場へと、視察&挨拶&打合せのためにギルベルトが訪れれば、ものすごい速さで駆け寄ってくる幼い子供がいた。

「誰が甲斐性なしだ……」

 思わず、突進してくるアビィを足裏でとめてしまう。 小さな女の子に酷いと思いだろうが、それだけアビィは素早く、あえてぶつかるのを許容するか、リーチのある足を使うしかなかったと言うのがギルベルトの言い訳であった。

「僕の攻撃を止めるとは、なかなかやるな……リシェを泣かせていたロクデナシの癖に」

 攻撃力を上げようとしたのか小さな子犬大の狼となったアビィだが、重量が減った分、前両足の間に足を入れられ、アビィのお腹が足の甲に乗せられ、そして軽く、あくまでも軽いソフトな感じで、ギルベルトは銀狼族の長ルフにむかって、放られた。

「ぅおおおおおおお」

 ルフは驚きながらも受け止めた。 何をしてるんですか! そう文句を言おうとしたが、アビィはルフに対して目をキラキラさせながら、興奮状態で訴える。

「もう1度、もう1度」

「……オマエは……あのな、よく考えろ、受けて貰えなかったらどうするんだ。 落ちるぞ?」

「大丈夫、アビィは運動神経がいいからな。 くるりんって地面に綺麗に着地、いや、その際には見事、リシェを泣かした男に蹴りを入れてやる」

 まぁ、そんなこんなで喜ぶアビィを、ギルベルトとルフでキャッチアビィを繰り返せば、子供らしい歓喜の叫びが周囲に響く。

「次は、上にもっと高くがいいぞ!!」

 キラキラお目目で、ギルベルトに言えば、ギルベルトはブスっとしながら、

「もう疲れた……」

「あと1回、あと1回!!」

 そう言われてギルベルトは、アビィを空高くに思い切り投げた。 上空で両手両足を広げるアビィは次はモモンガのようマントをつけて飛ばしてもらおう!! 等と真剣に考えれば強風で流されたアビィはルフの場所からずれ、兄ルカが落下地点となっていた。

「な、何しているんですか!!」

 悲鳴に近いリシェの叫びがこだまする。 宙を飛ぶアビィの姿に、リシェが眩暈を起こしフラリと倒れそうになれば、ギルベルトがリシェを支えた。

「リシェ!!」

 叫びながら落下するアビィは、落下地点で受け止めようと手を伸ばしていた兄ルカを無視し、ルカの肩を蹴りつけリシェに向かってジャンプして走り出し、リシェを支えるギルベルトも含めて周囲をグルグルとかけめぐった。

「リシェ、リシェ!! 元気だったか? 甲斐性なしに虐められなかったか?」

 そんなアビィの言葉を無視して、リシェは銀色のフワモコ子犬のアビィを抱きしめた。 もふもふとその毛並みを堪能していれば、肉球付きの小さな手でリシェを撫でるアビィ。

「まったく、リシェは寂しがり屋でアビィがいないとダメダメだなぁ……一緒にいれなくて寂しかったけど、アビィは前よりずっと綺麗になったリシェと再会できてうれしいぞ」

「うん、私もアビィにあえて嬉しいよ。 それより急な引っ越しの大変だったでしょう?」

「リシェに会えるって考えれば引っ越しぐらい大したことないさ。 それにリシェがいないと植物の生育が悪くなるから、仕事も減ってしまうし」

 ヤレヤレと小さなアビィは肩をすくめ、そしてニッコリ笑いアビィはリシェに言う。

「やっぱりリシェはアビィにとっての女神だよ」

 アビィの首元がギルベルトにつままれ、宙づりとなった。

「何、人の妻を口説いているんだ」

「口説いてなんかいないさ。 アビィは正直ものだからね、美人で可愛らしいリシェを褒め讃えずにはいられないんだよ」

 1月によるリシェとの甘い生活は、ギルベルトの不安定を落ち着かせ、そして彼の決意は国の支配者となることは放棄したが、正しい力の使い方をするようになったことで、髪色も本来の色を取り戻していた。

「うふふ、アビィはシバラク見ない間に大きく、以前よりも格好よくなったわね」

「わかるか?! 身長が2センチも伸びたんだ!!」

 今は狼だからよくわからないが、アビィとの再会が嬉しいリシェはウンウンと頷いて見せる。

 アビィは放せぇええとギルベルトの手から、勢いをつけて逃れリシェの腕の中に飛んでいく。

 物凄い慌ただしさに、ギルベルトは銀狼族の長ルフに視線を向けた。

「アレはなんだ?」

「ファン? でしょうかねぇ……ただ、チビッ子ですが能力は確かですよ。 小回りがきくし、動きも素早い、身を隠すのも適している諜報タイプですが、それに、何かあってもリシェ様だけは絶対に助けるでしょう。 そこは安心してください」

「ふん」

「あと、女の子なんで嫉妬しないでやってください。 単純に憧れているだけだから」

「あそこまで褒め散らかしておいて憧れだけと言われてもな。 リシェもまんざらでないのが腹立たしいと言うか」

「子供にやきもちは恰好悪いですよ。 というか、リシェ様は子供好きなんですねぇ。 お子様は女の子と男の子どちらがいいです?」

 前半はギルベルトに後半はリシェにかけられた言葉だった。

「ぇ?」

 ルフにたずねられたリシェは、モジモジしながらアビィをもちゃもちゃしてアビィの背中で顔を隠し、お腹をもふもふもふしはじめる。

「うおおぉお、やめやめ、リシェ、そこは、うひゃひゃははっは」

 アビィが暴れだし、ハッとしたリシェがアビィを下ろした。

「えっと、元気ならドチラでも……ギルベルト様は?」

 頬を赤らめ聞いてくるリシェを見れば、割と色々どうでもよくなるギルベルトだった。

「まぁ、元気なら俺も……。 そうだな、うん」

「アビィは、立派な姉にならなければいけないから、早く落ち着きたのだが、早く戦争を終えるために出来ることはないか?」

 割と真顔でギルベルトにたずねるアビィだった。

「そうだな……チビっこに働いてもらうか……」

「任せろ!!」



 そうして、アビィをはじめとする機動力の高い子供達を中心に、偵察部隊が組まれる事となった。 ギルベルトは敵と通じている黒幕すら無視し、敵の戦力を無効化する術を考えていた。

「コチラから開戦宣言を行い、本隊の全軍を突撃させると言っても、文官も含めて200程度だがな。」

「それは、無謀なのでは? 拠点の治安管理500、設備、建築を行う若い者が500、一般人が1000、農業従事者が4000程いたぞ?」

 と言うのがアビィ達が数日間潜入した調査結果だった。

「まぁ、別に皆殺しにする必要はないからな。 それに今、敵の主力兵士数を言わなかった事をみれば、この戦いがオカシイ事は気付いているよな?」

「アレは……兵士じゃない。 死にかけた老人や病人だ」

「そうだ。 敵は自国で出来ない口減らしを、敵であるコチラに押し付けている。 だから、それは相手にする必要がない。 狙うのは拠点の責任者。 治安管理、戦力となりそうな若い男性の制圧。 それもまともに戦う必要はない」

 そして、3日後、ギルベルトは反対を一切聞き入れる事無く、戦場に老若男女問わず戦場へと投入した。 
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