モフモフ叔父との田舎暮らしがカオスすぎる

迷い人

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02.パンダ叔父、居座り宣言

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 まあ、それは兎も角。

 私は、お茶を淹れるパンダのモフモフした背中を、呆然と見つめていた。

 キッチンで手慣れた様子で煎茶を淹れるその姿。脱いだ革ジャンの下からは「I♡Bamboo」と刺繍されたTシャツがチラリと見えた。 私を姪と呼ぶための叔父アピールが空回り、ただのオジサンアピールになっているような気もしなくはないが、問題はそこではない。

 奇妙な親しみアピールのおかげで、私は逆に冷静になってきた。

「え?」

 冷静? レイ……セイ?

 音もたてず移動する野生のままに近寄り、お茶が置かれ……テーブルの上に置いていたクッキーが半分になっている。

 パンダがモグモグと、妙に満足げに咀嚼する音が響く。

「……あ、勝手に頂いているぞ、姪っ子ちゃん」

 パンダがサングラスをずり下げ、つぶらな瞳でこちらをチラリと見る。

「腹が減っててな。ハハ、まいったまいった!」

 その笑顔、ニヒルなつもりだろうけど、クッキーの欠片がモフモフの口元にくっついている。

「いえ、どうぞ……って、パンダって笹しか食べないんじゃ? 庭に竹、めっちゃ生えてるよ?」

 私は窓の外を指差す。祖父母が植えたらしい立派な竹林が揺れていた。

「そりゃ偏見ってもんだぜ、姪っ子ちゃん」

 パンダが緑っぽいスティック(竹? タバコ!?)を咥え直し、窓の外をじっと見つめる。その目が、なんか……ギラついている!?

「まあ、あの竹林、確かに……いい感じだな。フッ、悪くないぜ」

 ……なんで急に裏路地の不動産屋みたいな口調になるの!?

「え、ちょっと、そんなに竹林ガン見するのやめてくれない? 嫌な……」

 予感が、という言葉を最後まで言わせてくれず、パンダが立ち上がった。わざわざ革ジャンを羽織り、バサッと翻してドヤ顔ポーズ。

「レディース&ジェントルマン! 実は……!」

「は!?」

 パンダがサングラスを外し、つぶらな瞳をキラキラさせてニヤリ。

「明日から、こちらでお世話になります。どうぞ、よろしくお願いします」

 最後は妙に丁寧な物言いとお辞儀。

 ……え、なに!? 急に住み込み宣言!?

「待って、意味わかんない! なんで!?」

 私の頭がパニックになる中、パンダがモフモフの手で謎の名刺を取り出した。

 そこには「アニマルセラピー家政婦パンダ・極(ゴク) 身の回りのお世話&癒し効果抜群!」と書いてある。……極って誰!?

「ご両親からの依頼だよ、姪っ子ちゃん。一人暮らしの療養生活、心配だってさ」

 パンダが慣れた口調で続ける。

「家事全般、掃除、洗濯、料理、なんでもござれ! 特に中華は任せな! 麻婆豆腐、食ったことねぇだろ?」

 ……いや、あるよ! てか、なんでそんなドヤ顔!?

「ちょっと待って! 両親に確認するから!」

 私がスマホを手に取ると、パンダがニヤリと牙を見せた。

「どうぞどうぞ。その間に夕飯の準備すっか。……お、庭の竹、めっちゃ新鮮そうだな」

「私、竹食べないから!!」

「偏食は良くないぞ」

 その目、さっきよりギラギラしてるんだけど!? 竹林に何か企んでる!? 両親はどちらも電話に出ない……ならばとパンダが持ってきた荷物を開けると、中にはペラペラの冊子が。

『アニマルセラピー家政婦パンダ・極 取扱説明書』

 1ページ目に「仲良くしてね♡」とだけ書かれていて、後は全部白紙。

 ……白紙!?

「はぁ!? これだけ!? 何この詐欺みたいな説明書!」

 私は冊子を壁にペシッと投げつける。情けない音が響く。

「パパ、ママ、いい加減にしてよ! パンダ雇うって何!? ってか、パンダが伯父?!」

「お気持ち、よぉくわかるが、ようは慣れってもんだ」

 パンダがエプロン(どこから出した!?)を器用に結びながら、やけに落ち着いた口調で言う。

「みんな最初はそう言うんだ。でもな、三日もすりゃ俺の魅力にメロメロだぜ」

 ……なんでそんな自信満々なの!? てか、ウインクやめて! 怪しいオジサン感が増すだけだから!

「アニマルセラピーって何!? 普通の家政婦じゃダメだったの!?」

 私が叫ぶと、パンダが冷蔵庫をガサゴソ漁りながら答える。

「普通の家政婦じゃ、癒し効果が足りねぇだろ? 俺のこのモフモフ、つぶらな瞳、最高のストレス解消マシンだぜ」

「とりあえず、今日一日、俺の実力見てみな」

 パンダが麻婆豆腐の材料を並べながら、ニヒルに(たぶん)笑う。

「料理、掃除、洗濯、そして……極上の癒しを提供してやるぜ」





 夕方、キッチンから漂う麻婆豆腐の香り。……めっちゃ美味そう。掃除も完璧、洗濯物はふわふわ。パンダ、仕事はガチだ。

「どうだ、姪っ子ちゃん?」

 パンダがモフモフの手で皿を差し出し、期待の目で見つめてくる。

「……まあ、悪くない、かも」

 私が渋々認めると、パンダが「やったぜ!」と手を叩いた。

「とりあえず、訳の分からない服は脱ぎなさい」

 可愛さ激減の怪しい革ジャンとTシャツを引き剥がそうとすると、低音の悲鳴が鳴り響いた。

「いやぁああああああ、えっちぃいいいいい」

 普通のパンダに+αと思えば。自分の脳がバグっていることに、私はまだ気づかなかった……。

 夜、寝る前。

「おやすみ、姪っ子ちゃん。明日からもよろしくな」

 パンダがソファで毛布にくるまり、片目でウインク。

 微妙な可愛さがズルい。そんなことを考えながら、私は思うのだ。

「彼の部屋、準備しないとなぁ……」
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