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05.知恵者(自称)は苦悩する 02
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クレイン男爵領の者達は戦装備を作る職人で、口下手で不愛想で顔が怖い。 その割に戦に出る事はなく、彼等が作る戦装備は、他所と比べて高額だ。
だが、今のコラール国の民では、良い防具を高く買うのも、庭先の木で板を作り胸に仕込むのも同じ。 どうせ、殺されてしまうのだ。 だからクレイン男爵領の者達は評判が悪い。
気の毒な話だ。
敗戦の責任を押し付けられるのだから。
あぁ、気の毒だ、可哀そうに。
だが、評判は悪いが浪費は好まぬらしく、金は持っていた。
守銭奴め。
鬼のようだ。
亡者のようだ。
人の血を糧に生きる魔物だ。
そんな風に言われているが、実のところ情にあつく、無口で損をしているに過ぎない。 そして、体質的に一族の大半が、酒に弱く情報を仕入れるのは難しくはなかった。
娘を嫁に貰い持参金を得る話を煮詰めるなど容易だった。
唯一悩んだことと言えば、大人しい末の娘を妻にしたかった事ぐらいである。
男爵家の娘は4人おり、順番から言えば長女を嫁に貰うのが順当だ。 だが、長女は口が達者で、頭を良く、気が強い。 妻に迎えるなら気の弱い末娘が都合が良いが……さて、どうすれば、大人しいと評判の末娘を得ることが出来るだろう。 そう考えた。
選んだ手段が、ツガイだから末娘でないといけないと言う方法。 会ってしまえばツガイでない事はバレてしまうだろう。 だからクレイン男爵の者が混乱しそうな、理屈まみれの書状で丸め込んだ。
今更、持参金を台無しにするものか。
幼くあどけなさの残る娘を案じる家族は、彼女のためと言えば金を出す約束を容易に交わしてくれた。 最近は、クレイン男爵家の装備品を高いだけの役立たずと、敬遠する者も多いが、将来的に自分の名を貸して商売をさせるのも悪くないと算段をたてていた。
嫌われ者のクレイン男爵領は宝の宝庫。
だから、娘を逃がすわけにいかない!!
妻の名は与えるが、妾として扱い、適度に機嫌を取り、実家から金を引き出してもらおうと考えて居た。
まさか、初夜を無視されておいて、祝いの場に出てくる豪胆さがあるとは想像もしていなかった。 初夜に訪れぬ夫に泣き濡れるものだとばかり思っていた。
挙句、私を自分のツガイではないと叫びだす。
これでは、どう細工しても計画倒れだ……妻となった女と、それと共にいる鳥を殺さない事には計画倒れだ……。
逃がしさえしなければいい。
生きていようと、死んでいようと、領地に戻らなければいい。
そうすれば偽物の娘を仕立て上げることができる!!
「殺せ! 殺せ!! 殺すんだ!! たかが鳥も殺せぬとは、なんという無能だ!! 誰でもいいそこの鳥を殺した者には、集まった祝いの品を分け与えよう。 王との謁見の折には盟友として連れ立とう。 我が子の妻と迎えさせよう」
その声は、大広間の屋根がメシメシと剥がされる音で掻き消えた。 物凄い音を立て、人のいない中庭に、屋根は投げ捨てられる。
覗きこむ顔は、巨大なトカゲ。
凶悪な瞳は、ホセを睨んだ。
「帰るぞ」
羽を持つ巨大トカゲがそう言えば、白フクロウは妹に、小鳥に身を変えるようにと促した。 現れたのは朝焼け色の小さな小鳥、それを甘く咥えた白フクロウは、差し出される巨大トカゲの手に乗っかった。
「何者だ!!」
「アレは、何処の誰だ!!」
人々は叫んだ。
貴族達は興奮に沸き立っていた。
「コラールにアレほどの力あるものが存在したとは!」
「アレは何者だ!」
「(竜は)あんな奴等など、知らぬ!!」
ホセ・バスクは言い張る。
クレイン男爵家を利用しようとしたことは知られる訳にはいかない。 悪名高きクレイン男爵家と繋がりを持ったと知られる訳にはいかない。 同類に見られてしまえば、気の毒だと同情を得る事などできなくなる。
いや、クレイン男爵家に騙された。
……あぁ、そうだ、そうしよう!!
ホセ・バスクは、ベールの奥でニヤリと笑う。
だが、今のコラール国の民では、良い防具を高く買うのも、庭先の木で板を作り胸に仕込むのも同じ。 どうせ、殺されてしまうのだ。 だからクレイン男爵領の者達は評判が悪い。
気の毒な話だ。
敗戦の責任を押し付けられるのだから。
あぁ、気の毒だ、可哀そうに。
だが、評判は悪いが浪費は好まぬらしく、金は持っていた。
守銭奴め。
鬼のようだ。
亡者のようだ。
人の血を糧に生きる魔物だ。
そんな風に言われているが、実のところ情にあつく、無口で損をしているに過ぎない。 そして、体質的に一族の大半が、酒に弱く情報を仕入れるのは難しくはなかった。
娘を嫁に貰い持参金を得る話を煮詰めるなど容易だった。
唯一悩んだことと言えば、大人しい末の娘を妻にしたかった事ぐらいである。
男爵家の娘は4人おり、順番から言えば長女を嫁に貰うのが順当だ。 だが、長女は口が達者で、頭を良く、気が強い。 妻に迎えるなら気の弱い末娘が都合が良いが……さて、どうすれば、大人しいと評判の末娘を得ることが出来るだろう。 そう考えた。
選んだ手段が、ツガイだから末娘でないといけないと言う方法。 会ってしまえばツガイでない事はバレてしまうだろう。 だからクレイン男爵の者が混乱しそうな、理屈まみれの書状で丸め込んだ。
今更、持参金を台無しにするものか。
幼くあどけなさの残る娘を案じる家族は、彼女のためと言えば金を出す約束を容易に交わしてくれた。 最近は、クレイン男爵家の装備品を高いだけの役立たずと、敬遠する者も多いが、将来的に自分の名を貸して商売をさせるのも悪くないと算段をたてていた。
嫌われ者のクレイン男爵領は宝の宝庫。
だから、娘を逃がすわけにいかない!!
妻の名は与えるが、妾として扱い、適度に機嫌を取り、実家から金を引き出してもらおうと考えて居た。
まさか、初夜を無視されておいて、祝いの場に出てくる豪胆さがあるとは想像もしていなかった。 初夜に訪れぬ夫に泣き濡れるものだとばかり思っていた。
挙句、私を自分のツガイではないと叫びだす。
これでは、どう細工しても計画倒れだ……妻となった女と、それと共にいる鳥を殺さない事には計画倒れだ……。
逃がしさえしなければいい。
生きていようと、死んでいようと、領地に戻らなければいい。
そうすれば偽物の娘を仕立て上げることができる!!
「殺せ! 殺せ!! 殺すんだ!! たかが鳥も殺せぬとは、なんという無能だ!! 誰でもいいそこの鳥を殺した者には、集まった祝いの品を分け与えよう。 王との謁見の折には盟友として連れ立とう。 我が子の妻と迎えさせよう」
その声は、大広間の屋根がメシメシと剥がされる音で掻き消えた。 物凄い音を立て、人のいない中庭に、屋根は投げ捨てられる。
覗きこむ顔は、巨大なトカゲ。
凶悪な瞳は、ホセを睨んだ。
「帰るぞ」
羽を持つ巨大トカゲがそう言えば、白フクロウは妹に、小鳥に身を変えるようにと促した。 現れたのは朝焼け色の小さな小鳥、それを甘く咥えた白フクロウは、差し出される巨大トカゲの手に乗っかった。
「何者だ!!」
「アレは、何処の誰だ!!」
人々は叫んだ。
貴族達は興奮に沸き立っていた。
「コラールにアレほどの力あるものが存在したとは!」
「アレは何者だ!」
「(竜は)あんな奴等など、知らぬ!!」
ホセ・バスクは言い張る。
クレイン男爵家を利用しようとしたことは知られる訳にはいかない。 悪名高きクレイン男爵家と繋がりを持ったと知られる訳にはいかない。 同類に見られてしまえば、気の毒だと同情を得る事などできなくなる。
いや、クレイン男爵家に騙された。
……あぁ、そうだ、そうしよう!!
ホセ・バスクは、ベールの奥でニヤリと笑う。
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