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3章 罪人
01.
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あの日……アルエット……今はフィンと呼ばれる魔女は消えた。
消された理由は、神が認めた婚約の間違いを正すため。
欲に身を任せ、聖女に成り代わった魔女が受ける当然の報いなのだと告げられた。
だからと言って、獣の姿に怯えた聖女様は怖いと泣き叫び、獣でありながら人と行為を行った私を罵り、侮蔑の言葉を吐き続けた。
「聖女は、ホリーは少しばかりショックを受けているらしい。 新たな誓いは待ってほしい。 君の部下のためにも」
私は……心で泣き……安堵し……表面上は静かに笑みを浮かべ、頭を下げ頷くしかなかった。
極北の寒冷地域にある貧乏国家ラスノヤ。
食料生産率が低い。 一年の半分以上は、大地は雪と氷に覆われ鉱山の採掘すらできず、海は荒波で漁には出られない。
それでも人が逃げ出さず、むしろ他国から人が流入してくるのは、国による保護が手厚い平和な国だから……いや、平和な国だと疑う者がいないから。
その平和が一部の人間にもたらされているとも知らず。
ラスノヤ国は短い実りの季節を迎えていた。
赤と黄色に彩られた秋の実り多い秋。
石作りの神殿には、多くの者達が参列していた。
神殿には神官や巫女は居ない。 ここに居るのは神に選ばれた聖騎士達で、人々は神殿に僅かな食べ物を治め、冬用のコートや手袋、ブーツ等を手に入れる。
極北に存在するラスノヤ国は、魔物が多い。
十数年前まで、多くの者が魔物の犠牲になっていたが、聖騎士団副長のレイモンドが聖騎士の儀式を受けた頃から、魔物を追い払うだけの日々は終わった。 それにより、この国はほんの少し豊かになったのだ。
ラスノヤ国にもたらされた魔物素材。
肉は特殊な粉と混ぜて溶かせば燃料が採取出来た。 キラキラと宝石のように輝く骨は、特殊な加工をもって装飾品や武器とされた。 皮はなめして強固な防具や装飾品に使われた。 何より価値があるのは魔物の力を蓄えているとされる魔核だった。
それらの素材は、魔核を除き国に納められ、国を通して売却され必要なものが購入される事で、最近のラスノヤ国は自然こそ厳しいが平和な国と人々が感じるようになっていた。
騎士団宿舎兼庁舎。
ドンドンドン、ドンドンドン。
木で作られた安っぽい木のドアが割れんばかりに揺れる。
副長の執務室であっても、容赦なく隙間風が吹き込む。
それでも何も問題はない。
聖騎士は特別だから。
聖騎士団副長レイモンドが紙と言うにはお粗末な束から視線をあげた。
「今日は……随分と多いですね。 20……と3人それと……これはこれはカルロス王宮騎士団副団長殿こんな所までいらっしゃるとは、珍しい」
聖騎士団の入団には特殊な儀式が必要とされ、ソレを受ける事で初めて魔物と戦う力を得るのだが、そこには寒さ耐性も五感の良さも含まれる。
「聖騎士団副長、レイモンド!! いるのなら出てこい!!」
ドンドンと扉を叩き叫ぶ声には覚えが無かった。 そもそも貴族で構成される王宮騎士団と関わる気はなく、個人の判別をしているのは団長、副団長、隊長達ぐらい。
ドンッ、勢いのまま穴が開いた。
「乱暴はよしてください。 今日は随分と騒々しいですが、どうしたのですか」
ゆったりとした動きと共にレイモンドは古びたデスクの上に、紙と言うにはお粗末な束を置いた。
レイモンドと言う青年は、美しい白い髪、切れ長な金の瞳は少々キツイ印象を周囲に与えるため眼鏡をかけていた。 背は高く細身、豹を連想させるような美しくもしなやかな立ち居振る舞いを見れば、聖騎士の制服の下には美しい筋肉が隠されているだろう事が想像できるだろう。
ゆったりと静かに軽くレイモンドはドアに近寄り、殴り破りドアに嵌ってしまった手を外すために軽くドアの形を形成していた板を薄氷のように軽く折り男を救出した。
「動くな!!」
「はいはい」
言われた通り立ち止まり、両手をあげた。
質素な飾り気のない聖騎士の制服とは違い、目の前に現れた騎士達が着用している制服は美しく温かな布地を使い、主張の激しい装飾で飾らわれていた。 孤児を優先的に取り入れる聖騎士団と違い、王宮騎士団は貴族が中心となって構成されており、日頃から双方の間には決して小さいとは言えない軋轢があった。
だからレイモンドは、何時もの事程度にしかとらえてはいない。
定期的に王宮騎士団は、聖騎士団によって馬鹿にされたと言う貴族達の陳情を元に暴れに来る。
何時もの事……。
レイモンドはそう考えるけれど本当は違う。
落ち込んでいる今こそ攻撃の時と、ほくそ笑んでいるのだ。
「何事ですか? そんな事をしなくてもドアの鍵はかかってはいないと何時も言っているでしょう?」
簡単に破れるような扉、鍵など意味がなく、誰でも自由に出入りが出来る。 聖騎士の立場は平民、それも身内のいない孤児が優先的にあてがわれる。 人を傷つけ盗みを犯してきた。 ソレを癖にしている者もいるため無断で緒強いられて困るようなものなど置かれてはいない。
「レイモンド殿 貴殿には魔物素材の密輸を主導した容疑がかけられている。 大人しく拘留されるといい。 騎士団団員達は捜索の間、騎士団庁舎および宿舎の入室を禁止ずる。 何も出ないといいな」
ヘラヘラと王宮騎士は馬鹿にするように笑っていた。
「やはり孤児出身、何時かはやると皆思っていたんですよね。 聖女ホリーに気にかけられ少しばかり調子に乗って恰好をつけたいのも分かる。 あぁ、男としてそう思うのは当然だろう。 気持ちはわかるが、それはルール違反だ。 ふくそうちょうどの」
「恰好をつけたい……ですか?」
乾いた笑いを……レイモンドはこぼれてしまう。
何もかもが空しくて……。
消された理由は、神が認めた婚約の間違いを正すため。
欲に身を任せ、聖女に成り代わった魔女が受ける当然の報いなのだと告げられた。
だからと言って、獣の姿に怯えた聖女様は怖いと泣き叫び、獣でありながら人と行為を行った私を罵り、侮蔑の言葉を吐き続けた。
「聖女は、ホリーは少しばかりショックを受けているらしい。 新たな誓いは待ってほしい。 君の部下のためにも」
私は……心で泣き……安堵し……表面上は静かに笑みを浮かべ、頭を下げ頷くしかなかった。
極北の寒冷地域にある貧乏国家ラスノヤ。
食料生産率が低い。 一年の半分以上は、大地は雪と氷に覆われ鉱山の採掘すらできず、海は荒波で漁には出られない。
それでも人が逃げ出さず、むしろ他国から人が流入してくるのは、国による保護が手厚い平和な国だから……いや、平和な国だと疑う者がいないから。
その平和が一部の人間にもたらされているとも知らず。
ラスノヤ国は短い実りの季節を迎えていた。
赤と黄色に彩られた秋の実り多い秋。
石作りの神殿には、多くの者達が参列していた。
神殿には神官や巫女は居ない。 ここに居るのは神に選ばれた聖騎士達で、人々は神殿に僅かな食べ物を治め、冬用のコートや手袋、ブーツ等を手に入れる。
極北に存在するラスノヤ国は、魔物が多い。
十数年前まで、多くの者が魔物の犠牲になっていたが、聖騎士団副長のレイモンドが聖騎士の儀式を受けた頃から、魔物を追い払うだけの日々は終わった。 それにより、この国はほんの少し豊かになったのだ。
ラスノヤ国にもたらされた魔物素材。
肉は特殊な粉と混ぜて溶かせば燃料が採取出来た。 キラキラと宝石のように輝く骨は、特殊な加工をもって装飾品や武器とされた。 皮はなめして強固な防具や装飾品に使われた。 何より価値があるのは魔物の力を蓄えているとされる魔核だった。
それらの素材は、魔核を除き国に納められ、国を通して売却され必要なものが購入される事で、最近のラスノヤ国は自然こそ厳しいが平和な国と人々が感じるようになっていた。
騎士団宿舎兼庁舎。
ドンドンドン、ドンドンドン。
木で作られた安っぽい木のドアが割れんばかりに揺れる。
副長の執務室であっても、容赦なく隙間風が吹き込む。
それでも何も問題はない。
聖騎士は特別だから。
聖騎士団副長レイモンドが紙と言うにはお粗末な束から視線をあげた。
「今日は……随分と多いですね。 20……と3人それと……これはこれはカルロス王宮騎士団副団長殿こんな所までいらっしゃるとは、珍しい」
聖騎士団の入団には特殊な儀式が必要とされ、ソレを受ける事で初めて魔物と戦う力を得るのだが、そこには寒さ耐性も五感の良さも含まれる。
「聖騎士団副長、レイモンド!! いるのなら出てこい!!」
ドンドンと扉を叩き叫ぶ声には覚えが無かった。 そもそも貴族で構成される王宮騎士団と関わる気はなく、個人の判別をしているのは団長、副団長、隊長達ぐらい。
ドンッ、勢いのまま穴が開いた。
「乱暴はよしてください。 今日は随分と騒々しいですが、どうしたのですか」
ゆったりとした動きと共にレイモンドは古びたデスクの上に、紙と言うにはお粗末な束を置いた。
レイモンドと言う青年は、美しい白い髪、切れ長な金の瞳は少々キツイ印象を周囲に与えるため眼鏡をかけていた。 背は高く細身、豹を連想させるような美しくもしなやかな立ち居振る舞いを見れば、聖騎士の制服の下には美しい筋肉が隠されているだろう事が想像できるだろう。
ゆったりと静かに軽くレイモンドはドアに近寄り、殴り破りドアに嵌ってしまった手を外すために軽くドアの形を形成していた板を薄氷のように軽く折り男を救出した。
「動くな!!」
「はいはい」
言われた通り立ち止まり、両手をあげた。
質素な飾り気のない聖騎士の制服とは違い、目の前に現れた騎士達が着用している制服は美しく温かな布地を使い、主張の激しい装飾で飾らわれていた。 孤児を優先的に取り入れる聖騎士団と違い、王宮騎士団は貴族が中心となって構成されており、日頃から双方の間には決して小さいとは言えない軋轢があった。
だからレイモンドは、何時もの事程度にしかとらえてはいない。
定期的に王宮騎士団は、聖騎士団によって馬鹿にされたと言う貴族達の陳情を元に暴れに来る。
何時もの事……。
レイモンドはそう考えるけれど本当は違う。
落ち込んでいる今こそ攻撃の時と、ほくそ笑んでいるのだ。
「何事ですか? そんな事をしなくてもドアの鍵はかかってはいないと何時も言っているでしょう?」
簡単に破れるような扉、鍵など意味がなく、誰でも自由に出入りが出来る。 聖騎士の立場は平民、それも身内のいない孤児が優先的にあてがわれる。 人を傷つけ盗みを犯してきた。 ソレを癖にしている者もいるため無断で緒強いられて困るようなものなど置かれてはいない。
「レイモンド殿 貴殿には魔物素材の密輸を主導した容疑がかけられている。 大人しく拘留されるといい。 騎士団団員達は捜索の間、騎士団庁舎および宿舎の入室を禁止ずる。 何も出ないといいな」
ヘラヘラと王宮騎士は馬鹿にするように笑っていた。
「やはり孤児出身、何時かはやると皆思っていたんですよね。 聖女ホリーに気にかけられ少しばかり調子に乗って恰好をつけたいのも分かる。 あぁ、男としてそう思うのは当然だろう。 気持ちはわかるが、それはルール違反だ。 ふくそうちょうどの」
「恰好をつけたい……ですか?」
乾いた笑いを……レイモンドはこぼれてしまう。
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