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5章

52.そこに救いは存在しない

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 岬加奈子の予言は当たった。

 そう考えるのは神秘主義の人間だ!!

 普通なら……。
 普通なら……。

 その言葉に続く思い言葉も、晃自身異常だとしか思えなかった。



 岬加奈子の予言を実現するため、誰かが人を殺し、そして繋ぎ合わせたと考えるべきだろうと。 それが、まともな考えか?!

 いや、そもそも、動くのか?

 違う……。

 晃は恐怖を覚えた。
 自分の思考に。

 俺は、こんな人間だっただろうか?



 呆然自失の中、晃は再び呼び出し音に反射的に反応した。

「はい……」
『はぁ? オマエ誰だ? 新見親良はどうした?!』

 怒鳴り声が聞こえ運転中の新見は溜息交じりに呟き、イヤホンをつけるように新見は晃に指示する。

「なんか、すまん……」

 通話の相手は『犯罪対策部』の人間で、伝えたかった内容は捜査協力要請だった。



 新見親良、三輪颯太が所属しているのが『警備部』であり、本庄エリィが所属していたのが『教育部』であり、それらは『柑子市総合安全保障機構』の所属となっている。

 総合安全保障機構には『犯罪対策部』『生活安全部』『交通企画部』『警備部』『教育部』等が存在しており、ほぼ、私設警察と言って良いだろう。



「構いませんよ。 どうせ捕まるんですから……。 余り気になさらないで下さい」

「随分と鼻息の荒い相手に思えたが?」

「仕方ありませんよ。 柑子市で起きる殺人事件の大半は、上層部から揉み消されてしまうんです。 ソレも犯人らしい組織、人物からではなく、被害者側から、もういい、遺書が見つかった。 アレは事故だったってね。 ですが、殺されたのがうちの人間となれば、安易な揉み消しは行われる事はない……そう考えるのが普通ですからね。 とりあえずお昼ご飯を食べてから、顔を出してきますよ……あぁ、晃君も来ます?」

「遠慮させてくれ……で、昼は何処で食べるんだ?」

 身内が殺されたとなれば、犯罪対策部でなくとも騒々しくなるのは予想できる。 そんな中で食堂を使うのは少々遠慮したいと思うのは仕方がない事だろう。

「そりゃぁ……雫ちゃん所に行ってでしょう。 手土産もありますし?」

「ソレは俺が買った手土産だ」

 だが、通話に出てしまった罪悪感が多少なりとも残っている俺としては、黙り込むしかないと言うものだ。



 寮に戻れば、部屋の前で騒いでいる人の群れが見えた。

「あ~~、別から部屋に戻りますか?」

「別って言うと?」

 新見が上を指さした。

 そう言えば、昨日ベランダに降ってきた奴がいたなと思えば……勘弁してくれと言う思いが強くなる。 警備部なのに警備がザルだろう!! と、言う言葉を飲み込みエレベーターに戻ろうとする新見の後を追おうとした……だが、廊下で騒いでいる女性の声を聞き晃は立ち止まった。

 女性3名が、雫に血を分けて欲しいと騒いでいた。 そして、その女性を取り囲む男女数名が部屋に戻るための廊下を完全にふさいでいた。

「お願いお願いよ。 雫さん!! 彼にはアナタの血が必要なの!!」

 送られてきた写真を見る限り、生きているとは言い難かった。

「新見、雫の血は死者も生き返らせるのか?」

「身体の欠損、身体不全は治しますが、あの状態で血を使った場合、どう治るのか……定かではありませんね」

 数多くの実験が雫の身体、血を使い行われたが、欠損自体を再生させるほどの血を持つため、移植済、合成人間状態の身体を治癒させるために使うと言う実験記録は無かった。 あれば記憶していただろう

 そして……新見は言葉を続ける。

「彼女の血は、心、記憶……もし魂と言う者が存在するなら、そんなものを呼び戻すことまで出来はしません」

「なら、アレは騒ぎ損なんだな」

「えぇ」

 晃は新見が返事を終える前に大股で足を勧めた。

「何をしている。 邪魔だ」

 冷酷に、残酷に、無慈悲に、見つめながら晃は亡くなった彼氏を救いたいと願う哀れな女性に告げた。

「他の女のために仲間を騙し、職務を放棄し、隠蔽し、他の女を追いかけた挙句殺された男のために……哀れな奴だな」

 その晃の声色に、視線に同情の欠片もなく……周囲は一気に凍り付き、僅かな時をもって解凍され、女は泣きながら去り……そして、その女を哀れだと思う人々が、晃を責める言葉を残しながら去っていった。

 そして、男が一人残る。

 晃と視線を合わせ、小ばかにしたように皮肉気に笑う男は、背は低く、体格は細身で、清潔感に欠け、なのにその目ばかりはギラギラとし生命力にあふれた男。

 男は、退屈そうに、ボソリと呟き去って行く。

「ツマラナイ奴……」

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