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9章
115.転じる 05
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晃の玲央に対する嫌悪が増す中、慌ただしく晃の予測を確認していく刑事達は厳しい表情で唸りを上げていた。
児童のSOSを利用し行われる連続誘拐事件だが、ソレも晃の言っていた通り不登校児を持つ家庭の中から、転居を行い、現在連絡不通となっている者を見つけ出し、現場の確認をさせればそこには死体があった。
死体の状況は、死の直前まで、性的行為が行われて居た痕跡がある。
父親、母親、そしてまだ小学生の息子までもが……。
後日確認される事になるのだが、全員から玲央のDNAが確認され、性行為の相手が玲央であった事が確認される事となる。
晃と親良が色々と諦めている中で、警察官たちは性的行為に希望を抱いていた。
玲央が家族の暴行から逃げるために仕方なく。
そして、現保護者が玲央を守るために仕方なく。
救いようのない中にも、どこかに縋りつこうとしている様子が……見えており、晃は時折馬鹿にするように口元を歪め、親良に肘でつつかれていた。
玲央の保護者をしていた人間の死が確認されてすぐ、親良は告げる。
「死んだ家族のクレジットカードの確認を行い、今、宿泊しているホテルの特定をしてください」
だが、タイミングよく晃のスマホに連絡が入ってきた。
まるで現地に警察官が突入していた事を知っているかのようなタイミングだった。
晃は呆気なく通話に出る。
出ると同時に、甲高い子供の声が興奮と共に早口で叫びだした。
『コレは、僕とアナタの勝負だ。 どちらが選ばれた人間であるか、はっきりしようじゃないか』
こんな状況でもなければ、冗談だと思うだろう。
通話の奥では、物が倒され、人々がひゃはぁ~!! 状態で暴れる声が聞こえた。 その声は変声期を既に終えていたが、それほど年を取っているようには聞こえなかった。
『場所は……』
晃は何も喋っていないにもかかわらず、玲央は興奮した様子で声高らかに語り続ける。 田宮玲央少年は、晃と親良が止まっているホテルの3階部分にある結婚式場を占拠したといい。 そして、玲央少年が喋る声の後ろでは、ものが倒され、叩きつけられ、爆竹の音が響きつづけていた。
そして、警察に入ってくる通報。
「直ぐに、現場に!! 所長、機動隊の要請を!!」
慌ただしく動き回る警察署内で晃は親良の耳元にぼそりと告げた。
「動くな……まだ、早い……」
親良がそれを伝えにいけば、
「どういう事だ?」
「ぇ、どうしてですか?」
そう言って騒ぎ出すが、近寄ってくるのは晃と親良の担当扱いとなった木崎と浅間の両刑事だけ。 晃は興奮する玲央の声を聞きながら、一切通話相手に声を聞かせる事無く、親良に今日何度目かの煙草を要求した。
「吸い過ぎです」
「明日は吸わない」
「……」
それもそうですねと、親良は晃に煙草を差し出す。
既に堂々と部署内で煙草を吸っていても怒る者は居なくなっていた。
「説明をしてくれ……」
苛立ちながら木崎が懇願するように言えば、晃は溜息をついた。
「相手は、人質をとっていない。 なら、慌てる必要等ないだろう?」
「いや、だが、田宮玲央少年が……それに、現場がどう動くかは分からないだろう」
8歳と言う年齢に誰もがそう考えるのは当然だ。 晃だってそう考えていた。 だからこそ腹立たしいのだ……。
「そいつは主犯だ。 ホテルの連中に近づかないよう。 会場の周辺、上下の階から人を撤退させ、中から犯人が逃げ出さないように警備を配置。 後は放っておけばいい」
晃は淡々と告げた。
晃の言葉に、イラっとした様子を見せた木崎だが、深呼吸を繰り返し、そして必死に落ち着きながら問う。
「事情を……話してもらおうか?」
「ホテル側に聞けばいい」
「……あぁ、分かったよ!! 誰か、ホテル側に事情を聞いてこい!!」
ホテル側の話では急遽披露宴を行いたいと言う若い夫婦が昨日現れたそうだ。 海外への転勤が決まったから急いで披露宴を行いたい。 友人を招いた食事会が出来ればいい。 ビッフェ式で料理は適当に量を揃えてくれればいい。 ただ、飲み物だけは十分に準備して欲しい。
当然請け負える案件ではないが、
「代金は通常の3倍、先払いしてやる!!」
そう言って1000万円がテーブルに積まれれば、予定の無い部屋を急ぎ使えるように準備する事に決めたそうだ。
「出来る限りの事はさせていただきます。 よろしければコチラのプランを~、良く利用される音楽プランであれば直ぐに準備できます。 生演奏が良いとなれば金額はコチラの3倍ほど見ていただければなんとかできるはずです。 あぁ、それにお花もあった方が良いでしょう」
等と言う営業を若夫婦は無視し、女性はドレスの試着を求めて来た。
「ドレスさえ着られれば満足だから!! 早く見せてよね!!」
とにかく、全てにおいて常識外、破天荒だったそうだ。
現金の出どころは、田宮幸雄が所有していた貸金庫からである事が後日判明する事となる。
「と言う事だった」
「なら、問題ない。 中に居るのは犯人だけだ」
「いや田宮玲央君が……」
「そいつは主犯だ。 問題ない」
「だが……」
「向こうはコチラの都合も考えず……来いと言ってきたんだ。 どうして、素直に行く必要がある」
「いや騒ぎに……」
「それもそうだな。 中で騒いでいる連中の大半は、派手な事をして有名になりたいだけだから……。 それは、すぐに何とかしたほうがいいか。 まぁ、頑張れ」
晃の怒りは既にさり、今は淡々と目の前の出来事を消化しているだけだった。
児童のSOSを利用し行われる連続誘拐事件だが、ソレも晃の言っていた通り不登校児を持つ家庭の中から、転居を行い、現在連絡不通となっている者を見つけ出し、現場の確認をさせればそこには死体があった。
死体の状況は、死の直前まで、性的行為が行われて居た痕跡がある。
父親、母親、そしてまだ小学生の息子までもが……。
後日確認される事になるのだが、全員から玲央のDNAが確認され、性行為の相手が玲央であった事が確認される事となる。
晃と親良が色々と諦めている中で、警察官たちは性的行為に希望を抱いていた。
玲央が家族の暴行から逃げるために仕方なく。
そして、現保護者が玲央を守るために仕方なく。
救いようのない中にも、どこかに縋りつこうとしている様子が……見えており、晃は時折馬鹿にするように口元を歪め、親良に肘でつつかれていた。
玲央の保護者をしていた人間の死が確認されてすぐ、親良は告げる。
「死んだ家族のクレジットカードの確認を行い、今、宿泊しているホテルの特定をしてください」
だが、タイミングよく晃のスマホに連絡が入ってきた。
まるで現地に警察官が突入していた事を知っているかのようなタイミングだった。
晃は呆気なく通話に出る。
出ると同時に、甲高い子供の声が興奮と共に早口で叫びだした。
『コレは、僕とアナタの勝負だ。 どちらが選ばれた人間であるか、はっきりしようじゃないか』
こんな状況でもなければ、冗談だと思うだろう。
通話の奥では、物が倒され、人々がひゃはぁ~!! 状態で暴れる声が聞こえた。 その声は変声期を既に終えていたが、それほど年を取っているようには聞こえなかった。
『場所は……』
晃は何も喋っていないにもかかわらず、玲央は興奮した様子で声高らかに語り続ける。 田宮玲央少年は、晃と親良が止まっているホテルの3階部分にある結婚式場を占拠したといい。 そして、玲央少年が喋る声の後ろでは、ものが倒され、叩きつけられ、爆竹の音が響きつづけていた。
そして、警察に入ってくる通報。
「直ぐに、現場に!! 所長、機動隊の要請を!!」
慌ただしく動き回る警察署内で晃は親良の耳元にぼそりと告げた。
「動くな……まだ、早い……」
親良がそれを伝えにいけば、
「どういう事だ?」
「ぇ、どうしてですか?」
そう言って騒ぎ出すが、近寄ってくるのは晃と親良の担当扱いとなった木崎と浅間の両刑事だけ。 晃は興奮する玲央の声を聞きながら、一切通話相手に声を聞かせる事無く、親良に今日何度目かの煙草を要求した。
「吸い過ぎです」
「明日は吸わない」
「……」
それもそうですねと、親良は晃に煙草を差し出す。
既に堂々と部署内で煙草を吸っていても怒る者は居なくなっていた。
「説明をしてくれ……」
苛立ちながら木崎が懇願するように言えば、晃は溜息をついた。
「相手は、人質をとっていない。 なら、慌てる必要等ないだろう?」
「いや、だが、田宮玲央少年が……それに、現場がどう動くかは分からないだろう」
8歳と言う年齢に誰もがそう考えるのは当然だ。 晃だってそう考えていた。 だからこそ腹立たしいのだ……。
「そいつは主犯だ。 ホテルの連中に近づかないよう。 会場の周辺、上下の階から人を撤退させ、中から犯人が逃げ出さないように警備を配置。 後は放っておけばいい」
晃は淡々と告げた。
晃の言葉に、イラっとした様子を見せた木崎だが、深呼吸を繰り返し、そして必死に落ち着きながら問う。
「事情を……話してもらおうか?」
「ホテル側に聞けばいい」
「……あぁ、分かったよ!! 誰か、ホテル側に事情を聞いてこい!!」
ホテル側の話では急遽披露宴を行いたいと言う若い夫婦が昨日現れたそうだ。 海外への転勤が決まったから急いで披露宴を行いたい。 友人を招いた食事会が出来ればいい。 ビッフェ式で料理は適当に量を揃えてくれればいい。 ただ、飲み物だけは十分に準備して欲しい。
当然請け負える案件ではないが、
「代金は通常の3倍、先払いしてやる!!」
そう言って1000万円がテーブルに積まれれば、予定の無い部屋を急ぎ使えるように準備する事に決めたそうだ。
「出来る限りの事はさせていただきます。 よろしければコチラのプランを~、良く利用される音楽プランであれば直ぐに準備できます。 生演奏が良いとなれば金額はコチラの3倍ほど見ていただければなんとかできるはずです。 あぁ、それにお花もあった方が良いでしょう」
等と言う営業を若夫婦は無視し、女性はドレスの試着を求めて来た。
「ドレスさえ着られれば満足だから!! 早く見せてよね!!」
とにかく、全てにおいて常識外、破天荒だったそうだ。
現金の出どころは、田宮幸雄が所有していた貸金庫からである事が後日判明する事となる。
「と言う事だった」
「なら、問題ない。 中に居るのは犯人だけだ」
「いや田宮玲央君が……」
「そいつは主犯だ。 問題ない」
「だが……」
「向こうはコチラの都合も考えず……来いと言ってきたんだ。 どうして、素直に行く必要がある」
「いや騒ぎに……」
「それもそうだな。 中で騒いでいる連中の大半は、派手な事をして有名になりたいだけだから……。 それは、すぐに何とかしたほうがいいか。 まぁ、頑張れ」
晃の怒りは既にさり、今は淡々と目の前の出来事を消化しているだけだった。
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