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06.完璧には程遠い不安定な心
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お爺様が亡くなったのは半年ほど前。
ゆっくりとした食事、穏やかな睡眠(お昼寝)、散歩、庭仕事……そんな穏やかな日々が失わせる仕事量だけど、それでもそんな忙しさに助けられている。
お爺さんはもう居ない……。
思い出せば支えを失った事への不安感で息苦しさを感じはじめて、顔を歪めながら水差しに手を伸ばし、カップに水を注いで飲みほした。 そんな事で、喉に詰まった不安がなくなること等ないのだけど……。
「お爺様……」
小さく呟き頼る人を呼べば、押し寄せるのは安堵ではなく、これから先どうすれば良いのかと言う不安と恐怖。
「ぁ……くっ……」
胸元を掴み俯き……大きく呼吸を繰り返す。
ダメ……使用人にこんな姿を見せてはいけない……私が不安定になれば人々に不安は広がるのだから……。 そう言う意味では支えが必要だと言っていたカール・シラキスの言葉は正しい。
「あはっはっははっはっはは」
小さく、人に知られないように、自棄な様子で私は笑った。 もし、今、この瞬間にいればカール・シラキスであっても私は身を寄せ頼ったかもしれない。
沈黙と共に……身体をくの字に折り、胸元を掴む。 身体に力が入り……思考も身体も停止し、不安におしつぶされそうになっていた。
一陣の風がまとわりつき、私は熱くあった視線で風を眺め自然と微笑んでいた。
「わぅ」
不安定な私を抱きしめるように、まとわりつく巨大な大きな黒狼。
「どうした? 大丈夫か?」
案ずる声だけど、そこに私の異常に対する焦りはない。
低く落ち着いた声が甘く囁いくから、その大きな首回りに両腕を回して抱き着いた。 乱れた心が少しずつ落ち着いてくる。 これで、もう少しでやってくるリアンに不安を与える事はないはずと安堵し、微笑むことが出来た。
虐待をしてきた生みの母から守り育ててくれた黒狼が駆けて来ただろう木々とお日様の匂い。
「お兄ちゃん大好き」
保護してくれる者がいる安堵に、守られる子供の頃の気持ちになって安堵する。
「そうか」
上を向いて軽くわふっと溜息交じりに息を吐き、そして息を吸う黒狼は、私の感情を受け流す。 その瞬間、大きな……狼としても大きすぎるような存在が気配を消した。
「ノーラ様、お茶をお持ちしました」
「入って」
私の落ち着いた様子に、分かりやすくリアンは安堵している事にほっとした。
「ノーラ様、あの男は見た目はいいけど嫌な男でしたね。 大切な人が亡くなったノーラ様の悲しみをえぐるような。 私、あの男は嫌いです!!」
「そう、良かった……。 でも、一応公爵家の息子ですから、あの男と言うのはお止めなさい」
と言うが、私は知っている。 彼女がただ私の心に寄り添おうとしていると言う事を。 そして私は、私の不安が多分伝染しているだろう事を笑い飛ばすように言葉を続けた。
「交渉力もあって、見た目も良くて、生まれも良くて、加護まであって、今の私を支えるのには最適ですよ。 なんて言われたらどうしようかと思ったわ」
「あはっ、まさかぁ~。 そんな事思ってもいませんよ」
乾いた笑いをこぼし、部屋を去っていくリアンを見れば……図星だったか……と苦笑いを浮かべてしまう。
多分、執務室にはしばらく戻って来る事はないだろう。
それでもお茶には、木の実をふんだんに使った小さなデザートが幾つもついており、気遣いが所々に感じられる。
「美味しい」
守り支える側ではなく、私だって守られる側になりたい時はある訳で、私の感情に触れないようにしばらく侍女達は近寄らないだろうと思えば、ホッとしてしまうのだ。
仕事の書類は手にもったままだけれど、ソファに場所を移し黒狼に側に来て欲しいと、ソファをトントンと叩いた。 黒狼が座れるように私が私用で使う部屋のソファは大きめに作られていて、黒狼はトンッと言われるままにソファに座り、身を預ける私の身体を支える。
「お兄ちゃんは、どう思う?」
「過去は過去、悪くないんじゃないのか?」
何も考えていないだろう軽い肯定に、ぽかんっと黒狼の後頭部を殴る。
お兄ちゃんにとっては、狼の彼を慕う私の方が不条理と言う事になるらしく、私が思春期に入った頃からこうやって突き放してくるのだ。
「お兄ちゃんの馬鹿……」
はふぅ……。
聞かないふりをして、お兄ちゃんは欠伸をするのだ。
「彼は、お爺様が婚約者として認めたと言ったけれどどうなのかしら?」
「認めた所は見ていないが、アラホマ国の宮殿にいる間中、お前との婚約を求め続けていたのは、事実だ」
「そう……何があったの?」
「エクスに聞けばいい」
エクスとは、ランドール侯爵家に仕える諜報を仕事とする人物でアラホマ国の王位継承祝賀会のおりに、お爺様につき出向いていた人物の1人だ。
ゆっくりとした食事、穏やかな睡眠(お昼寝)、散歩、庭仕事……そんな穏やかな日々が失わせる仕事量だけど、それでもそんな忙しさに助けられている。
お爺さんはもう居ない……。
思い出せば支えを失った事への不安感で息苦しさを感じはじめて、顔を歪めながら水差しに手を伸ばし、カップに水を注いで飲みほした。 そんな事で、喉に詰まった不安がなくなること等ないのだけど……。
「お爺様……」
小さく呟き頼る人を呼べば、押し寄せるのは安堵ではなく、これから先どうすれば良いのかと言う不安と恐怖。
「ぁ……くっ……」
胸元を掴み俯き……大きく呼吸を繰り返す。
ダメ……使用人にこんな姿を見せてはいけない……私が不安定になれば人々に不安は広がるのだから……。 そう言う意味では支えが必要だと言っていたカール・シラキスの言葉は正しい。
「あはっはっははっはっはは」
小さく、人に知られないように、自棄な様子で私は笑った。 もし、今、この瞬間にいればカール・シラキスであっても私は身を寄せ頼ったかもしれない。
沈黙と共に……身体をくの字に折り、胸元を掴む。 身体に力が入り……思考も身体も停止し、不安におしつぶされそうになっていた。
一陣の風がまとわりつき、私は熱くあった視線で風を眺め自然と微笑んでいた。
「わぅ」
不安定な私を抱きしめるように、まとわりつく巨大な大きな黒狼。
「どうした? 大丈夫か?」
案ずる声だけど、そこに私の異常に対する焦りはない。
低く落ち着いた声が甘く囁いくから、その大きな首回りに両腕を回して抱き着いた。 乱れた心が少しずつ落ち着いてくる。 これで、もう少しでやってくるリアンに不安を与える事はないはずと安堵し、微笑むことが出来た。
虐待をしてきた生みの母から守り育ててくれた黒狼が駆けて来ただろう木々とお日様の匂い。
「お兄ちゃん大好き」
保護してくれる者がいる安堵に、守られる子供の頃の気持ちになって安堵する。
「そうか」
上を向いて軽くわふっと溜息交じりに息を吐き、そして息を吸う黒狼は、私の感情を受け流す。 その瞬間、大きな……狼としても大きすぎるような存在が気配を消した。
「ノーラ様、お茶をお持ちしました」
「入って」
私の落ち着いた様子に、分かりやすくリアンは安堵している事にほっとした。
「ノーラ様、あの男は見た目はいいけど嫌な男でしたね。 大切な人が亡くなったノーラ様の悲しみをえぐるような。 私、あの男は嫌いです!!」
「そう、良かった……。 でも、一応公爵家の息子ですから、あの男と言うのはお止めなさい」
と言うが、私は知っている。 彼女がただ私の心に寄り添おうとしていると言う事を。 そして私は、私の不安が多分伝染しているだろう事を笑い飛ばすように言葉を続けた。
「交渉力もあって、見た目も良くて、生まれも良くて、加護まであって、今の私を支えるのには最適ですよ。 なんて言われたらどうしようかと思ったわ」
「あはっ、まさかぁ~。 そんな事思ってもいませんよ」
乾いた笑いをこぼし、部屋を去っていくリアンを見れば……図星だったか……と苦笑いを浮かべてしまう。
多分、執務室にはしばらく戻って来る事はないだろう。
それでもお茶には、木の実をふんだんに使った小さなデザートが幾つもついており、気遣いが所々に感じられる。
「美味しい」
守り支える側ではなく、私だって守られる側になりたい時はある訳で、私の感情に触れないようにしばらく侍女達は近寄らないだろうと思えば、ホッとしてしまうのだ。
仕事の書類は手にもったままだけれど、ソファに場所を移し黒狼に側に来て欲しいと、ソファをトントンと叩いた。 黒狼が座れるように私が私用で使う部屋のソファは大きめに作られていて、黒狼はトンッと言われるままにソファに座り、身を預ける私の身体を支える。
「お兄ちゃんは、どう思う?」
「過去は過去、悪くないんじゃないのか?」
何も考えていないだろう軽い肯定に、ぽかんっと黒狼の後頭部を殴る。
お兄ちゃんにとっては、狼の彼を慕う私の方が不条理と言う事になるらしく、私が思春期に入った頃からこうやって突き放してくるのだ。
「お兄ちゃんの馬鹿……」
はふぅ……。
聞かないふりをして、お兄ちゃんは欠伸をするのだ。
「彼は、お爺様が婚約者として認めたと言ったけれどどうなのかしら?」
「認めた所は見ていないが、アラホマ国の宮殿にいる間中、お前との婚約を求め続けていたのは、事実だ」
「そう……何があったの?」
「エクスに聞けばいい」
エクスとは、ランドール侯爵家に仕える諜報を仕事とする人物でアラホマ国の王位継承祝賀会のおりに、お爺様につき出向いていた人物の1人だ。
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