私を愛すると言った婚約者は、私の全てを奪えると思い込んでいる

迷い人

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17.異常事態発生?

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 雨漏りを確認しようと執務室の有る右館へと急ぎ行ってみれば、

「雨漏りとは言わないでしょう!! コレは!!」

 私は叫び、一緒に来たアミタは説明なさい!! と、他の使用人達を問い詰めるように責めた。

「ぁ、あの、雨の日が続いて洗濯物が乾かなかったので……」

 顔色悪くボソボソと語るのは若い使用人。 だけど……瞳だけは妙に輝いており、反省してはいないらしい。

 雨漏りの原因は魔法の暴走で、風と火の魔力が暴走したたらしい。 風は刃物となり、火は建物を焼きはしたけれど、この大雨で火は鎮火したようだ。

「魔法よね」

「風と火の魔法を使えば、洗濯物が乾くと思ったんです。 魔法の原理は間違っていないはずです」

「そう言うのは、魔法研究家に任せなさいよ」

「私には、才能があるんです!!」

「執務室においてある資料や書庫の中身をダメにする訳にはいきませんから。 仕事も出来ず、屋敷を壊した責任は後で話をしましょう」

 改装を考えていたとはいえ、破壊されて腹が立たない訳はない。

「手伝います!!」

 そう言って、後をついてこようとしたから、

「貴方はここの片付けをなさい。 重要な書類を貴方に触らせる事はできません」

「そんな!! 私は優秀なの!! 二つの魔力を合成した新魔法を完成させるのにあと少しだったのに!!」

「貴方の野望に、屋敷を壊されたらたまらないわ。 責任はとってもらいます」

「わ、私の方が偉いのに……私は一族の者よ。 加護があるだけで拾ってこられた人とは違うのよ!!」

「懲罰房にいれておきなさい」

「ノーラ様!! 彼女に悪気があった訳ではないんです!!」

「悪気が無ければ屋敷を壊す理由にならないのよ。 一生働いたって歴史あるランドール侯爵家の本館を修理できないでしょうね」

「ノーラ様、落ち着いて下さい。 屋敷は元々改築予定だったじゃないですか」

 使用人の一人が訴えてきた。

「問題が起きる前に修繕するのは費用を抑え、修繕期間を短縮するためよ……。 破壊して良い訳なんか欠片もないでしょう」

 ヒステリックに叫び出したくなるのを必死に抑えていたし、その間もアミタと執事長が伝統ある品物の数々を非難させるよう指示を出していた。

 風の刃と炎による破壊は、使用人の作業場を中心にかなり広い範囲に渡っている。 執務室と書庫は無事だけど、天井と壁の一部が欠けた屋敷においておくわけにはいかない。

 領地の特徴が書かれた資料。
 分家の性質、扱い方、危険度の資料。
 領地の会計資料。
 その他いろいろ。
 各領地からの要望書。
 貴族達とのやり取り。

 広い領地を持つだけに、その量は多いし、軽率な使用人に見られて良いものではなく、信用をしている使用人達に声をかけ、書類を箱詰めにし旧館に運ぶよう命じた。

 リアンとシアンの双子の侍女は、魔法を使いこなし重い荷物を運んでいく。

「なんで、彼女達は良くて、私はだめなんですか!!」

「入ってこないで頂戴、ここの資料を失くしたら大変なの」

 そう言えば、ヒステリックに魔法の詠唱を始めるから、私は心の中で神に祈るのだ。

 守りたまえ……。

 それだけで、魔法ははじけ飛び……そして、暴走侍女は悲鳴を上げた。

 悪意、敵意、嫉妬、虚栄心、傲慢、そこから沸き起こる瘴気。

 瘴気は魔力と近い性質を持つだからこそ使用には慎重であるべきだ……日常的に手足のように使う黒狼がオカシイと言いたいところだけど、彼は瘴気がどういうものか知っていて、瘴気を魔力と勘違いしないよう、魔法を使い慣れるまでは私の側で常に浄化状態で使っていた。

 だけど彼女は違う。

 瘴気を魔力と勘違いしているから、私の浄化で瘴気で作りだした魔法公式は彼女の中で弾けて、彼女の身体を巡る魔力的血管……魔力回路を傷つけたのだ。

「きゃぁあああああ!! 痛い痛い痛い、な、何をしたのよ!!」

「知らないわ。 へたくそな魔法がまた暴走したんでしょう。 うるさいから実家に帰しちゃって、請求は実家の方に送らせてもらうわ!!」

「そんな……私が、私こそが当主に相応しいのに……」

 怒りはもう魔法と言う力に繋がらない。





 そしてその日から、私は旧館で仕事を行い、空いた時間で他の貴族達の加護の発動を記した手記をチェックする。 そんな日々を続けた。 それが一月続き、二月続く、どこの誰かも分からないままクビにした侍女への反発があるらしい。 それを私に伝えるアミタと執事長ではないけれど、イジメ?を危惧して、リアンとシアンの双子の侍女は旧館で仕事している。

 あの2人がいないと本館も大変なんだろうけどね。

 リアンとシアンは、魔法研究家の先駆者でもあるモラン・ランドール。 亡きお爺様の息子のモランの元で、クロードと共に魔法を学んでいたのだから、近年設立された魔法学園の生徒よりも余程魔法が使えるから、優秀な護衛でもある。





「ノーラ様、御客人です」

「は~い」

 渋々私は立ち上がろうとすれば、何処か浮かれた様子のリアンとシアンが言うのだ。

「お客様はコチラにいらっしゃるそうです!」
「丁度、オヤツの時間ですし、お菓子をお出ししてもいいですか?」
「今日はチーズケーキですよ。 飲み物はどうします?!」
「お食事をなされるかどうか、早めに聞いて下さいね」

 なんて矢継ぎ早に言うから、今日の客人がモラン・ランドールなのだとすぐにわかるのだった。 ランドール侯爵家から解放され、魔法開発の先駆者となり、今は王宮魔法使いと言う相手。

 好きな事をして、最高級の地位を得た。 それでもやっぱり未だに彼に対する気まずさが残っているのだ。

「はいはい、彼の好物を一応準備しておいて。 リアンは伯父様をお迎えに行って、シアンは着替えを手伝って」



 それから少し後、モラン・ランドールは訪れる。

「どういう事なんだ、アレは?」

「アレ? とは?」

 私は首を傾げれば、モランが額を手で覆い溜息をついた。

「本館に出向いたところ、カール・シラキスが私を出迎えましたよ。 それも当主のように、何をさせているんですか」

 私は首を傾げたまま、身体も一緒に傾げてしまう。

「そう言うのは、止めなさい。 ランドール家の者として相応しくない」

「ごめんなさい」

「簡単に謝るのも止めなさい」

 どう反応すればいいのか困る訳で、それでも何も無かったように苦笑いと共に会話を続けた。

「王太子殿下の婚約式からお会いしてないもので、まさかいらしているなんて思ってませんでした」

 仕事で何度か王宮に出向いているが、耳にするのはカールとフローラ姫との噂話。 私との婚約はお爺様が頭を下げてお願いした。 個人の願いだから仕方ないのだと言っていた。 だから、そのまま、何時か婚約が破棄されると思っていたのだ。

 何を、しているんだろう??
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