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26.加護
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覗き見? 聞き耳?
最近は存在を薄め気配を消して黒狼と共に、カールの側で様子をうかがう事が増えていた。
改装と共に作られたカール専用執務室。
大きなテーブルを囲む広くゆったりとした対のソファ。
テーブルの上に並ぶのは、我が家の料理人が作り出した菓子に軽食。 毎日毎日大量に作られ、フローラはそれを試食していた。 彼女が目指す『茶会・パーティ、コンサルタント業』のために。
「もう少し、味にメリハリが欲しいわ。 それに見栄えも可愛くないわ。 利益度外視にするつもりはないけれど、ひと手間を駆ければ見た目は良くなると思うのに、手抜きだわ……一言言って……それでだめなら対処するしかないわよね……ねっ!!」
フローラはそう言うけれど、私はこれぐらいの味で丁度良かった。 個人的には畑を燃やされた事で食材の量や質が落ちてはいたけど……旧館で食べる分には質を落としてはいない。
長い沈黙。
「ねぇ!! 私の話を聞いていまして!!」
フローラはカールに叫んでいた。
「仕事に集中させていただけませんか?」
「私だって仕事をしているのよ」
「……」
ずっと、食べてばかりなのに? と言う思いは……カールの不満そうな表情から見ても、同じ意見なのかもしれない。
「姫様、少しこの場を離れさせていただきますね」
「あの罪人の子の元に行くのね」
「違いますよ」
「嘘よ!!」
「本当ですよ。 殿下とお話をする予定となっているんです」
そうカールが言えば、大きな鐘の音が鳴り響いた。
「姫様……」
「私に聞かれて不味い訳?」
「そう言う訳ではありませんが……わかりました。 静かにしていてくださいね」
そして大きなベルの音が鳴り響き、王太子殿下とカールの会話が始まった。
『何をしているんだカール。 なぜ、お前をランドール侯爵家に行かせたのか分からないじゃないか。 上手く女侯爵を操れないなら、せめて王宮に出仕し私の力となれ』
『収穫量の減少に関しては、私の責任ではありませんよ。 私が今ここを離れては、それこそ軍資金の準備が出来なくなりますよ? 私の加護の力だって万能ではありません。 味方を得たいなら相応のメリットを提示しなければ……それが普通のやり方です』
『私は王太子だぞ!! 側に仕えよ!! 今のままでは王族議会への不満を煽る事が出来ない』
『では、ランドール家からの物納の量を減少させ、各地域への支援を減らし、王族議会が横領をしていると言う情報を流しましょう』
『噂を流す程度で上手く行くなら、お前の価値はないぞ!!』
その殿下の言葉にカールはいらっとした様子を見せ、それを見たフローラは逃げるように部屋を後にしていた。
『ランドール領の収穫量は減少、他国との個人取引に回す食料が不足しているのですよ。 やっぱり……ランドール領が豊かになっていたのは、周期的な物と考えるべきかもしれません。 計画を早める事も視野にいれるべきでしょう。 国の実験が欲しいならシッカリとしてください』
私が側で聞き耳をたてていた話を、伯父様は記録から聞いていた。
……後日、私は伯父様から呼び出しを受ける事となった訳だ。
「収穫量が減少していると言うのは本当ですか?」
何処か責めるような伯父様。
加護があるからこそ、私が当主な訳で……そうでなければ当主となるのは伯父様であるべきだから、仕方ないのかもしれない。
「はい、ここ一月急激に収穫が減少しているんですよね。 豊かとなり、余剰資金を開拓に回していたにも関わらず、収穫量は2年前の基準まで落ちているんですよね……。 それも水害、干害、害虫被害などの災害が増加、最終的には
何処まで落ち込むのか……」
「理由に心当たりは?」
私がランドール侯爵家に来たばかりの頃であれば、周期的なものだと言い、魔法での対策を必死に考えていただろう伯父様の問いに、信頼関係が出来ているのだと少しだけ不謹慎にも嬉しく思ったりしたのだ。
とは言え、心当たり……かぁ……。
「加護のバグ……と言う可能性はありますか?」
そう言ったのは私に一緒しているエクスだった。
「バグ?」
「えぇ、当主面をしているカールの加護が優先され、ノーラ様の加護が後回しにされているとか……」
加護は基本的に所属する場所、地位が繁栄されている。 そこに組み込まれている神様の仕組みは良く分からない。
「ノーラの加護が失われていると?」
「いえ、加護自身は失われてはおりません。 ノーラ様が領地を巡り祈りを捧げれば、回復しますが、そうでない地域は加護が働いていない状態のように思われるのですよ」
「ふむ……王族内にも加護にまつわる秘密の書庫があって、そこにあった資料で面白いものを見たことがある」
そう言ったのは黒狼。
なぜ、そんな資料を見た?! と言うのは今は横に置いておくべきなのかもしれない。 伯父様は興味津々で黒狼に前のめりに問うた。
「面白いものとは?」
黒狼が語ったのはこんな感じだった。
記録は私の祖母の時代にさかのぼる。
ようするに祖母の魅了をどう解除したか? と言う事。
まず、亡き祖母の魅了は、カールと似ているようで違う。 本質的に違うのか? それとも違うよう力を使っているかは分からないけど、とにかく違うのだ。
カールの場合、自分の言っている事への理解力を高めさせ信じ込ませる。
能力の範囲は、声の届く範囲。 これは私の直接祈った場合の能力範囲と余り変わらない。
もう一つは、カール・シラキスと言うシラキス公爵家所属として、シラキス領の者であれば書面による通達もカールが直接書いたものであれば、その書面を見た者。 この場合不思議なのは、文字が読めない者であってもソレを見ればカールの思想に同調すると言う事。
ランドール女侯爵である私の婚約者としての書面効果の発動は無い。 これは婚約と言う行為が人の都合で行われるもので神が関与していないからと言う事だろう。
そして祖母が使っていた魅了。
発動条件は、望む相手と視線を合わせ会話する事で発動する。 発動対象が限定される力は祖母の力だけでなく、1人1人に対する効果が強力となり加護持ち同士の加護の相殺も難しいと言う記録があった。
そして……ここからは、お兄ちゃん……黒狼が語った話。
強い祖母の能力が解除され追放されたのは、祖母の加護である魅了を良しとせず対策を行おうとした者がいた事にあるためだった。
「対策? ですか?」
私は首を傾げる。
「そんな話は聞いて事もありませんが?」
そう言ったのは伯父様で、エクスは一人納得したように言葉を続けた。
「それはそうでしょう。 加護の力を加護同士の相殺ではなく、最初からなかったものとする力があるなら、それは国の荒廃にすら繋がるのですから、表ざたにする訳にはいきませんよ。 それで、その方法とは?」
「聞いちゃうんだ」
「それは、聞きますよ。 私以外が知らなくてもいいってだけです」
エクスが堂々と言うから私は苦笑するのだ。
「世の中には、加護を無効化する存在があると書かれていた」
「無効化? 無効にしちゃうの? 加護なのに……」
「有効利用は可能ですよ。 戦時中であれば敵の攻撃系加護を消す事が出来れば勝利に大きな貢献をする事になりますし」
で、結論から言うと。
アラホマ国の王族内には、加護無効化の加護を持つ人間が生まれると言う事だった。
「と言うことは、フローラ姫も?」
「俺はそう、考えている」
と言う黒狼に全員黙り込んだ。
最近は存在を薄め気配を消して黒狼と共に、カールの側で様子をうかがう事が増えていた。
改装と共に作られたカール専用執務室。
大きなテーブルを囲む広くゆったりとした対のソファ。
テーブルの上に並ぶのは、我が家の料理人が作り出した菓子に軽食。 毎日毎日大量に作られ、フローラはそれを試食していた。 彼女が目指す『茶会・パーティ、コンサルタント業』のために。
「もう少し、味にメリハリが欲しいわ。 それに見栄えも可愛くないわ。 利益度外視にするつもりはないけれど、ひと手間を駆ければ見た目は良くなると思うのに、手抜きだわ……一言言って……それでだめなら対処するしかないわよね……ねっ!!」
フローラはそう言うけれど、私はこれぐらいの味で丁度良かった。 個人的には畑を燃やされた事で食材の量や質が落ちてはいたけど……旧館で食べる分には質を落としてはいない。
長い沈黙。
「ねぇ!! 私の話を聞いていまして!!」
フローラはカールに叫んでいた。
「仕事に集中させていただけませんか?」
「私だって仕事をしているのよ」
「……」
ずっと、食べてばかりなのに? と言う思いは……カールの不満そうな表情から見ても、同じ意見なのかもしれない。
「姫様、少しこの場を離れさせていただきますね」
「あの罪人の子の元に行くのね」
「違いますよ」
「嘘よ!!」
「本当ですよ。 殿下とお話をする予定となっているんです」
そうカールが言えば、大きな鐘の音が鳴り響いた。
「姫様……」
「私に聞かれて不味い訳?」
「そう言う訳ではありませんが……わかりました。 静かにしていてくださいね」
そして大きなベルの音が鳴り響き、王太子殿下とカールの会話が始まった。
『何をしているんだカール。 なぜ、お前をランドール侯爵家に行かせたのか分からないじゃないか。 上手く女侯爵を操れないなら、せめて王宮に出仕し私の力となれ』
『収穫量の減少に関しては、私の責任ではありませんよ。 私が今ここを離れては、それこそ軍資金の準備が出来なくなりますよ? 私の加護の力だって万能ではありません。 味方を得たいなら相応のメリットを提示しなければ……それが普通のやり方です』
『私は王太子だぞ!! 側に仕えよ!! 今のままでは王族議会への不満を煽る事が出来ない』
『では、ランドール家からの物納の量を減少させ、各地域への支援を減らし、王族議会が横領をしていると言う情報を流しましょう』
『噂を流す程度で上手く行くなら、お前の価値はないぞ!!』
その殿下の言葉にカールはいらっとした様子を見せ、それを見たフローラは逃げるように部屋を後にしていた。
『ランドール領の収穫量は減少、他国との個人取引に回す食料が不足しているのですよ。 やっぱり……ランドール領が豊かになっていたのは、周期的な物と考えるべきかもしれません。 計画を早める事も視野にいれるべきでしょう。 国の実験が欲しいならシッカリとしてください』
私が側で聞き耳をたてていた話を、伯父様は記録から聞いていた。
……後日、私は伯父様から呼び出しを受ける事となった訳だ。
「収穫量が減少していると言うのは本当ですか?」
何処か責めるような伯父様。
加護があるからこそ、私が当主な訳で……そうでなければ当主となるのは伯父様であるべきだから、仕方ないのかもしれない。
「はい、ここ一月急激に収穫が減少しているんですよね。 豊かとなり、余剰資金を開拓に回していたにも関わらず、収穫量は2年前の基準まで落ちているんですよね……。 それも水害、干害、害虫被害などの災害が増加、最終的には
何処まで落ち込むのか……」
「理由に心当たりは?」
私がランドール侯爵家に来たばかりの頃であれば、周期的なものだと言い、魔法での対策を必死に考えていただろう伯父様の問いに、信頼関係が出来ているのだと少しだけ不謹慎にも嬉しく思ったりしたのだ。
とは言え、心当たり……かぁ……。
「加護のバグ……と言う可能性はありますか?」
そう言ったのは私に一緒しているエクスだった。
「バグ?」
「えぇ、当主面をしているカールの加護が優先され、ノーラ様の加護が後回しにされているとか……」
加護は基本的に所属する場所、地位が繁栄されている。 そこに組み込まれている神様の仕組みは良く分からない。
「ノーラの加護が失われていると?」
「いえ、加護自身は失われてはおりません。 ノーラ様が領地を巡り祈りを捧げれば、回復しますが、そうでない地域は加護が働いていない状態のように思われるのですよ」
「ふむ……王族内にも加護にまつわる秘密の書庫があって、そこにあった資料で面白いものを見たことがある」
そう言ったのは黒狼。
なぜ、そんな資料を見た?! と言うのは今は横に置いておくべきなのかもしれない。 伯父様は興味津々で黒狼に前のめりに問うた。
「面白いものとは?」
黒狼が語ったのはこんな感じだった。
記録は私の祖母の時代にさかのぼる。
ようするに祖母の魅了をどう解除したか? と言う事。
まず、亡き祖母の魅了は、カールと似ているようで違う。 本質的に違うのか? それとも違うよう力を使っているかは分からないけど、とにかく違うのだ。
カールの場合、自分の言っている事への理解力を高めさせ信じ込ませる。
能力の範囲は、声の届く範囲。 これは私の直接祈った場合の能力範囲と余り変わらない。
もう一つは、カール・シラキスと言うシラキス公爵家所属として、シラキス領の者であれば書面による通達もカールが直接書いたものであれば、その書面を見た者。 この場合不思議なのは、文字が読めない者であってもソレを見ればカールの思想に同調すると言う事。
ランドール女侯爵である私の婚約者としての書面効果の発動は無い。 これは婚約と言う行為が人の都合で行われるもので神が関与していないからと言う事だろう。
そして祖母が使っていた魅了。
発動条件は、望む相手と視線を合わせ会話する事で発動する。 発動対象が限定される力は祖母の力だけでなく、1人1人に対する効果が強力となり加護持ち同士の加護の相殺も難しいと言う記録があった。
そして……ここからは、お兄ちゃん……黒狼が語った話。
強い祖母の能力が解除され追放されたのは、祖母の加護である魅了を良しとせず対策を行おうとした者がいた事にあるためだった。
「対策? ですか?」
私は首を傾げる。
「そんな話は聞いて事もありませんが?」
そう言ったのは伯父様で、エクスは一人納得したように言葉を続けた。
「それはそうでしょう。 加護の力を加護同士の相殺ではなく、最初からなかったものとする力があるなら、それは国の荒廃にすら繋がるのですから、表ざたにする訳にはいきませんよ。 それで、その方法とは?」
「聞いちゃうんだ」
「それは、聞きますよ。 私以外が知らなくてもいいってだけです」
エクスが堂々と言うから私は苦笑するのだ。
「世の中には、加護を無効化する存在があると書かれていた」
「無効化? 無効にしちゃうの? 加護なのに……」
「有効利用は可能ですよ。 戦時中であれば敵の攻撃系加護を消す事が出来れば勝利に大きな貢献をする事になりますし」
で、結論から言うと。
アラホマ国の王族内には、加護無効化の加護を持つ人間が生まれると言う事だった。
「と言うことは、フローラ姫も?」
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