私を愛すると言った婚約者は、私の全てを奪えると思い込んでいる

迷い人

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28.発想

 周囲の視線がカールと私、交互に向けられる。

 食べかけの肉を慌てて飲み込んだのは秘密である。

 私はしばらく考え込んだ結果……横にいるエクスへと視線を向けた。 この時点で既にカールと会話する気は0。

「彼が何を言っているのか分からないのだけど、エクスは理解できます?」

 エクスは顔をしかめて耳元でごにょごにょと囁いた。

「なるほど……カール様はとても、と~~~っても、奇特な趣味がおありなのですね」

 クスクスと私は笑い、周囲は息を飲んで見守っていた。
 何しろ我が家は侯爵家で、カールは公爵家の息子。

 そしてソレを止める事が出来るだろう王族は、未だ会場に現れてはいない。

 とは言え、私はカールを犯罪者であると知っているし、流刑の辺境生まれだとばらされた今、恐れるものはない。 と言うか、やり返すならカールの腕にフローラが巻き付いている今以外に何時あるだろうか?

 あれだけ密着していれば、加護の欠片も発動しないだろう。

「はぁっ? 私は貴方の事を言っているのですよ」

 カールが言えばフローラも言葉を続けた。

「そうよ、流刑の辺境で生まれ育った罪人の子が、いえ、罪人の子だから仕方がないのかしら? 獣とそう言う関係になるのも」

 クスクスとフローラは笑い返す。

「えぇ、ですから、その発想が既にオカシイと言っているのです。 犬、猫、アヒル、野営時であれば馬。 添い寝をしているのを見ればソレと関係を持っている。 そんな考えに至るなんて普通ありえませんよ。 そう言うような発想をするのは、そう言う方ぐらいなのではありませんか? ねぇ……皆様……どう思われます?」

 うわぁ~ドン引きと言う視線を私は見せ、エクスの背後に隠れた。 周囲の視線が一斉にカールへと向けられる。

「カールに、そのような変態的なご趣味はございませんわ!! 自分が相手にされないからって!! 自分を慰めるために犬っころと夜を共にする獣風情が!! 汚らわしい!!」

「フローラ様は、国では誰にも相手にされなかったから……自分を慰めるために、婚約者のいるカール様と、その婚約者のいる家で、本館に居座り妻のごとき顔で夜を共にされるのですね。 まさに獣の所業ですわ~~」

「カールは、ランドール家の先代に頼まれたから仕方なく婚約しましたのよ!! その心と体に無理を通しての婚約だと言うのに感謝をして、カールに従うべきですわ!! カールの御心を慰めもせず、カールに愛される努力もしない欠陥品風情が。 余程趣味が変わっているとしか思えないと日頃から言っておりましたのよ。 そこでカールは、とうとう見てしまったのですよ!! 獣と交わっている所を!!」

「……未経験なのに……? 余程、お二人の趣味は特殊なのですね。 そういう妄想ばかりしているのは健全ではありませんよ? でも……同じ趣味を持つ方々、他の方に迷惑をかけないと言うなら、まぁ……よろしいのでは?」

「私に相手にされないからと言って、獣と交わっただけでなく、私や姫を陥れようとするのか!!」

「常に人を陥れる事をしているから、そういう被害妄想に囚われるのですよ。 余りにも斬新過ぎる考え方で、付いて行くことができませんわ。 それに……婚約者として屋敷に居座りながら、私を全く相手にしていなかったと言うことはお認めになっているのですね。 ほら、殿下の婚約披露の際に、愛の無い婚約と言うものをあれほど否定されたのですから、これはもう婚約解消するしかありませんね」

「ランドール家のためを思って寝る間も惜しんで働いていると言うのに……」

「そうよ!! どれほどカールが苦労しているか……感謝もせず、貴方には人の心が無いと言うの、流石、罪人で獣だわ」

「その結果、ランドール家の収入は激減いたしましたがね……何処で何をされていたのでしょうか? うちの納税が減れば国への影響も大きく、お困りになる方は多いのではないかしら?」

 カールの加護が発動しないとなれば、後はランドール家の資金でいきながらえている領地であれば逆らえないと言うもの。 特にカールがランドール家を仕切ってからの収支の下落幅は激しすぎる事への不安は広がるに十分な時間を経過していた。

 そして他国へ横流し得た魔石等を開示するタイミングはコレで失われたと考えて良いだろう。



 長い沈黙。
 誰も言葉を発する事が出来なかったのだ。

 ランドール侯爵家も、シラキス公爵家も敵に回して介入しようと言うものは、この場には居ないと言う事だろう。



 この気まずい沈黙は、王族の方々が会場に入場するまで続いた。
 国王陛下、王妃殿下、王太子殿下、そして王族の一員の方々の到着。

「何事だ?」

 訝しみの一言を入れたのは国王陛下。
 間髪いれず事の事情を説明したのはエクスだった。

 そして私はここぞとばかりに婚約破棄を申し出るのだ。

「そのような疑いをかけ、王国を支える我が家を貶め、資産を喪失させるような者を、私は夫として迎える訳にはいきません。 ご理解いただけますよね?」

「それもそうだ……お互いを求め愛しあった事実も無い、利益も無いとなれば、婚姻に至る理由がないと言うもの。 認めよう。 

「陛下!! 私は!! ネレル・ランドール殿から頼むと願われているのですよ!!」

「誰もそれを聞いてはおらんし、例えその言葉が事実だったとしても、価値がない、当主を陥れるような事をするような者に頼んだならネレルも後悔しているだろう。 丁度、大神官殿もおられる、婚約破棄をしてしまうといい」

「お待ちください!! 私はランドール侯爵家のために、ここ数か月身を粉にして働いてきました。 それは誰もが認める事です!! 相応の保証をしていただかない事には納得いきません!!」

 カールが焦ってはいるが、カールの言葉を国王陛下が聞くはずもない。 そんな国王だからこそ王太子殿下は王太子であり続けるために、様々な画策をこうじる必要があったのだ。

「何を焦る? 獣と交わりを持つと言うのが、お前の中で事実であるならば、婚約破棄は望み通りと言うものだろう。 それに、王太子の婚約披露の日、愛ある者同士の婚約が大切だと言って追ったのだろう? ノーラを愛しているようには到底見えんが? むしろフローラ・アラホマを愛しているように思えるのだが?」

「ひ、姫様は恩人だからに他なりません。 わ、私はノーラを愛しております。 ただ、それを裏切ったのはノーラです!! ノーラが悪い、気持ちが悪い……これは、もう、私に謝罪し、その汚名を晴らすためにもランドール家は取り潰す必要があるのではないですかな? 何しろ……ノーラは加護を持っていても、生まれの卑しい娘なのですから……私の調べでは、罪人として辺境送りとなり魔物狩りを義務付けられていた極悪人の子であると言う事です。 えぇ、当時の看守からの証言もここにあります」

 そう言って、カールは記録球を高く掲げた。

『えぇ、不思議な髪を持った子でした。 確かに流刑地である辺境で生きていましたよ。 母親や祖母と共に。 それをランドール侯爵家からの使いの者が金を出し買い取って言ったのです』

 と……。
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