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第五話 復活祭 「若者たち、晴れ舞台に立つ。おじさん、筋肉痛で休み」
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しおりを挟む尾地の自宅は三鷹にあった。
周辺には廃墟が広がるなか、一棟だけ再生された倉庫。そこの二階に住んでいた。
彼は今、ベッドの上で硬直していた。部屋は比較的綺麗に整えられているが、収納に収まりきらない物が溢れ出てきている。特に冒険者装備は、新旧様々な装備が色々とそろって、色々とはみ出している。
彼はベッドの上ですでに覚醒しているのだが、ピクリとも
「う、動けない。そんな馬鹿な…もう一週間だぞ」
筋肉痛と疲労で起床できずにいた。
一週間前を思い出すと、ビーパイスを連れだってのボス戦があった。
「あの時は、行程の全てをあの子達にやってもらって、ボスとしか戦ってないのに…」
たしかに道中の敵は全てビーパイスにやってもらったお大臣ダンジョン冒険だったが、ボス戦の動きは過激で、ハードワークだった。
「その次の日もまずかったか…!」
その次の日、休日をおかずにホリーチェたちに同行、調子に乗って上野駅までルート開発に協力し、あまつさえ大暴れをした。
「アレは…まずかった…」
動かそうとしても動かない。痛みと倦怠感と疲労感。この一週間はその二日間の運動の返済として、一歩も外出できなかった
「そろそろ食い物がない…」
ベッドから満足に起き上がれず、備蓄した食料は非常食を含めて食ってしまった。
「起きねば…死ぬ…」
中年にとって運動とは、その後の数日を棒に振るかもしれない借金行為に他ならなかった。
メモリーによる運動エネルギーの倍化は筋力による動き以上に肉体への負荷がかかる。自分の体で生み出していない巨大な力で、筋肉は引っ張られ、骨はねじられ、体は回転させられるのだ。
なんとか動く指先が枕の横に置いた携帯のスイッチを入れる。
彼にできる運動はそれだけだった。
ギルドのホームページが出て、式典の中継映像が自動再生された。
シャン…シャン…
両手に持った鈴なりの鈴、神楽鈴を規則的に鳴らし、舞を舞う巫女達。
透明素材で出来た千早。金色の頭飾り。
黒髪の少女たちが鉄道復活祈願の舞を舞っている。
カメラが切り替わり神楽列車そのものを映す。
先頭は神事を行う祭事車。なにも置かれていない貨物用の台車に祭壇が組まれ、二人の巫女が舞っている。その前には、レールを復活させる祈りを捧げ続ける鉄道寺社の神主が座っている。台車の上にはメモリー散布用のパイプが組まれ、そこから消毒液のように列車の前方にメモリーが散布され続けている。
遠くから撮っているためか、キラキラと輝く黄金を振りまいている様に見える。
祭事車の次には燃料タンク車が続き、メモリーを供給し続けている。そのタンクは巨大で、トレーラー一台分のサイズがある。
最後尾には発動車があり、ゆっくりとしたスピードで三両だけの列車を押し続けている。
この三両をまとめて神楽列車といい、時速六キロという速度で西日暮里=上野間のレールを、四日前から今日まで再生し続けてきた。
その車両がもうすぐ上野駅に到着する。その映像が中継されているのだ。
「うわ、えげつない量バラ撒いてるなー」
その上野駅のスイホウ。
「鉄道復活は、今の政府にしても大事業だからな。これだけ消費するわけだから、大事業にならざるをえないってわけだ」
ホリーチェはパーティー一の知識量を持つ。
「このタンク車一台で、冒険者何人分の仕事が詰まってるんだ?百人?千人?」
ジンクは公共事業に使われる自分たちの血税の量におののいている。
映像はレール復活のディティールを映し出す。
神楽列車前方三〇メートル付近まで勢いよく噴霧されるメモリー。地面が黄色に輝いている。その部分は未だ首都沈没の衝撃で破壊されたまま、歪み断線した鉄道のレールだ。このまま進めば列車は横転してしまうだろう。
神楽列車先頭に座り祈祷しつづける老人がアップで映る。汗に光る彼の顔の下に、彼の役職が画面合成の文字で映る。
「鉄道寺社 保線部門 路線修復官 (旧JR職員)」
彼の祈りは天への祈りではなく、鉄道の、レールへの祈りだ。彼の頭の中には沈没前の完璧だった頃の鉄道のイメージが残っている。老人は沈没以前の鉄道保線員だった男だ。
彼は崩れる前の線路を図面レベルでイメージし、メモリーに働きかける。狂気寸前のイメージ力でレールを復元しながら前へ前へと進んできたのだ。
彼なければ山手線の復活はない、と言われるほどの貴重な人材だ。脳に鉄道の神殿を築いた者にしかこの難事は行えない。
ゆえにレール復活は神事に匹敵する儀式となったのだ。
逆再生のようにレールは復元し、その生まれたてのレールを踏んで神楽列車は前進する。
ゆっくりとゆっくりと、廃墟の中、黄金のレールの上を、鈴を鳴らしながら華やかに。
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