30 / 41
第五話 復活祭 「若者たち、晴れ舞台に立つ。おじさん、筋肉痛で休み」
3 【第5話 完】
しおりを挟む「……・・その功績を認め、全ての冒険者を代表し、ここに表彰します。おめでとう!」
「フワッ!」
寝落ちしそうになっていたジンクはビクリと目を覚ました。
表彰状を受け取り握手をするホリーチェ。会場から拍手が起こる。
上野駅復活祭は神楽列車到着前の行事として、ルートを開通させた冒険者の表彰式を行っていた。冒険者ギルド長たちの長い祝辞を聞いているうちにジンクは落ちそうになっていたのだ。
ホリーチェは普段の毒舌少女の姿を隠し、如才なく役割を果たしている。明るく観衆にお辞儀をするその姿は、ピアノ発表会のヒロインのようだ。観衆からもかわいーという声が飛ぶ。賞状と一緒に与えられた金一封が彼女の機嫌をさらに良くしているようだ。
賞状の授与のあと、そのままマスコミ用撮影会に入る。気持ち悪いくらいにこやかなホリーチェの外づらの良さに恐怖する他の面々。マスコミに写真を取られるという行為も初めてで、ホリーチェ以外みな緊張の顔だ。
「こないだ、ここで写真を撮った時は、みんな笑顔だったね」
というシンウの言葉を聞いて、皆、廃墟の上野駅で味わった人生最良の瞬間を思い出し、自然と笑顔になった。
そのシンウは自分の携帯を胸の前に持ち、画面を映るようにして撮影してもらった。
「なにしてたの?」
というみなの質問に、彼女は照れながら携帯の画面を見せる。そこには先日撮った尾地との集合写真の、尾地の部分だけを拡大して表示されていた。
「あーー、そうだよね。こいつが写ってないとな」
スイホウも納得した。
「あいつだけ無関係ではないという、証拠写真だな」
ホリーチェは淑女からいつもの調子に戻っていた。
「そこまで意地の悪いものじゃないけど…」
シンウは来れない彼のためにしたことだが、その画像が発表された際に、
「この可愛い子が持っている中年男性の顔写真はなにか?」
と話題になり、様々な憶測が流れ、
「死んだ彼女の父親の遺影」である、という泣ける話になって、ネットに定着した。
表彰が終わった彼女たちはしばらく役割がなくなり、山の手線の線路再生を見物することとなった。
上野駅の山の手線ホームは、すでに見物人が並んでいた。少数ではあるが熱気にあふれている。このような特別なイベントはなかなかない、見なきゃ損だとばかりに。
駅復興に関わっている作業員たち、マスコミ、ギルドのお偉いさんなど、神楽列車の到着をみなで待っていた。
今この上野駅にいる者は全員、西日暮里から倒壊したレールの上を歩いてここに来ている。物資も人力で運んでいる。
駅のホームの部分のレールはすでに別の路線修復官により補修済みであり、ホーム端まで列車がたどり着けば、上野駅はほんとうの意味で復活する事になる。みなその瞬間を見ようと待ち構えていた。
金色のシャワーを撒きながら進んでくる列車の姿が視界に入ってきた。陽炎の中それはゆっくりだが着実にこちらに向かってくる。
その列車の前にある崩れて朽ちたレールたちは、真なる主人の帰還を迎えるかのように、真っ直ぐなレールへと姿を変えていく。
まるで魔法だ、実際に魔法だ。
進んでいく列車の通すためにレールが生まれていく様は、まさに神話的光景と言っていい。遠くから神楽鈴が聞こえ始め、我々の祭りがクライマックスに近づいていることを伝えてくる。
列車の最前に座る老人の興奮が観衆にも伝わる。彼の強い祈りは我々の祈りだ。
これは私達の社会の再生の祭りだ。
ネジ曲がった最後のレールが正しい姿を取り戻し、ホームのレールと接続する最終の一片に変わる。
ついに神楽列車は上野駅のホームに到着した。列車がホームに滑り込んできた。
汗だくで倒れ込む神主を巫女たちが抱きしめ、喜びの声をあげる。彼女たちは鈴をデタラメに鳴らし続けて観衆に呼びかける。
ホームにいるすべての人が、喜びの声をあげた。バンザイの声も上がる。
ホリーチェたちも喜びの声と拍手を送る。彼女たちはこのイベントの主役の一人でもあり、喜びはひとしおだ。
彼女たちの喜ぶ姿はカメラに捉えられ、寝台で携帯を見ている尾地の元にも届いていた。
神楽列車の到着のあと、西日暮里で待機していた列車が発車する。冒険者を満載した、最初の旅客列車だ。
この列車が到着することで、上野駅の本格運用は始まる。もっともほとんどの施設が建築中で拠点としての機能は、半稼働状態の救命センターしかない。それでも冒険者達は大量にやってくる。新しいダンジョン「上野口ダンジョン」がそこにあるからだ。
続々とホームに降り立つ冒険者たち。彼らは上野駅を観光することもなく、すぐさまダンジョン口の入り口、から遠く遠く離れた冒険者の列の最後尾に並ぶことになる。コンコースを何回も往復する冒険者の待機列。その長さを見てニイが、
「今日参戦しなかったのは正解だね。多分、今日はモンスターよりも冒険者のほうが多いよ」
と感想を述べた。
その待機して並び続ける冒険者たちと違って、彼女たちは係員に誘導されて、その最前列に連れてこられた。そこにはギルド長やらお偉いさんが並らび、ダンジョン口の前には一本のラメのテープが張られ、長蛇の列の行く手を塞いでいた。
「それでは皆さん、お待たせしました」
ギルド長がメガホンで広場全ての冒険者に伝える。
「記念すべき上野ダンジョン入り口の解禁、テープカットを行います。みなさん、順番にゆっくりと入るように!」
ギルド長は冒険者側の人間であるため、式典以外では儀礼的よりも実務的であることを好むようだ。
「じゃあみんな、いいですか?」
ギルド長は左右を見、全員がハサミの刃をテープにかけていることを確認し、
「テープカットです!」
自分で言って自分で切った。ホリーチェたちは生まれて初めてのテープカット。切れたテープを更に切った。
切ったらすぐに横に避ける。
ズッズッズ
避けた彼女たちの目の前を通って冒険者たちが中に入っていく。
ザザッザザッザザ
長大な列が動いているなかなか壮観だ。冒険者が焦りを殺した早足で、ホリーチェたちが命からがら飛び出した道を逆に入っていく。何人かの冒険者がホリーチェたちに挨拶をする。彼らは彼女たちの活躍を知って、彼女たちを認識している。
自分を知って認めてくれている他者がいる。
その実感が彼女らに生まれて、今まで知らなかった感動に体が震えた。
ザッザッザッザ
「走るなっ、つってんだろー!!」
駆け足になっている列の動きにギルド長の怒号が飛んだ。
式典の映像はそのまま、ダンジョンに入っていく冒険者たちへのインタビューに変わる。再びホリーチェたちが映し出されることはなかった。
尾地は映像からでもその祭りの雰囲気を感じ取り、愉快な気持ちになっていた。なんとか寝台から起き上がり、部屋から出る。
彼の寝室は倉庫の二階の一部にあり、ドアから出ると倉庫の一階を見渡せる階段につながっている。そこから彼は自宅の一階、ガレージとして使っている部分を眺める。
彼のガレージには様々な訓練道具がならんでいる。中年が冒険する能力を維持するためには、並々ならぬ努力が必要なのだ。
尾地は二階の窓を開けると、ゆったりとした風が入ってきた。その風ははるか遠くの、上野の祭りの匂いを運んできたような気がした。
その祭日の空気を一呼吸した尾地は
「メモリーは人の希望を形にする」
と満足げであった。
0
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」
(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。
王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。
風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。
三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。
……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」
その言葉は、もう何度聞いたか分からない。
霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。
周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。
同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。
――俺だけが、何もできない。
反論したい気持ちはある。
でも、できない事実は変わらない。
そんな俺が、
世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて――
この時は、まだ知る由もなかった。
これは――
妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
無能と追放された俺、死にかけて覚醒した古代秘術を極めて最強になる
仲山悠仁
ファンタジー
魔力がすべての世界で、“無能”と烙印を押された少年アレックスは、
成人儀式の日に家族と村から追放されてしまう。
守る者も帰る場所もなく、魔物が徘徊する森へ一人放り出された彼は、
そこで――同じように孤独を抱えた少女と出会う。
フレア。
彼女もまた、居場所を失い、ひとりで生きてきた者だった。
二人の出会いは偶然か、それとも運命か。
無能と呼ばれた少年が秘めていた“本当の力”、
そして世界を蝕む“黒い霧”の謎が、静かに動き始める。
孤独だった二人が、共に歩き出す始まりの物語。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる