勇者科でたての40代は使えない

重土 浄

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第七話 原宿駅 「おじさん、若者たちの初めてを導く」

1 【第七話 開始】

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 木造の原宿駅の周辺には若い冒険者が大勢たむろしていた。

 朝早くから集まっている彼らはみな若く、その身なりは豪勢とは言えない。冒険者の身なりとしては最低金額、最低限度の装備を身に着けているだけだが、若さという何物にも代えがたい輝きが、その姿を値段以上の存在に仕立てていた。

 山之手ダンジョン原宿駅入り口は冒険初心者、ルーキーたちのメッカだった。

 冒険者予備校を卒業したての若者は、それぞれの予備校生活で出会った者たちとパーティーを組んで、最初にここを訪れる。彼らが子供から冒険者、あるいは大人となるための最初の入り口がココだ。

 ダンジョンのシンプルさ、浅さ、敵の弱さがその人気の理由である。ダンジョンの地図もモンスター図鑑もほぼ完成している。稼げはしないが、死ぬことはない、そういうダンジョンが原宿駅ダンジョンだ。

 

 そんな若者たちの賑わいに背を向け、一人で離れた所に立っている男がいた。

 尾地だ。

 いつもの冒険者姿、エグゾスケイルアーマーのデザインが似合わない中年男性。彼は原宿駅の東側に延々と続くフェンスに手をかけ、東京都心の今の姿を眺めていた。

 フェンスからわずか数メートル先で、地面が無くなっている。崖となりその先にはなにもない。

 フェンス越しに見えるのは沈没した首都。

 三〇〇メートルの崖下に落ちた原宿の街は尾地のいる場所からは見えない。視界に見えるのは遥か先、沈没を免れた千葉側のもう一方の断崖だ。そこまでの距離は約15キロある。

 朝日はまだ地の底に沈んでしまった首都の姿を照らす位置にいない。今の東京都は巨大な朝霧の雲海の底に沈む黒い影でしかない。

 フェンスの向こうに広がるのは視界いっぱいの巨大な空白。かつてあった巨大な都市の密林は完全に消え、巨大な空白だけが存在している。

 尾地は無言でその光景を見続けていた。背後の若者たちの陽気なエネルギーに背を向けながら。



 「お前、こんなとこで黄昏れてて、仕事どうしたの?」

 そんな尾地に声をかけてきたのは、尾地と同じく中年男性、しかし尾地の野暮ったい作業者然とした格好とは正反対の、綺麗にあつらえたスーツの姿。尾地が野暮なら、こっちは伊達。そういう対比が成り立つ美中年。

 「ザンゾオ…お前、なんでこんなとこいんの?」

 ザンゾオと呼ばれた伊達な男は、軽く髪をなでつける。沈没した東京の巨大なクレーターの中は常に風が吹き、崖沿いの二人のいる場所にも崖をを登る風が強く吹いている。彼の頭髪は戦線後退が著しい尾地に対して、未だ芳醇な戦力を保っていて黒黒として豊かだった。

 「仕事だ。決まってるだろ」

 ザンゾオはそう言うと、口いっぱいに大きな笑顔を作って、尾地の背中を叩いた。

 「元気そうだな!オイ。生きてるか?」

 手荒い歓迎に抵抗しながら尾地は

 「生きてるよ、見てわからないのか」

 満更でもない顔をしていた。



 「初心者の教官?お前、そんな仕事してるの?」

 同年代の男性に、自分の仕事をどうこう言われるのはいつだって辛いものだが、尾地は特に気にすることもなく、自分の仕事の説明をした。

 予備校出たてのド新人たちを実戦に案内して、かれらの冒険者デビューを助ける。

 当然、冒険者予備校でも模擬戦を行っているが、生死を賭けたものは一度もない。模擬戦はしょせん模擬戦、偽物だ。いくら真剣にやろうと本物の味にはならない。

 若者たちの「初めて」を手助けし安全な物にする。そのファーストステップを手取り足取りサポートするという、予備校の卒業後のアフターサービスが今日の仕事だ。

 「最近、予備校の先生と知り合いになってね。頼まれちゃったんだよ」

 「随分とぬるくなったもんだな、冒険者稼業ってのも」

 ザンゾオはその過保護ぶりをお気に召さないようだ。

 「私達の頃とは違うんだよ。オレたちの頃なんて…」

 尾地は過去の話をしようとして言いよどむ。

 「旧自の残した銃を持たされてダンジョンに送り込まれた。ガキに銃なんて持たせるからすぐに弾も使い切って、ナイフや棍棒まで持ち出してモンスターと戦わされた。酷いもんだった…」

 ザンゾオが過去の回想を引き継いだ。暗い記憶を思い出すと、その瞳も徐々に暗くなる。その暗くなりかけた彼の目に、原宿駅前に集まり、興奮し盛り上がっている。キラキラとした若者たちの姿が映る。暗い過去は再び奥に仕舞われ、朝日の反射が瞳に光をもたらす。

 

「ま、昔に比べたら今はマシだな。すべての若者が俺たちと同じ目に合う必要はないってことだな」

 ザンゾオは肩をすくめて現状を肯定した。

 尾地が荷物を持ち上げて

 「じゃあ、残念ながら私は今から仕事だから。達者で暮らしてくれ」

 尾地は旧友に別れを告げようとしたら、ザンゾオは突然、

 「俺も行くわ」

 と答えた。

 「ハァ?なんで?なにしに?なんでお前が?」

 「いや、俺も仕事で原宿口から潜らないと行けないから、ついでだよ」

 「ぜんぜん、ついでじゃないと思うけど、なんなの?お前の仕事って」

 「遺跡調査局。そのお仕事で今ココにいるわけ」

 尾地はしばし言葉を失い。彼の旧友の姿を確認する。普通のスーツ姿…

 「お前、その格好でダンジョン潜るのか?ハイキングでも、もう少しマシな格好するぞ」

 「ハァ?俺をバカにしてんのか?原宿だぞ?クソガキどもしか行かねーお子様ダンジョンに、なんで俺が装備フルセットで挑まにゃならんのだ」

 この旧友の実力を知る尾地としても、彼の言うことが正しいとも認めるが、それにしても場違いすぎる格好だ。ダンジョンに潜るのに礼儀もドレスコードもないが、それにしても舐め過ぎではないか。

 「大丈夫だって、お前の邪魔しないし。ただのオマケだと思ってくれていい」

 そう言うとザンゾオはスーツの裾口をちらりと見せた。

 スーツの下にナニかを着込んでいる。それがナニかは分かる尾地でもあった。

 「わーかったよ。付いてくるだけ、口をだすなよ。お前みたいなのが付いてくると、教育に悪いんだよ」

 「おー、サンキュサンキュー、友よ。二人で導こうじゃないか、未来ある若者たちを輝かしい未来の勇者たちへと」

 ザンゾオは昔なじみの仕事にちょっかいだせるのを期待しているようだ。尾地は余計な生徒が増えた教師のように肩を落とした。

 



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