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十六歳の誕生日
十六歳の誕生日⑧
しおりを挟むふと目を覚ますと、目の前にはほどよく引き締まった胸板があった。
ひっ、と身体を後ろに引こうとすると腰にまわっていたらしい腕が私の体を引き寄せ、離れるどころか剥き出しの胸板に顔が埋まってしまう。
「な、ん、なっ⁉︎」
「起きた?」
「…………慧君?」
ふってきた声に顔をあげると、立派な胸板の上には慧君の頭がついていた。
数秒間慧君の穏やかな顔を見ていたらようやく意識を飛ばす前まで何があったかを思い出して、私の顔は沸騰するように熱が上がった。
起きてすぐより力を込めて目の前の人から離れようとするものの、腕の力が強まって一ミリたりとも動けない。
「逃げないで」
「え、あ、や」
「逃すつもりもないけど」
「へあ」
獲物を狙ってる獣のような目つきをしている慧君に、私は固まってしまった。
「泣いて嫌がっても一生離さないから」
ぽかんと私は口を開くが、思い当たる言葉を思わず口からこぼしてしまった。
「そ、それは、セ、セフレ的な……」
「…………は?」
慧君はにっこりと笑っているのにその声はドスが効いてて、私は肩を震わせた。
しかしそれでも、私には言わなければいけないことがある。
「わ、私、それでもいいよ」
笑みを消した慧君の顔が無表情になって私をじっと見ているけれど、私は負けずに口を開く。
「そばに居させてくれるなら、なんでもいいから…………慧君のこと、好きで居ていい?」
我ながら重いとは思うけど、でも、私はこの気持ちを捨てられないと知ってしまったから。
段々視線を下げていくと視界には慧君の裸体が入ってきたので、ぎゅっと目を閉じる。
「離れようとしたのは菖蒲でしょ?」
降ってきた声に、私はばっと顔を上げた。そこには、初めて見る、慧君の拗ねた顔。
惚れた弱みというか何と言うか、私はもう彼に嘘なんてつけなくなってしまった。
「……だって。慧君は優しくてかっこよくて、素敵な大人の人だから……私に縛り付けたくなくて」
めんどくさいことこの上ないのだけれど、だんだん私は悲しくなってきて。
ぼやける視界の向こうの慧君がどんな顔をしてるかなんて知らなくて、ほぼ泣きながら必死で言葉を捻り出した。
「でも、好きなの」
勝手なこと言って、泣き出して。めんどくさすぎる。こんなふうになるつもりはなかった。綺麗さっぱり許嫁を解消しようとしていたはずなのに。
「好きなの、やめたくないよお……!」
ついにわんわんと声を上げて子供のように泣き出すと、ぎゅう、と温かいものに包まれた。慧君に抱きしめられたのだ。私の肩口に慧君の顔が埋まって、髪の毛と息がくすぐったい。
「やめないで」
小さく溢れた声を、私の耳はしっかりと拾った。
「死んでもやめちゃだめだよ。ずっとずっと好きで居て。俺も、菖蒲のことずっと愛してるから」
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