鉄の女と銀の犬。貧乏令嬢はドSメイドに飼われる。

山本条太郎

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第37話 「最強の主従、復活。背中の温もりと、暴走する古代兵器」

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【王宮地下・古代遺跡「原初の祭壇」】

パァァァァァンッ!!

拳が痺れるほどの衝撃。  

祭壇を揺るがす破砕音が響き渡り、巨大クリスタルが粉々に砕け散った。  

舞い散る青白い光の粒子。

その中心から、核となっていた少女の身体が、糸の切れた人形のように力なく落下してくる。

落ちる……! 

受け止めなきゃ!

私は反射的に滑り込み、その身体をしっかりと抱き止めた。  

腕の中に収まったご主人様は、羽毛のように軽かった。  

そして、かつて濡羽色だった美しい黒髪は、生命力を吸い尽くされ、雪のように真っ白に変わり果てていた。

「ア、アリア……!?」

驚愕に見開かれたルージュの瞳。

温かい。

心臓が動いてる。

ああ、生きてる。  

その事実を確認した瞬間、張り詰めていた糸が切れ、安堵よりも先に、沸騰するような「怒り」がこみ上げてきた。

「この……っ!」

私はローズマリーさんの身体を、骨が軋むほど強く抱きしめた。  

ふざけるな。

ふざけるなよ。  

こんなに軽くなって。

髪まで真っ白にして。

「ご主人様は本当馬鹿です! 大馬鹿野郎です!!」

私は泣きながら怒鳴った。

涙で視界が歪む。

「勝手に一人で死のうとして! 私を守るためにクビにして! そんなのが格好いいとでも思ってるんですか!? 私がどんな気持ちでここまで走ってきたと思ってるんですか!」 

「……っ、離しなさい、暑苦しい!」

ローズマリーさんは、残った力を振り絞って私の胸を押した。  

その抵抗すら弱々しくて、また泣きたくなる。

「駄犬にだけは言われたくありません! 本当に聞き分けの悪い馬鹿です。クビです。懲戒解雇です!」 

「解雇無効です! 労働基準法違反で訴えてやりますよ!」

「この国にそんな法はありません!」

ああ、これだ。

この減らず口だ。  

再会の感動なんて私たちには似合わない。

こうやって言い合っている時だけが、生きてると実感できる。

その時。

『警告。システム障害発生。侵入者を排除します』

無機質な警報と共に、祭壇の壁が開き、無数の古代ゴーレムが出現した。  

石と金属の巨人が数十体、殺意を持って私たちに迫る。

「チッ、邪魔ですね!」

私は舌打ちをした。  

ローズマリーさんを床に下ろすわけにはいかない。

私は戦闘服の背中にある放熱フィンをロープ代わりにして、彼女を自分の背中に強引に縛り付けた。

「なっ、何をするのですか! 扱いが雑です!」 

「黙って背中に張り付いててください! ……落ちたら承知しませんよ!」

絶対離さない。

私は叫び、迫りくるゴーレムの群れに向かって跳躍した。

ズガァァァァンッ!!

私の回し蹴りが、先頭のゴーレムの頭部を粉砕する。  

だが、敵は多い。

四方八方から殺到してくる。

「右です、アリア! 反応が遅い!」

背中からローズマリーさんの罵声が飛ぶ。  

耳元で響くその声。

うるさい。

でも、それがたまらなく嬉しい。

「うるさい! 分かってますよ!」

 「分かってないから言っているのです! 貴女の脳みそは筋肉で出来ているのですか? ダチョウ以下です!」 

「誰が鳥類ですか! この石頭! ドS! 聞き分けのないダメメイド!」

私は罵り返しながら、左から迫る槍を素手で掴み、へし折った。 

あぁ、調子が出てきた。  

この声だ。

この理不尽な罵倒こそが、私を一番強くする燃料なんだ。 

背中に温もりがあるだけで、力が無限に湧いてくる。  

一人で戦っていた時とは違う。

背中を預けられる安心感が、私を加速させる。

「そもそも! 『全部嘘よ』とか言って、格好つけて突き放したつもりでしょうけどね、バレバレなんですよ!」 

「……っ、う、うるさい!」 

「あんな泣きそうな顔で『クビ』なんて言われて、信じるわけないでしょ!」

 「……! 本当に可愛げのない野良犬、無駄飯ぐらいの獣!」

 私はゴーレムの腕を引っこ抜き、それを棍棒にして別の敵を殴り飛ばす。

「無駄飯ぐらいとはなんです! 私は八億稼ぎましたよ!」 

「やり方が無謀です!」

 ローズマリーさんは、私の背中にしがみつきながら、涙声で叫び返した。

「どうして……どうして来たのですか! 貴女だけなら助かったのに! 私と一緒にいたら、貴女まで死ぬことになるんですよ!?」

まだそんなことを言っている。  

この天才は、肝心なところで何も分かっていない。

「それがどうしたぁぁぁッ!!」

咆哮が、戦場に轟く。  

私は正面から魔導砲を撃とうとしたゴーレムに突っ込み、ゼロ距離で拳を叩き込んだ。

ドゴォォォォンッ!!

「ご主人様がいない世界で長生きするくらいなら、ご主人様と一緒に今ここで死ぬほうがマシなんです! ……それが分からないご主人様のほうが、よっぽどバカだ!」

一人で生き残る? 

冗談じゃない。

私の人生には、ご主人様しかいないんだ。  

ご主人様がいない天国より、ご主人様がいる地獄の方が、私にとっては百倍マシなんだ!

「……っ」

背中越しに伝わるローズマリーさんの心臓の音。

高鳴る鼓動。  

ローズマリーさんは、私の首に回した腕に力を込めた。

「……背後、6時方向。魔力充填反応」

彼女の声色が、冷静な指揮官のものに変わる。

「ご主人様!?」 

「背中は私が守ると言ったでしょう。……しゃがみなさい、駄犬!」

私が反射的に身を低くする。  

その頭上を、ローズマリーさんが展開した障壁シールドが覆う。

カァァァァンッ!

背後からの極太ビームが、障壁に弾かれて霧散する。  

彼女の残りカスのような魔力を、私のスーツが増幅し、鉄壁の守りを生み出していた。  

守られている。  

あのボロボロの身体で、まだ私を守ろうとしてくれている。

「……ふん。これくらい、出来て当然です」

ローズマリーさんが鼻を鳴らす。  

私はニカッと笑った。

涙が出そうになるのをこらえて。

「口の減らないご主人様ですね! ……でも、背中は任せましたよ!」 

「ええ。前だけ見て暴れなさい。……私の可愛い、駄犬」

最後の囁きは、爆音にかき消されたかもしれない。  

だが、私には確かに届いていた。

鼓膜じゃなく、心臓に。  

そこからは、もはや喧嘩という名の舞踏だった。

「右! 殴りなさい!」 

「はいはい!」 

「左! 避けなさい!」 

「注文が多い!」 

「正面! ブチ抜きなさい!」 

「イエス、マム!」

罵倒と信頼が入り混じる連携攻撃。  

私の暴力と、ローズマリーさんの知略が、完全にシンクロしていた。  

これだ。

これが私の求めていた場所だ。

私たちは二人で一つ。

最強の怪物だ。

「ラストォォォォッ!!」

最後の一体、巨大なゴーレム。  

私は跳躍し、ローズマリーさんが背中から全魔力を私の右腕に流し込む。  

熱い。

熱い!

「いけぇぇぇぇッ! この石頭ゴーレム!」 

「貴女のほうが石頭ですけどねぇぇぇッ!!」

二人の声が重なる。

ズガァァァァァァァァンッ!!

銀色の閃光が、ゴーレムを頭から股下まで両断した。  

巨体が左右に分かれて倒れ、盛大な土煙を上げる。  

静寂が戻る。  

私は瓦礫の山に着地し、荒い息を吐いた。

「……ハァ、ハァ……。勝ちましたよ、ご主人様」 

「……当然です。私の指示が完璧でしたから」

背中から、強がりな声が聞こえる。  

だが、首に回された腕は震えていた。  

私は背中の感触を確かめ、優しく、そして力強く言った。

「もう二度と、離しませんからね。……解雇なんて無効です。私は一生、ご主人様に寄生して生きていきますから」

覚悟してください。

私はしつこいですよ。

「……はぁ。本当に、厄介な野良犬を拾ってしまいました」

ローズマリーさんは、私の銀色の髪に顔を埋めた。  

その吐息が、温かい。  

首筋に、ぽつり、ぽつりと熱い雫が落ちる。

「……ありがとう、アリア。……来てくれて」

素直な言葉は、小さな震えと共に紡がれた。  

その一言だけで、私は全てが報われた気がした。  

地下の闇の中、傷だらけの私たちは、喧嘩しながらも誰よりも深く抱きしめ合っていた。

もう、絶対に離さない。
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