鉄の女と銀の犬。貧乏令嬢はドSメイドに飼われる。

山本条太郎

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第41話 「アリアの筋肉×ローズマリーの知略」

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【王都上空:高度300メートル】

ヒュゴォォォォォォッ!!

鼓膜を叩く風切り音が、轟音となって全身を包んでいた。  

眼下には、燃え盛る王都のパノラマが広がっている。  

赤い炎、黒い煙、そして逃げ惑う人々の影。  

私は今、空を飛んでいた。  

正確には、ローズマリーさんの重力制御魔法で身体を軽くし、私自身の脚力でビルの屋上や尖塔を足場にして、音速に近い速度で連続跳躍しているのだ。  

重力なんて、ただの飾りに過ぎない。

「……高い! すごいですご主人様! 人がゴミのようです!」 

「不謹慎な発言は慎みなさい、駄犬。……それに、あれはゴミではありません。『獲物』です」

私の背中で、ローズマリーさんが冷徹なルージュの瞳を細め、戦場をスキャンしていた。  

風に乱れる白髪が、私の頬をくすぐる。  

高度300メートル。

落ちれば即死の高さ。  

けれど、背中にご主人様がいるという事実だけで、恐怖は消え失せ、全能感だけが残る。  

私が世界の頂点に立っているような、錯覚すら覚える。

「状況分析。……学園前の敵は片付きましたが、王都全域にはまだ30箇所以上の敵拠点が残っています。個別に潰していては、夜が明けてしまいます」 

「じゃあ、どうするんですか?」

ローズマリーさんは、私の首筋に冷たい指先を這わせた。  

ゾクゾクする。

何かが来る。

とびきりの命令が。

「効率化します。……アリア、貴女は今から『戦略誘導ミサイル』になりなさい」 

「ミサイル? ……よく分かりませんが、突っ込めばいいんですね?」 

「その通りです。私が座標を指定します。貴女は何も考えず、私の指示した点に向かって全力で落下しなさい」

何も考えなくていい。  

ただ、ご主人様が指差す場所へ、私の全てを叩き込めばいい。  

なんてシンプルで、素敵な命令だろう。  

私はご主人様の弾丸。

ご主人様が引き金を引くなら、地獄へだって飛んでいく。

ローズマリーさんが、指先に魔力を込める。  

熱い奔流が、私の首から脊髄へと流し込まれる。

ロックオン完了の合図だ。

「ターゲット確認。……まずは、敵の『補給線』を断ちます。3時の方向、距離1200。敵弾薬輸送部隊!」 

「ラジャー!!」

私は時計塔の壁を思い切り蹴った。  

壁が粉砕される反動で、銀色の流星が、音速を超えて戦場の空を裂く。

                  ◇

【第一撃】

商業区の大通り。  

そこには、前線の戦車隊に砲弾や魔力タンクを供給するための、帝国軍の輸送部隊が列をなしていた。 

蟻の行列みたいだ。今から踏み潰してやる。

「急げ! 前線が弾切れだそうだ!」 
「なんだか戦況がおかしいぞ……学園方面との連絡が取れん!」

焦る帝国兵たち。  

「お届け物でーすッ!!」

ズガァァァァァァァァンッ!!

私が先頭の弾薬車の上に、隕石のように着弾した。  

ブレーキなんてかけない。

私の運動エネルギー全てを破壊に変える。  

衝撃波だけで周囲の荷車が枯れ葉のように舞い上がり、横転する。  

積まれていた弾薬が衝撃で誘爆を起こす。  

紅蓮の炎が連鎖し、輸送部隊は一瞬で火の海と化した。

気持ちいい……! 

ご主人様の敵が、ゴミみたいに消えていく!

「次! 9時の方向、距離800。敵魔道通信中継車!」 

「はいッ!」

私は爆風を利用して再跳躍する。  

休む暇なんてない。

ご主人様の怒りは、こんなものじゃ収まらない!

                ◇

【第二撃】

公園に設置された、敵の野戦魔導通信基地。  

巨大なアンテナと通信機器が並び、各部隊への指令を出している「神経中枢」。

「な、なんだあの銀色の光は!?」 
「速すぎる! 対空魔導砲、照準が合いません!」

通信越しに絶叫する通信兵たち。  

遅い。

アンタたちが瞬きする間に、私はもうここにいる。  

そのテントの天井が、物理的に引き裂かれた。

「お邪魔しますッ!」

私が回転しながら落下し、通信アンテナを蹴り折った。  

さらに着地と同時に回転蹴りを放ち、通信機材をなぎ払う。

バリバリバリッ!

火花が飛び散り、王都中の帝国軍の無線からノイズが走る。  

指揮系統の喪失。  

これにより、数千の軍勢は「目」と「耳」を失った烏合の衆と化した。

「ナイスです、アリア。……ですが、着地が雑です。美しくありません」

瓦礫の中でポーズを決める私に、背中から辛辣な評価が下る。  

こんな時でも採点してるんですか!?  

でも、それが嬉しい。

私をちゃんと見ていてくれている証拠だから。

「注文が多いですよ! 次は!?」 

「本命です。……中央広場への進軍ルートにある『大橋』。そこを敵の増援である重魔導戦車隊が渡ろうとしています」

ローズマリーさんの声が一段低くなった。  

彼女の視線の先には、運河にかかる石造りの巨大な橋。  

そしてその先には、避難民が集まっている大聖堂がある。

「あの橋を渡らせれば、大聖堂が砲撃射程に入ります。……橋ごと落としなさい」 

「了解! ……でも、橋って頑丈ですよね?」 

「構造力学上のキル・ポイントを指示します。……そこを一点突破なさい」 

「任せてください! ご主人様の計算なら、外しません!」

構造力学? 

難しいことは分からない。  

でも、「ここを蹴れば壊れる」と言われたら、絶対に壊れる。  

それが私のご主人様の絶対法則だ。

                    ◇

【第三撃】

王都を流れる運河にかかる大橋。  

そこを、地響きを立てて数十両の重戦車が進んでいた。  

鋼鉄の塊が、我が物顔で聖域を汚そうとしている。

「進め! 聖堂を焼き払え! 王国の心を折るのだ!」

戦車隊長が叫ぶ。  

その時、上空から私が突撃した。

「させるかぁぁぁッ!!」

私は全魔力を右足に集中させた。  

ローズマリーさんの計算した落下角度、速度、そして魔力密度。  

私の脳みそじゃ計算できないけれど、身体は分かってる。  

ここだ。

ここに全てを叩き込めば、世界は壊れる!  

全てが完璧に噛み合った「神の一撃」。

ドォォォォォォンッ!!

私のかかとが、橋の要石キーストーンをピンポイントで貫いた。

ミシミシッ……バキィッ!!

橋全体に亀裂が走り、悲鳴のような音が響く。  

次の瞬間、橋の中央がV字に折れた。  

橋の上にいた戦車隊は、悲鳴と共にガラガラと運河へと滑り落ちていく。  

水柱が上がり、ジュッという音と共に蒸気が立ち昇る。  

私は崩落する橋の残骸を蹴って、対岸へと着地した。

「……ふぅ。一丁あがり!」

振り返れば、運河に沈んだ戦車たちが無様に積み重なっている。  

大聖堂への進路は完全に断たれた。  

避難民たちが、窓から顔を出して歓声を上げているのが見える。  

守れた。

ご主人様の計算通りに。

「完璧です。……計算通りの崩壊美ですね」

背中でローズマリーさんが満足げに呟く。  

その声を聞くだけで、私は全身が震えるほど嬉しい。  

私の「筋肉パワー」と、ご主人様の「知略インテリジェンス」。  

二人が揃えば、戦場そのものを書き換えることすら可能。  

私たちは無敵だ。

                ◇

【王手】

補給を断ち、指揮を乱し、進路を砕いた。  

残るは、敵の中枢のみ。  私とローズマリーさんの視線は、王都の中央広場に向けられた。  

そこには、これまで破壊してきた戦車とは比較にならない、山のような巨体が鎮座している。  

帝国軍総司令官が乗る、移動要塞型キメラ「ベヒモス」。

「……ラスボスのお出ましですね」

私が拳を鳴らす。  

ローズマリーさんは、私の首筋に額を押し付け、小さく息を吸った。  

汗と硝煙の匂い。  

ご主人様は、私の匂いを吸い込んで、覚悟を決めた。

「行きましょう、アリア。……私の庭で散らかしてくれたゴミを、焼却処分にしますよ」 

「イエス、マム!」

銀色の狼が、最後の決戦の地へと駆け出した。  

背中の重み、温もり、そして絶対的な信頼。  

それさえあれば、私たちはどんな怪物にだって勝てる。  

さあ、最後のダンスだ。
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