幻想冒険譚:科学世界の魔法使い

猫フクロウ

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それは甘く蕩けて灰になる

魔族の女

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「やっぱり・・・」

ファイゼンの予想は当たってしまった。

「ここを見てくれ。何か怯えてるような顔をしていないか?
そしてこの仕草、来るなと手で言っているように見えないか?」

言われてみれば見えなくはない。

「こじつけじゃねぇのか?」

「こじつけでもいい。でもその場合、ある可能性が浮かび上がる」

「どんな可能性?」

「彼女、しゃべれないんじゃないか?」

「「!?」」

「この距離なら叫ぶ方が伝わりやすい。でも出来ないからこうしたんだ」

可能性としては納得できる。

「さらに付け加えると、文字も読めない可能性がある」

「まさか!?魔族はここの人達と同じ文字や言葉を使ってたんですよね?」

「は・・はい。お互い話せるし、文字も読めました」

「記憶喪失か?」

「いや、記憶喪失は生活に関わる物は忘れない。記憶を無くしても話す、読み書きが出来るのがその例だ」

「でも例外はあるだろ?」

「ああ、でも今はそれを言わないでくれ」

「あ、そういえばメモを投げ捨ててた。あれは読めないからか?」

「ああ、そうだ」

「ちょっといいかしら?」

急遽通信が割り込んできた。

「ちょっと待って・・・いいよ」

「時空管理局所属、ウィンリー・マーキュリーです。突然の割り込みをお許しください」

「え?・・ああ」

どうやら局以外の人間にも聞こえるようにしたようだ。

「こちらの方で先程から話に出ていた魔族について調べたところ、少しですが情報がありました。
まず、彼らは基本的には我々“人種ひとしゅ”と同じですが、混ざっている種族によって変わる部分が多岐にわたります。
さらに彼らは幼少期は何も口にしなくても数年は生きている記録があり、その数年で子供から大人になると記録されています」

その言い方はこの可能性を示唆していた。

「もしかしたら、その生き残ったサテラという方の子供ではないでしょうか?」

「サテラの・・・子供・・・」

「いや、子供だとしてもたった一人で生きていけるのか?」

問いかけたのはトウヤだった。

「普通は無理ね。でも・・・あの結界があれば?」

「ええ、結界は偶然にも彼女を襲う動物を全て灰に変えた。だから彼女は生き延びることが出来たのよ」

「は?それって生まれた瞬間からあの結界が出来たってことか?」

「可能性の一つよ。でも一番可能性が高いかもしれないわ」

「彼女は魔族として生まれたと同時に、あの結界魔法が暴走した。それは身を守るという意味では最も効果的な物だった。
そしてそれは生みの親を始め、数多の動物を寄せ付けないことも意味するわね。幼少期をたった一人で生きてきた。
彼女の魔族としての力がそれを可能としたのよ」

「ずっと一人だから文字も言葉も知ることは無かっんだな」

ファイゼンの予想にも繋がる。

「気付かれなかったのは、子供の頃は結界の範囲がもっと狭かったかもしれねぇな」

「そうね。子供の頃から同じ範囲の暴走とは考えにくいわね」

「暴走・・・そうだ、静かな暴走ってこんなに長く続くのか?」

「あ・・・そうだな。常に暴走してるとは考えにくい。魔力もいずれ尽きるわけだし」

「静かな暴走は自覚出来ないくらい本人に影響がねぇから、人知れず消えてる時があるはずだ」

「ならそのタイミングで接触して能力を封印すれば保護できるんじゃね?」

「問題はそれがいつ来るかだな」

難題に光が射し、作戦の方向が決まっていく。

しかしポーラはそこに水を差すようにまだある可能性を出した。

「もしかしたら、その消える時は一生来ないかもしれないわ」

「は?どういうことだよ?」

「確認出来ただけで最大半径2km近くという広範囲の結界。まずそれだけでもかなりの魔力を消費するわ。
さらに小さくなるのを確認したが、消えたのはまだ確認出来ないことから、かなり長時間持続出来ると考えられるわ」

ファイゼンとリーシャはあることに気付いた。

「いつ回復してるんだ?いや、そんな莫大な魔力を誰にも気づかれずに回復してるのか!?」

「え?結界って術者から離れてるから魔力の補給とか関係ないんじゃないのか?」

「魔法は自然の理の一つ。時間という制限があるし、離れてるなら効果は弱まるものよ。
あの結界は動いたり大きさが変わったりと、彼女の動きで変化している。繋がってなきゃ出来ない芸当よ」

「じゃあ、いったいどうやって維持してるんだ?」

「考えられるのは、消費する分だけ・・・いや、それ以上に補給されてるのよ」

「どういうこと?」

ポーラ以外はまだ理解し切れていない。

「トウヤ。ここにきてどれだけ魔法使った?」

「なに?どうしたの急に」

「いいから答えて」

「え・・・えーと、かけで森の往復を三往復くらい。そのうちの一回は一般人を連れてたからプラス一往復くらい。
それに着いた時にみんなまとめてつなぎで・・・・そう言えば疲労感が無いな」

トウヤはボロニアに着いてから、かなりの頻度で魔法を使っている。

特に空間操作魔法の“風打ち”は創った魔法のせいか、かなり魔力の消費が激しい。

その中でも特に消費が激しい“しずめ”・“つなぎ”・“かけ”のうち、二つを主に使っていた。

それなのに消費による疲労感を感じることは無かった。

「それはおそらく、ボロニアの環境のせいよ」

「ああ、なるほど。彼女自身も同じことが起こっていたら消えることはないな」

ここでようやくファイゼンも理解した。

「ボロニアは高濃度の魔力マナが漂っているから魔力の回復が早いの。
そしてトウヤのように薄い環境で育った魔道士なら簡単に回復出来てしまうわ。
もし彼女も薄い環境で回復出来る・・・いや、
このボロニアの環境で即座に回復出来るくらいの回復力なら、暴走は消えないわ」

それは彼女が生きている限り暴走し続けるということだった。



彼女にとって、この望まない力は訳が分からないだろう。

生まれて、物心ついた頃から独りぼっち。

ようやく出会えた同じ見た目の生き物も、狂ったような奇声をあげ襲ってくる。

そして目の前で石となり、灰となり消えていく。

それを幼い頃から目にしたら何を思うだろうか?



「助け・・・られないの?」

呟くように言ったトウヤの言葉にポーラ達は理解した。

「・・・方法が無いわけではない。でも難しいわ」

「“AMS”を使うのはどうにゃ?」

突如、もう一人が会話に加わる。

「リンシェン、起きてたの?」

「にゃ、話は大体解かったにゃ。“AMS”であの結界を打ち消して彼女に直接封印を施せばいけるにゃ」

ふわっと欠伸をしながら言うリンシェンの提案は現実的だった。

「でも“AMS”なんて私たちは使えないわよ?」

「この前の緊急で残骸が局にある可能性が高いにゃ。その一部をおいらが使いまわせばいけるかもしれにゃいにゃ。
出番にゃ~。あれで遊べるにゃ~。楽しみにゃ~」

勝手に話を進めて陽気な鼻歌まじりで準備をするリンシェン。

「まぁリンシェンの提案も悪くないわ。それと私は局に掛け合い、彼女を地球に連れて行けるようにするわ」

「地球に?」

「ええ。暴走の原因にボロニアの濃い魔力マナもあるって言ったわよね?」

「なるほど、地球に連れて行き魔力の供給を止め、からにして暴走を止めるのか」

「リンシェンの案が上手くいけばその必要はないけど、出来なかった時のための準備もしないとね」

「でもどうやって地球に?」

「あの結界を小さくしてもらって、大きな乗り物に乗って移動するのよ」

「どうやって乗ってもらうの?」

「・・・それをトウヤに説得してもらいたいの」

この中で唯一、周りに味方がいないという孤独を知るトウヤは、彼女の気持ちを最も理解できるだろう。

「トウヤなら“魅了チャーム”の効果が薄いってのもあるし、お願いできないかな?」

「・・・言葉が通じないのにどうやってやるんだよ」

「上辺だけの言葉なんていらない。それはトウヤは一番よくわかっているでしょ?」

「・・・・」

「もちろん無理にとは言わない。でもこれが出来なきゃ殺すしか方法がなくなるの」

「・・・わかった。やってみる」

自信は無い。でも彼女を救いたいという気持ちだけは本物だ。

ポーラから思わず笑みがこぼれる。

「よし!ファイゼン、リーシャ。二人は遠方からトウヤのサポート。死なないようしっかり止めてね」

「ああ。わかった」

「今までくたばってた分、動くぜ!」

文字も言葉も通じない彼女の説得。

それがどれだけ難しくても助けたいという気持ちは伝えられる。

トウヤはそう信じていた。
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