幻想冒険譚:科学世界の魔法使い

猫フクロウ

文字の大きさ
61 / 88
それは甘く蕩けて灰になる

魔族の女

しおりを挟む
「やっぱり・・・」

ファイゼンの予想は当たってしまった。

「ここを見てくれ。何か怯えてるような顔をしていないか?
そしてこの仕草、来るなと手で言っているように見えないか?」

言われてみれば見えなくはない。

「こじつけじゃねぇのか?」

「こじつけでもいい。でもその場合、ある可能性が浮かび上がる」

「どんな可能性?」

「彼女、しゃべれないんじゃないか?」

「「!?」」

「この距離なら叫ぶ方が伝わりやすい。でも出来ないからこうしたんだ」

可能性としては納得できる。

「さらに付け加えると、文字も読めない可能性がある」

「まさか!?魔族はここの人達と同じ文字や言葉を使ってたんですよね?」

「は・・はい。お互い話せるし、文字も読めました」

「記憶喪失か?」

「いや、記憶喪失は生活に関わる物は忘れない。記憶を無くしても話す、読み書きが出来るのがその例だ」

「でも例外はあるだろ?」

「ああ、でも今はそれを言わないでくれ」

「あ、そういえばメモを投げ捨ててた。あれは読めないからか?」

「ああ、そうだ」

「ちょっといいかしら?」

急遽通信が割り込んできた。

「ちょっと待って・・・いいよ」

「時空管理局所属、ウィンリー・マーキュリーです。突然の割り込みをお許しください」

「え?・・ああ」

どうやら局以外の人間にも聞こえるようにしたようだ。

「こちらの方で先程から話に出ていた魔族について調べたところ、少しですが情報がありました。
まず、彼らは基本的には我々“人種ひとしゅ”と同じですが、混ざっている種族によって変わる部分が多岐にわたります。
さらに彼らは幼少期は何も口にしなくても数年は生きている記録があり、その数年で子供から大人になると記録されています」

その言い方はこの可能性を示唆していた。

「もしかしたら、その生き残ったサテラという方の子供ではないでしょうか?」

「サテラの・・・子供・・・」

「いや、子供だとしてもたった一人で生きていけるのか?」

問いかけたのはトウヤだった。

「普通は無理ね。でも・・・あの結界があれば?」

「ええ、結界は偶然にも彼女を襲う動物を全て灰に変えた。だから彼女は生き延びることが出来たのよ」

「は?それって生まれた瞬間からあの結界が出来たってことか?」

「可能性の一つよ。でも一番可能性が高いかもしれないわ」

「彼女は魔族として生まれたと同時に、あの結界魔法が暴走した。それは身を守るという意味では最も効果的な物だった。
そしてそれは生みの親を始め、数多の動物を寄せ付けないことも意味するわね。幼少期をたった一人で生きてきた。
彼女の魔族としての力がそれを可能としたのよ」

「ずっと一人だから文字も言葉も知ることは無かっんだな」

ファイゼンの予想にも繋がる。

「気付かれなかったのは、子供の頃は結界の範囲がもっと狭かったかもしれねぇな」

「そうね。子供の頃から同じ範囲の暴走とは考えにくいわね」

「暴走・・・そうだ、静かな暴走ってこんなに長く続くのか?」

「あ・・・そうだな。常に暴走してるとは考えにくい。魔力もいずれ尽きるわけだし」

「静かな暴走は自覚出来ないくらい本人に影響がねぇから、人知れず消えてる時があるはずだ」

「ならそのタイミングで接触して能力を封印すれば保護できるんじゃね?」

「問題はそれがいつ来るかだな」

難題に光が射し、作戦の方向が決まっていく。

しかしポーラはそこに水を差すようにまだある可能性を出した。

「もしかしたら、その消える時は一生来ないかもしれないわ」

「は?どういうことだよ?」

「確認出来ただけで最大半径2km近くという広範囲の結界。まずそれだけでもかなりの魔力を消費するわ。
さらに小さくなるのを確認したが、消えたのはまだ確認出来ないことから、かなり長時間持続出来ると考えられるわ」

ファイゼンとリーシャはあることに気付いた。

「いつ回復してるんだ?いや、そんな莫大な魔力を誰にも気づかれずに回復してるのか!?」

「え?結界って術者から離れてるから魔力の補給とか関係ないんじゃないのか?」

「魔法は自然の理の一つ。時間という制限があるし、離れてるなら効果は弱まるものよ。
あの結界は動いたり大きさが変わったりと、彼女の動きで変化している。繋がってなきゃ出来ない芸当よ」

「じゃあ、いったいどうやって維持してるんだ?」

「考えられるのは、消費する分だけ・・・いや、それ以上に補給されてるのよ」

「どういうこと?」

ポーラ以外はまだ理解し切れていない。

「トウヤ。ここにきてどれだけ魔法使った?」

「なに?どうしたの急に」

「いいから答えて」

「え・・・えーと、かけで森の往復を三往復くらい。そのうちの一回は一般人を連れてたからプラス一往復くらい。
それに着いた時にみんなまとめてつなぎで・・・・そう言えば疲労感が無いな」

トウヤはボロニアに着いてから、かなりの頻度で魔法を使っている。

特に空間操作魔法の“風打ち”は創った魔法のせいか、かなり魔力の消費が激しい。

その中でも特に消費が激しい“しずめ”・“つなぎ”・“かけ”のうち、二つを主に使っていた。

それなのに消費による疲労感を感じることは無かった。

「それはおそらく、ボロニアの環境のせいよ」

「ああ、なるほど。彼女自身も同じことが起こっていたら消えることはないな」

ここでようやくファイゼンも理解した。

「ボロニアは高濃度の魔力マナが漂っているから魔力の回復が早いの。
そしてトウヤのように薄い環境で育った魔道士なら簡単に回復出来てしまうわ。
もし彼女も薄い環境で回復出来る・・・いや、
このボロニアの環境で即座に回復出来るくらいの回復力なら、暴走は消えないわ」

それは彼女が生きている限り暴走し続けるということだった。



彼女にとって、この望まない力は訳が分からないだろう。

生まれて、物心ついた頃から独りぼっち。

ようやく出会えた同じ見た目の生き物も、狂ったような奇声をあげ襲ってくる。

そして目の前で石となり、灰となり消えていく。

それを幼い頃から目にしたら何を思うだろうか?



「助け・・・られないの?」

呟くように言ったトウヤの言葉にポーラ達は理解した。

「・・・方法が無いわけではない。でも難しいわ」

「“AMS”を使うのはどうにゃ?」

突如、もう一人が会話に加わる。

「リンシェン、起きてたの?」

「にゃ、話は大体解かったにゃ。“AMS”であの結界を打ち消して彼女に直接封印を施せばいけるにゃ」

ふわっと欠伸をしながら言うリンシェンの提案は現実的だった。

「でも“AMS”なんて私たちは使えないわよ?」

「この前の緊急で残骸が局にある可能性が高いにゃ。その一部をおいらが使いまわせばいけるかもしれにゃいにゃ。
出番にゃ~。あれで遊べるにゃ~。楽しみにゃ~」

勝手に話を進めて陽気な鼻歌まじりで準備をするリンシェン。

「まぁリンシェンの提案も悪くないわ。それと私は局に掛け合い、彼女を地球に連れて行けるようにするわ」

「地球に?」

「ええ。暴走の原因にボロニアの濃い魔力マナもあるって言ったわよね?」

「なるほど、地球に連れて行き魔力の供給を止め、からにして暴走を止めるのか」

「リンシェンの案が上手くいけばその必要はないけど、出来なかった時のための準備もしないとね」

「でもどうやって地球に?」

「あの結界を小さくしてもらって、大きな乗り物に乗って移動するのよ」

「どうやって乗ってもらうの?」

「・・・それをトウヤに説得してもらいたいの」

この中で唯一、周りに味方がいないという孤独を知るトウヤは、彼女の気持ちを最も理解できるだろう。

「トウヤなら“魅了チャーム”の効果が薄いってのもあるし、お願いできないかな?」

「・・・言葉が通じないのにどうやってやるんだよ」

「上辺だけの言葉なんていらない。それはトウヤは一番よくわかっているでしょ?」

「・・・・」

「もちろん無理にとは言わない。でもこれが出来なきゃ殺すしか方法がなくなるの」

「・・・わかった。やってみる」

自信は無い。でも彼女を救いたいという気持ちだけは本物だ。

ポーラから思わず笑みがこぼれる。

「よし!ファイゼン、リーシャ。二人は遠方からトウヤのサポート。死なないようしっかり止めてね」

「ああ。わかった」

「今までくたばってた分、動くぜ!」

文字も言葉も通じない彼女の説得。

それがどれだけ難しくても助けたいという気持ちは伝えられる。

トウヤはそう信じていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...