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【01】カイネ一人旅Ⅰ
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そしてあの愚かな女は声を失ったのさ――
いつものように体を重ねたあと、ハワードは聞いたことのない歌を口ずさみ、そんなことを呟いた
ハワードがむかし抱いた女のことだろうと、カイネは深く考えないで目蓋を閉じ眠りに落ちた
※ ※ ※ ※
カイネはダンジョン探索を生業とする冒険者だ。
カイネにダンジョンについて教えてくれた考古学者だった実父は、調査中の古代ダンジョンの暴走に巻き込まれて死亡して以来、カイネはほとんど一人で生きてきた。
ギルドに属し、実父が教えてくれた知識を使い、ダンジョンで手に入れた宝を売る。
多くの者はパーティーを組むが、カイネは単独を好み、無理することもなく気ままに行動していた。
「ハワードの野郎の夢なんざ、久しぶり……いや、初めてか?」
カーテンの隙間から差し込む明かり。宿のベッドで目を覚ましたカイネは、実父の死後に僅かながら組んだことのある、数少ない冒険者の中で、もっとも長く組んだハワードの夢をみたことに驚く。
ハワードは他の組んだことがあった冒険者とは違い、体の関係もあったが、カイネとしてはそこまで思い入れが深い相手でもなかった。
カイネとハワードと関係を解消したのは、一年と少し前のこと。腕は良かった……どころか良すぎる程だったが、残虐嗜好が強く、ダンジョンで魔物を殺害するときも、不必要に苦しみを長引かせる傾向があった。
カイネも魔物を殺すことに関しては、大陸の人々のほとんどと同じく『魔王の配下の残滓など殺して当然』という考えの持ち主だが、そんな考えを持っているカイネですら、そこまで苦しめるのはどうなのだろうか? と疑問に感じるほど。
なによりハワードはたしかに、そこに悦びを感じていた。
トーチに照らされた口の端が歪につり上がった横顔に、カイネは恐怖を覚えなかったといえば嘘になる――その後、ダンジョンを出てすぐに別れた。
ハワードと別れて以来、一人で気ままに動いているカイネの夢に、無遠慮に現れたハワード。
「あの横顔の印象が強かったのか、それとも……」
あの日、あのベッドの上で「あの女」といった時の表情を覚えていないが、夢の中でのハワードの表情はカイネが別れを考えた、あの横顔だった。
カイネは悪夢を振り払うよう、頭を軽く振ってから着替える。
そしていつものように宿の一階にある食堂で、朝食を取た。
焼きたてだが固めのパンと、粗みじん切りにした馬肉に、同じような大きさに刻んだ香味野菜を三種類ほど加えてこねて一口サイズに成型て、やや甘みが強いソースで煮込んだ肉料理。宿屋にくっついている食堂の定番料理。
カイネはパンをちぎり口に放り込み、肉料理にフォークを刺し息を吹きかけて少し冷ましてから口へと運ぶ。
食堂が随分とざわついていることには気づいていたが、カイネは興味はなかった。
食事を終えて散歩がてらに街中を歩いていると、不穏な言葉が耳に届く。
「火の国が攻め込んだ」
「次はこの国かね」
聞くつもりはなかったが耳に入ってはくる――噂を総合すると「森の国が火の国に攻め込まれた」”らしい”ことが分かった。
それが本当ならば傭兵募集がかかるだろうと考え、カイネは食事を終えると宿を出てギルドをへ足を向けた。
降り注ぐ陽射し。手で影をつくり仰ぎみる。
襟が高く丈も膝まである紺色の上着をひるがえしながら、カイネは通りなれた道をゆっくりと歩く。
往来をゆく人々の表情は険しいものが多く、侵攻に関する噂は本当なのだとカイネは実感した。
カイネは探索を生業としている冒険者だが、争いごとをまったく経験していないわけではない。過去に何度か小領主の小競り合いなどに「何ごとも経験だ」として、参加したことがある。そして自分には「むかない」という結論を出し、以降はダンジョン探索専門で、人々の争いには手を出していない。
今回も争いごとに手を出すつもりはないので、戦火が及ばない国に赴きダンジョン探索をするために、状況を知るためにギルドへ。
いつものように体を重ねたあと、ハワードは聞いたことのない歌を口ずさみ、そんなことを呟いた
ハワードがむかし抱いた女のことだろうと、カイネは深く考えないで目蓋を閉じ眠りに落ちた
※ ※ ※ ※
カイネはダンジョン探索を生業とする冒険者だ。
カイネにダンジョンについて教えてくれた考古学者だった実父は、調査中の古代ダンジョンの暴走に巻き込まれて死亡して以来、カイネはほとんど一人で生きてきた。
ギルドに属し、実父が教えてくれた知識を使い、ダンジョンで手に入れた宝を売る。
多くの者はパーティーを組むが、カイネは単独を好み、無理することもなく気ままに行動していた。
「ハワードの野郎の夢なんざ、久しぶり……いや、初めてか?」
カーテンの隙間から差し込む明かり。宿のベッドで目を覚ましたカイネは、実父の死後に僅かながら組んだことのある、数少ない冒険者の中で、もっとも長く組んだハワードの夢をみたことに驚く。
ハワードは他の組んだことがあった冒険者とは違い、体の関係もあったが、カイネとしてはそこまで思い入れが深い相手でもなかった。
カイネとハワードと関係を解消したのは、一年と少し前のこと。腕は良かった……どころか良すぎる程だったが、残虐嗜好が強く、ダンジョンで魔物を殺害するときも、不必要に苦しみを長引かせる傾向があった。
カイネも魔物を殺すことに関しては、大陸の人々のほとんどと同じく『魔王の配下の残滓など殺して当然』という考えの持ち主だが、そんな考えを持っているカイネですら、そこまで苦しめるのはどうなのだろうか? と疑問に感じるほど。
なによりハワードはたしかに、そこに悦びを感じていた。
トーチに照らされた口の端が歪につり上がった横顔に、カイネは恐怖を覚えなかったといえば嘘になる――その後、ダンジョンを出てすぐに別れた。
ハワードと別れて以来、一人で気ままに動いているカイネの夢に、無遠慮に現れたハワード。
「あの横顔の印象が強かったのか、それとも……」
あの日、あのベッドの上で「あの女」といった時の表情を覚えていないが、夢の中でのハワードの表情はカイネが別れを考えた、あの横顔だった。
カイネは悪夢を振り払うよう、頭を軽く振ってから着替える。
そしていつものように宿の一階にある食堂で、朝食を取た。
焼きたてだが固めのパンと、粗みじん切りにした馬肉に、同じような大きさに刻んだ香味野菜を三種類ほど加えてこねて一口サイズに成型て、やや甘みが強いソースで煮込んだ肉料理。宿屋にくっついている食堂の定番料理。
カイネはパンをちぎり口に放り込み、肉料理にフォークを刺し息を吹きかけて少し冷ましてから口へと運ぶ。
食堂が随分とざわついていることには気づいていたが、カイネは興味はなかった。
食事を終えて散歩がてらに街中を歩いていると、不穏な言葉が耳に届く。
「火の国が攻め込んだ」
「次はこの国かね」
聞くつもりはなかったが耳に入ってはくる――噂を総合すると「森の国が火の国に攻め込まれた」”らしい”ことが分かった。
それが本当ならば傭兵募集がかかるだろうと考え、カイネは食事を終えると宿を出てギルドをへ足を向けた。
降り注ぐ陽射し。手で影をつくり仰ぎみる。
襟が高く丈も膝まである紺色の上着をひるがえしながら、カイネは通りなれた道をゆっくりと歩く。
往来をゆく人々の表情は険しいものが多く、侵攻に関する噂は本当なのだとカイネは実感した。
カイネは探索を生業としている冒険者だが、争いごとをまったく経験していないわけではない。過去に何度か小領主の小競り合いなどに「何ごとも経験だ」として、参加したことがある。そして自分には「むかない」という結論を出し、以降はダンジョン探索専門で、人々の争いには手を出していない。
今回も争いごとに手を出すつもりはないので、戦火が及ばない国に赴きダンジョン探索をするために、状況を知るためにギルドへ。
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