別れのときは沈黙で

六道イオリ/剣崎月

文字の大きさ
1 / 7

【01】カイネ一人旅Ⅰ

しおりを挟む
そしてあの愚かな女は声を失ったのさ――

いつものように体を重ねたあと、ハワードは聞いたことのない歌を口ずさみ、そんなことを呟いた
ハワードがむかし抱いた女のことだろうと、カイネは深く考えないで目蓋を閉じ眠りに落ちた

※ ※ ※ ※

 カイネはダンジョン探索を生業とする冒険者だ。
 カイネにダンジョンについて教えてくれた考古学者だった実父は、調査中の古代ダンジョンの暴走に巻き込まれて死亡して以来、カイネはほとんど一人で生きてきた。
 ギルドに属し、実父が教えてくれた知識を使い、ダンジョンで手に入れた宝を売る。
 多くの者はパーティーを組むが、カイネは単独を好み、無理することもなく気ままに行動していた。


「ハワードの野郎の夢なんざ、久しぶり……いや、初めてか?」

 カーテンの隙間から差し込む明かり。宿のベッドで目を覚ましたカイネは、実父の死後に僅かながら組んだことのある、数少ない冒険者の中で、もっとも長く組んだハワードの夢をみたことに驚く。
 ハワードは他の組んだことがあった冒険者とは違い、体の関係もあったが、カイネとしてはそこまで思い入れが深い相手でもなかった。
 カイネとハワードと関係を解消したのは、一年と少し前のこと。腕は良かった……どころか良すぎる程だったが、残虐嗜好が強く、ダンジョンで魔物を殺害するときも、不必要に苦しみを長引かせる傾向があった。
 カイネも魔物を殺すことに関しては、大陸の人々のほとんどと同じく『魔王の配下の残滓など殺して当然』という考えの持ち主だが、そんな考えを持っているカイネですら、そこまで苦しめるのはどうなのだろうか? と疑問に感じるほど。

 なによりハワードはたしかに、そこに悦びを感じていた。

 トーチに照らされた口の端が歪につり上がった横顔に、カイネは恐怖を覚えなかったといえば嘘になる――その後、ダンジョンを出てすぐに別れた。
 ハワードと別れて以来、一人で気ままに動いているカイネの夢に、無遠慮に現れたハワード。

「あの横顔の印象が強かったのか、それとも……」

 あの日、あのベッドの上で「あの女」といった時の表情を覚えていないが、夢の中でのハワードの表情はカイネが別れを考えた、あの横顔だった。

 カイネは悪夢を振り払うよう、頭を軽く振ってから着替える。
 そしていつものように宿の一階にある食堂で、朝食を取た。

 焼きたてだが固めのパンと、粗みじん切りにした馬肉に、同じような大きさに刻んだ香味野菜を三種類ほど加えてこねて一口サイズに成型て、やや甘みが強いソースで煮込んだ肉料理。宿屋にくっついている食堂の定番料理。

 カイネはパンをちぎり口に放り込み、肉料理にフォークを刺し息を吹きかけて少し冷ましてから口へと運ぶ。
 食堂が随分とざわついていることには気づいていたが、カイネは興味はなかった。
 食事を終えて散歩がてらに街中を歩いていると、不穏な言葉が耳に届く。

「火の国が攻め込んだ」
「次はこの国かね」

 聞くつもりはなかったが耳に入ってはくる――噂を総合すると「森の国が火の国に攻め込まれた」”らしい”ことが分かった。
 それが本当ならば傭兵募集がかかるだろうと考え、カイネは食事を終えると宿を出てギルドをへ足を向けた。
 降り注ぐ陽射し。手で影をつくり仰ぎみる。
 襟が高く丈も膝まである紺色の上着をひるがえしながら、カイネは通りなれた道をゆっくりと歩く。
 往来をゆく人々の表情は険しいものが多く、侵攻に関する噂は本当なのだとカイネは実感した。

 カイネは探索を生業としている冒険者だが、争いごとをまったく経験していないわけではない。過去に何度か小領主の小競り合いなどに「何ごとも経験だ」として、参加したことがある。そして自分には「むかない」という結論を出し、以降はダンジョン探索専門で、人々の争いには手を出していない。
 今回も争いごとに手を出すつもりはないので、戦火が及ばない国に赴きダンジョン探索をするために、状況を知るためにギルドへ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

貴方に復讐しようと、思っていたのに。

黒狐
BL
 前世、馬車の事故で亡くなった令嬢(今世は男)の『私』は、幽霊のような存在になってこの世に残っていた。  婚約者である『彼』が私と婚約破棄をする為に細工をしたのだと考え、彼が無惨な末路を迎える様を見てやろうと考えていた。  しかし、真実はほんの少し違っていて…?  前世の罪や罰に翻弄される、私と彼のやり直しの物語。 ⭐︎一部残酷な描写があります、ご注意下さい。

仲良くなったと思った相手は、どうやら友達なんて作りたくないらしい

たけむら
BL
仲良くなった相手は、どうやら友達なんて要らないっぽい 石見陽葵には、大学に入ってから知り合った友人・壬生奏明がいる。少し冷たそうな第一印象から周りの学生に遠巻きにされている奏明に、とある提案をしてみると、衝撃的な一言が返ってきて…?

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

可哀想は可愛い

綿毛ぽぽ
BL
 平民、ビビり、陰キャなセシリオは王立魔術学園へ入学を機に高校デビューを目指したが敢え無く失敗し不良のパシリをさせられる毎日。  同室者の男にも呆れられ絶望するセシリオに天使のような男が現れるが、彼もかなりイカれた野郎のようで……?セシリオは理想の平和な学園生活を送る事が出来るだろうか。また激重感情を抱えた男から逃げられるだろうか。 「むむむ無理無理!助けて!」 ━━━━━━━━━━━ ろくな男はいません。 世界観がごちゃごちゃです。余り深く考えずに暖かい目で読んで頂けたら、と思います。 表紙はくま様からお借りしました。

生意気Ωは運命を信じない

羊野迷路
BL
小学生の時からかっていた同級生と、進学校(自称)である翠鳳高校で再会する。 再会した元同級生はαとなっており、美しさと男らしさを兼ね備えた極上の美形へと育っていた。 *のある話は背後注意かもしれません。 独自設定ありなので1話目のオメガバースの設定を読んでから進んでいただけると理解しやすいかと思います。 読むのが面倒という方は、 1、Ωは劣っているわけではない 2、αかΩかは2つの数値によりβから分かれる 3、Ωは高校生以上に発覚する事が多い この3つを覚えておくと、ここでは大体大丈夫だと思われます。 独自設定部分は少しいじる事があるかもしれませんが、楽しんで頂けると幸いです。 追記 受けと攻めがくっつくのはまだ先になりますので、まったりお待ちください。

【完結済】王子を嵌めて国中に醜聞晒してやったので殺されると思ってたら溺愛された。

うらひと
BL
学園内で依頼をこなしていた魔術師のクリスは大物の公爵の娘からの依頼が入る……依頼内容は婚約者である王子からの婚約破棄!! 高い報酬に目が眩んで依頼を受けてしまうが……18Rには※がついています。 ムーン様にも投稿してます。

処理中です...