死亡回避困難で悪役令嬢は鬱ってる。―理想ENDは天使も悪魔も出し抜いて大往生ですけど?―

ムツキ

文字の大きさ
5 / 375
第1章・天使降臨

◆ 4・新規ルート ◆

しおりを挟む
 死刑宣告にも等しい鐘の音。
 そしてミランダのノック。
 入ってくる彼女を待たずして、ベッドの上に仁王立ちする。


 どうするっ?!
 何も思いついてません!!!


「お、嬢様……、おはようございます……」

 戸惑ったようなミランダの押すカートには湯気の立つ水盥がある。
 大まかな――本当に大雑把すぎる正解ルートは聞いているのだ。それによれば今までの全てが間違っているわけだから、違う行動を取らねばならない。
 そう思っての初仁王立ちスタートである。


 ポイントは、悪……。
 悪って言われてもっっ、もう即効ミランダ撲殺絞殺パターン経験済だし! 捕らえてある事ない事言って牢獄送りにした事だってある!
 しかもそのパターン全部最悪なENDで『因果は巡るのですね』が最後の言葉になったし?!
 あれは悪ではなかったと????
 よく考えろ……考えるんだ。


 ミランダは私を殺す為に今、この場にいる。
 彼女の目的が殺害ならと、流言解雇から謝罪懇願殺害出奔、時には肉弾戦を挑みもした。
 最終的な対策としては和解目的の会話により問題先送りにて生存権を獲得してきた。

 だが、今回はもっと進んだ特殊行動をする必要があるだろう。

「ミランダ……」
「お嬢様、今日は人手が足りなくて……っ」
「待て!!!!」

 彼女の台詞が『起き上がって懇願時』パターンに突入しかけたと分かった。咄嗟に大声で止めたものの後に続く言葉はない。

 何もない。
 何があるというのだ。

 彼女の事は『第一次ミランダ戦』を生き延びた折に人を使い調べあげている。
 分かった事と言えばミランダ・オットー――彼女は母の為に生きる健気な娘で非の打ち所がない好人物である事くらい。
 後ろ暗い所など何もなく、元より知っていた通りの愛嬌90%な存在。お花畑な妹とも気が合っているくらいには本来穏やかな性格をしている。


 母の為……、彼女の行動の要因は、母!!!
 理由を消す?!?!


「お、お前の母を誘拐した!!」

 ポカンと固まった彼女は間抜けな顔ではあるものの、私の方が千倍可笑しな顔をしている事だろう。
 ああ、分かっている。
 私は馬鹿だとも。
 自分で自分が何を言ったのか問いただしたい程だ。

「……は??」

 痛い無言期間は終了した。
 正直頭は真っ白だったので、折角の沈黙タイムも生かせないままだ。

「あの、お嬢様……? なんと……?」
「お、驚くのもっ、無理はない、な!? そうだろう、驚くだろう?! 驚くがいい!」


 私が一番驚いているしな?!
 あんたの家がどこにあるかすら知らないよ!!!!


「私っ、シャーロット・グレイス・ヨークはお前の! 母を! 誘拐してやったのだ!」

 言い切る事は大事だ。
 悪役らしさを意識しての言葉と台詞だ。参考は『魔女アデレイド戦記』全10巻のアデレイド。もう方向転換はできない。
 始めたからにはこの方向で突っ走るしかない。何が起ころうとも新ルートがスタートしたのだ。

「どうした? 驚きすぎて言葉もないか! それも無理はないな、ミランダよ!」
「お嬢様……一体、どうなさったのですか……。私は、実家が近いですし事情もあって実家からの通いです……。……出勤前、母は家にいました。1時間前の事です」


 ……ミランダ、理路整然じゃないか……。
 合理性とはなんだろう、誰か教えて欲しい。


「私はっ、昨晩お前にクビを申し渡した。その後、人を雇った! 私は、元々知ってるんだよ、ミランダ。全て知っているとも! お前の母の誘拐、これが何を意味するか分かるか? 私は全て知った上でこの台詞を吐いているのだ。この脅し、伝わるな? コレは自衛だよ、コレは!」

 いささか、くどいとは思う。
 それでも強い発言を印象づけることには成功した。証拠にミランダはピクリとも動かない。
 この距離ならば彼女がどんな殺害行動を起こそうとも、避ける自信がある。

「……知ってる? お嬢様が? 全て、ですか……?」
「そうさ! お前にとって私は邪魔者、私を殺そうとしている事だってお見通しさ!」

 糾弾に彼女は俯く。
 やがて、トレードマークの眼鏡を外した。

「そう……知っていたのね……全部。あたしの事を……」

 呟きと共に三つ編みを解いてボサボサになるほどかき回す。どこか狂って見える行為の後に顔をあげた彼女は知らぬ雰囲気で立っていた。
 温和で愛嬌のある娘はどこにもいない。
 仮面を脱ぎ捨てるように彼女は、私が未だ仁王立ちを続けるベッドに腰掛ける。

「あたしねぇ、こんなつもりじゃなかったのよ……でもお仕事だから、さ。あんたが悪いのよ? 清らかであるべき聖女ちゃんに悪影響しか及ぼしそうもない存在でさ、そりゃぁ消えてもらいましょうってなるでしょ?」


 ……何の話?????
 ってか、ミランダ変わりすぎじゃない??? え? ミランダの仕事ってメイドじゃなかったの?!


「でも全部分かった上だって言うなら話は早いわ。今選びなさいよ。聖女の姉として悔い改め行いを正すか。それとも我ら啓教会の断罪を受けるか」

 啓教会――神の啓示や威光を知らしめる為なら何でもありな危険度大集団だ。

 まさかミランダが教団員だなどと、考えた事もなかっただけにショックも大きい。今までのやりなおし期間にそんな話が出た事もなかったのだ。
 ただ、教団員には色々な目に合された覚えはある。
 特に『宗教に狂ったお嬢様』ルートでは悲惨極まる。

「そう、ね……どうしようかしら……ね?」

 かろうじて返す私の言葉は完全に消沈してしまっている。

 ちょっと待ってくれ……私、そこそこ有名な信用調査やってるトコに金出して、調べさせて……後ろ暗いところ0で……。
 あの野郎……っっ、金、返せ……っっ!!!!!
 いや、落ち着け、よく考えろ、問題はもうソコじゃないっ。啓教会だ!
 ……よりによって教団……しかも、妹が聖女ってバレてるしっ。なんで、こんな面倒な事に、つか、啓教会が知ってるなら妹しっかり聖女にしろよっっ。
 いや、……啓教会……。
 そうだ、啓教会!!!!

「ミランダ、今の義妹についてどう思う?」
「はあ?」

 敬意など欠片もないミランダの声と視線。

「あのまんまじゃ、あの子は聖女なんて夢のまた夢!! 私だってあの子には聖女になって欲しいと願ってるっ、というか、本当に心底! 頑張って頂きたい!!!」

 本音である。
 ミランダの瞬きを無視して続ける言葉も、また本音である。

「もっと強い心を持って逆境に立ち向かって悪魔打倒できるくらいの気概をもってくれないとっ。聖女から脱線なんて絶対に合っちゃダメなパターン!!! 将来勇者と魔王討伐するんだから、私の行動如きに左右されるなよ!! でも今、しっかりして欲しいのは妹だけじゃないって気付いたわっ。そうよ、そうだよ、啓教会っっ、啓教会こそもっとしっかり頑張ってくれないと! あんた達は神だけじゃなくて聖女も祭り上げてる……どうしてもっとしっかり聖女に聖女教育とか……」

 天使の発言を思い出し怒りさえ沸いてくる。

「あんた友達ごっこしてる暇あったら啓教会らしく信仰第一にやれよ! 妹のケツを蹴っ飛ばして聖女らしさを身に着けさせて押し上げてっ、しっかりやれよ……、それでしっかり……フローレンスを聖女覚醒に!! もう私は影の存在でOKなんでっ。しっかり悪役でも何でもやってやるんでっ」

 ミランダは驚いた顔で聞いていたが、やがて立ち上がると正面から私を見据えた。

「聞かせて貰える? 只の社会のゴミではないと言うのなら」

 結構ひどい台詞を平然と吐くミランダに涙が零れる。


 そりゃあ、私だってロクな人間じゃないさ。
 でも、だからって……『ちょっと抜けてるけどあの子はイイ子だね』って言われてきてたミランダの、こんな顔と台詞……見たくなかった。
 生まれ変わるうちに、こんな風になれば私のループ展開も終わって改心な方向にって目指した事すらあるっ。
 親しくなかったけどもっっ、イメージ崩れて心削れるわ……!


 愛嬌も笑顔も眼鏡すらない冷えきった女ミランダ。

 分かりましたとも。
 それが本来のミランダ・オットーなら受け入れようじゃないか――これが私の歩むべき新ルートのスタートなのだから。

 覚悟を決め、口を開く。

「ミランダ、私と……手を組んで欲しい」

 そして一番大事な事をつけたそう。

「教団抜きで!!!」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!

幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23  女性向けホットランキング1位 2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位  ありがとうございます。 「うわ~ 私を捨てないでー!」 声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・ でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので 「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」 くらいにしか聞こえていないのね? と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~ 誰か拾って~ 私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。 将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。 塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。 私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・  ↑ここ冒頭 けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・ そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。 「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。 だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。 この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。 果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか? さあ! 物語が始まります。

処理中です...