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第1章・天使降臨
◆ 5・固定する未来 ◆
しおりを挟む「あたしに教団抜きで手を組めって?? そんな事OKすると思ってるの?」
ミランダの声は不審を通り越して、馬鹿にしたような響きさえある。
「希望が先に出てしまった……が、えー……っと、まぁ聞け!」
取り繕うように、慌てて魔女の物真似口調に戻す。
「私には『特殊な能力』がある」
うん、何言ってんだろうね???
ミランダもキョトーーーンとしてるし、さっきまでの馬鹿にした態度より痛いかもしれない、これ。
「特殊能力ですって? メイドとしてあんたに仕えて3年。一度もそんな『特殊』な『能力』を見た事ないわよ」
思いのほか真面目なツッコミと強い視線を向けてくる彼女に、私の心も定まる。
少なくとも今までとは大幅に違う道に足を踏み入れたのだ。これが『悪役』に相応しいかは今は考えない。
ここからは未知の冒険である。方向性だけは決定しているのだから――。
あながち、嘘でもないし……?!
「隠していたのさ。なぜ隠したかは能力の種類に関係する」
「いいわ、話してみなさいよ」
「私の能力は『8~9割くらいの未来が読める』というもの」
「……予知?」
「そうだ……大体何が起こるか分かる。……フワッと、頭に浮かぶのだ。勿論、違う行動をとって未来が動く事もある。幾つかのパターンは同じく続きが見え、幾つかのパターンは予想外の結果に繋がる事もある」
ミランダからのツッコミを先回りして言っておく。
「未来には無限の可能性があるからなっ」
無反応は逆に落ち着かなくなるが、今更引き返す事もできない。
「そして……私はいくつもの人生を体験してきた記憶……前世の記憶がある」
「え、今度は前世の記憶??」
うん、胡散臭いですよね?
分かります、その気持ち。
でも事実だし?!
むしろ実体験だし?!
尤も、前世どころか全部が全部シャーロット・グレイス・ヨークだけど。
流石に声をあげたミランダに、大きく頷いてみせる。
「それでも粗方は問題ないのだよっ。なぜなら私は、未来が大体分かって、膨大な量の前世の記憶もある! 予見未来が多少ズレても記憶のお陰で『こういう方向になりそうだ』と未来予測ができる。これが私の特殊能力だ!」
恐ろしい事に今のところ嘘ではない諸々である。
ミランダにしてみれば性悪令嬢が突拍子もない話を始めたのだから疑って当然。だが私は死に戻り数十年の実績があるのだ。
あれらを予知だの予見だの言う言葉で表すのは若干恥ずかしいが――。
そして、実はミランダの信用を勝ち得るのは簡単だ。
リスタートした人生で、どのパターンでも絶対に起きた出来事を伝えてやればいい。
「私の誕生日に間に合うよう妹は母を連れ戻しにいっているし、父の帰還は午後となっていたな? だが、私の『予見』では母は戻らない。病欠だ。仮病を疑われるも実は流行り病に掛かっている。逆に父は後1時間もしないうちに帰ってくる。特殊能力の真偽はソレで判断してくれればいい」
フローレンスに関するパターンは幾つかあるので言及できない。
「……覚えておくわ」
「ちなみに、父が早く戻ってきた理由は私の誕生会に王妃がくる事になったからだ」
「……ずいぶん、細かくわかるのね?」
そりゃもぉ……体験してきましたから!
「じゃあ、能力についての判断は後にするわ。それらが本当だと仮定して……なんで『手を組む』って発想になったのかしら? 聞く限りその能力があれば無敵じゃない」
「良いところに気付いてくれた! 私は何度も何度も、本当に数えるのも嫌になるくらい生きて死んできたわけだが……」
「ちょっと話盛りすぎでしょ……」
「足りないくらいだ! ともかくその人生の中でも今回は特殊中の特殊状況だ。なんといっても聖女に勇者に魔王……初パターンだ! 実は私のこの能力、聖女には全く効かない! だって相手は聖女ですから?!?!」
「はあ……」
気のない返事のミランダ。
「聖女そのものに関わる未来は見えないのだよ、そう、力が、聖女的な? うん、輝きが? 邪魔をしてるのよ。ただ、周囲の状況から判断できる事はある。聖女の未来はボロボロだ……私としても色々と試してきた! いわゆる癇癪に見えたり、イジメに見えたアレらは全部、私の足掻きだよ!!」
正直、心が痛まないわけでもない。
あれらは当時の私の癇癪そのままでした。
だが『第一次ミランダ戦』の生存及び、別ルート構築の為には仕方ない。実際嘘をいってるわけでもないのだから、いいだろう。
許して、神様……って、いや……神、って、あの天使の上司なら、今後祈るの止めよう!
「全ては聖女フローレンスを覚醒させる為だ。……。そう、魔王は蘇る! その魔王を討伐するのは聖女であり、その番たる勇者! フローレンスの聖女覚醒は絶対必須事項だ。そして……それを為す為には悪役が必要なのだよ」
現段階までに嘘はない。
ミランダも話に耳を傾けているのだから、概ね成功と言える。
「光を輝かせるには闇が必要だ、闇が深ければ深い程に光は輝きを増す。ミランダ、手を貸してほしい。私が良い悪役になれるサポートを頼みたい。そう、聖女を輝かせる為に!」
言うべきことは全て言った。所々おっさん天使の台詞まで引用してみせたし、方向性も指示された通りだ。
賽は投げられたのだ。
ミランダの反応を伺うも、彼女は顎に手をあて考え込んでいる。
「二つ、分からないわ」
二つも?!
審判の門を前にした気分で、続きを待つ。
「一つ目、聞けばあんたの癇癪は幼児の頃からだとか。そんな時分から考えていたと言うの? 聖女がこの家に来る前じゃないの? 私たちだって数年前にやっと聖女がココにいると突き止めてやってきたのに」
「……私は、膨大な過去を抱えて来た……、私は見た目通りの年齢とは言えないよ、たとえ見た目は小娘に見えようとも、子供とは思わない事だ! そうだな、80の老婆と思うがいい! 何より聖女はピカピカ光って眩しいのですぐ分かりましたとも」
「へぇ……元気な老婆ね」
「ハハハ」
乾いた笑いを浮かべるも、ミランダはフフッと漏らす。今まで私に見せたこともない笑顔だった。
そう、例えるならリスとか小動物に対しての物に近い。
「それで? もう一つの質問だけど、なぜ、『居もしない母を誘拐』なんて無駄な脅しをしたの?」
「……っっ!」
言葉を失う。
居ないのかよっっ。
信用調査とか今後は自分でするっ、もう絶対、どこにも頼らない!!!
「言ったはず……予見と予測での結果だ。これが一番いい未来に繋がると判断しての事」
我ながら苦しすぎる言葉だが、彼女は一つ頷いた。
「成程ね、納得は先送りにしておくわ。先ほどの侯爵夫妻への予見実証まで時間があるし。それに信用云々はともかく方向性の一致だから手を組むのはいいわ。あたしは元々聖女の保護と同行観察が目的でヨーク家に入ったんだし? 教団の教義に反しないうちは問題ないわね。全ては、聖女フローレンスの為だしね」
終盤のうっとりとした響きはうすら寒いが、私は力強く頷いた。
小さな事には目を瞑れ、ヤバそうな事は突っ込むなが人生の教訓である。
「よろしく、ミランダ。あ、実は自分の事は自分でできるんで部屋出て行って貰ってOKです。今後お世話最低限でOKです。勝手に顔洗って服着替えますし? できます、私、大人ですから」
「そう、助かるわ」
いえいえ、こちらこそ!
未練一つなく踵を返す彼女が扉を閉めた瞬間、ベッドに倒れ込む。
体は弛緩し、最早立ち上がる気力などどこにもない――が、口元に広がるのは笑み。
我ながら気色の悪い笑い声を立てている自覚はあるので、倒れたまま手だけ伸ばして枕を取ると、顔に押し付けた。
やった……やってやった!!!!
身を包むのは久方ぶりの喜びである。
生き延び、新世界に足を踏み出した実感から震えが体を覆っている。
それでも、私は、第一次ミランダ戦を生き抜いたのだ。
いや、むしろ第二次ミランダ戦や第三次ミランダ戦をせずとも済みそうな気配がある。これらが聖女に対する悪役をやると決めたからこそだというなら、やっと正解を引き当てたと言う事になるのだろう。
ここからが本番……!
大きな悪行を積む存在になれというなら、悪役仲間を作っていくのは大事かもしれない。なんでもしてやろうっ、どうせ一人だけで悪行しても性悪程度で終了なんだし?!
ミランダのように、人を引き込んで一大組織にしてしまう……とか。
そうよ、私の貧困な発想じゃ考え付かないような事を! 行動をしてくれるかも?!
それはとても良い案に思えた。
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