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第2章・快進撃への道
◆ 9・カエルにヘビに、ハト ◆
しおりを挟む貴族出身の子らにとってみれば、家の諸事情で学園を休む事は仕事も同然だ。
よって、誕生日前後当日を含んだ3日は私も休みである。
経験則からも変わり映えのない日々が4月までは約束されている――先輩や『イカ』に関わりさえしなければ――。
これが、どれほど嬉しい事か。
「のに、何で自ら死地に赴く必要が……?!」
ただいま、私、シャーロット・グレイスは数カ月後に吹き飛んで消えた港町にいます。それどころか船着き場に向かって歩いています。
朝っぱらからルーファの尾でペシペシ頬を叩かれ、何だかそれっぽい事を理屈っぽくたれ流され、煩いのでOKした結果だ。
妹は入学に向けての準備があるので置いてきた。
監視はミランダに頼んだ。
尤も、彼女の方では聖女フローレンスにくっついている事は教団の方針に則しており望む所だった。
で、なんでこんな……おかしなことになってんだ!!!
「お前の『予知』で見えたからだろー、どうした? またなんか見えたか?」
白々しくも言う白い小蛇こと、悪魔こと、天使に捻り潰されかけた役立たず、の問いかけ。
大丈夫だと首を振る。
いや、正確にはそのヘビが乗っているカエルへのアピールである。
そう、カエルだ。
私の横には現在、カエルこと王子こと婚約者アレックスが立っているのだ。
豪華な衣裳のカエルなど王子しかいないので、すれ違う人々も生暖かい視線をよこしている。
そんな王子の右肩に、とぐろを巻いた小ヘビはいる。
そして、左肩には鳩が乗っている。
そう、ハトだ。もちろん、あのハトだとも――たとえ色が金色で青い目をしていようともだ。
はい。お忍べて、ないんですよね。
しかもこの3匹、しゃべる。
「知らなかったよ、まさかチャーリーが悪魔を使役できるなんて」
使役などした覚えはないが、ヘビ自身がカエルに『説明』したのだ。
カエルはルーファの存在に昨日から気付いていたらしい。
――そう、カエルは有能だった。
スライ先輩刺殺未遂などがあって優先順位を下げていただけで、とても心配していたそうだ。
なので、本日朝っぱらからハトを引き連れ現れたカエル王子は「悪魔がいる」と言い出した。
思い出しても面倒くさい事にちょっとした押し問答となった。
最終的に困った私の代わりに、ルーファ本人が自分は獣魔のような存在で、契約の元に私と相棒関係にあると――歴史で習ったような古びた知識をひけらかし納得させたのだが。
カエルめ、獣魔だか従魔だか分からないが『そういうモノ』的なモノをもっていた!!!
これは想像してもなかったっっ、しかも!!!!
その獣ってのが……また。
チラッと見れば、金色のハト。
こちら、プリンス・オブ・コンクエストが毎度引き継いできた『守り神』のようなモノらしい。
姿は大体、鳩らしいが人の姿にも化けられるという。
姿はとんでもない美少年だとカエルは言った。
「そりゃ仕方ないって」
だが声はおっさんだ。
「あの魔女オリガが使ってたってだけでも印象悪いからねー、しかも予知とセットなんて、まるでオリガだよ。隠すのが人情さ」
おっさん声でハトはしゃべる。
ちなみに聞き覚えしかない声だ。
天に帰ってないないじゃん、天使!!!!
何より絶対、人型とるなよ……? 美少年のおじさん声ききたくない!!!
このメンバー上、私の死に戻りで知りえたアレやコレを知らないのは王子であるカエルのみだ。
ミランダに話した事に近い予知能力について説明したが、勿論カエルは訝しんでいた。
それを納得させたのは他でもないハトだったりもする。
「守り神様なら、今から船に乗るのも安心ですね。すごーく嬉しいです」
「はぁ? 乗るならソッチの悪コンビで乗れよ? オレと王子は乗らないぞ。巨大イカとか気持ち悪いし」
棒読み調子で言えば、ハトは拒否を明言する。
「……いや、じゃ何しに来たの……?」
「え? モリガミ様、ボクは行くよ。未来で何か起きるなら、現状を正しく知っておかないと対処のしようがないし」
「町を救う方法、それこそハトが頑張ればいいんじゃないの?」
そもそもソレ、あの天使でしょ?
「ボクらは戦いに特化してないんだよ。本当は騎士団を呼ぼうとも思ったんだけど、まだ確証がない予知だけでは……流石に呼べなくて。ごめんよ、チャーリー」
「……別に」
このカエルが悪いわけじゃないし……。
なんなら、一番役に立とうとしてくれてるし?
「じゃあ、一緒に乗るでいいのね?」
「お父様に王子とデートだからって言って船出す用意してもらったし、そもそも乗ってもらわないとこっちの都合にも関わるし」
「わかってるよ。あ……ほら、アレじゃない? ヨーク家の旗が上がってるよ」
白い帆船を指さすカエル。
無駄話をしているうちに船着き場についてしまったようだ。
こちらに気付いた船員が声をあげ、あっという間に一個師団の王国騎士団が列を作る。
「あー……流石、お父様だわ……」
王子と出ると言ったからこその措置だと分かる。
つくづく仕事面では失敗の少ない人だ。
「プリンス・オブ・コンクエスト! お待ち申しておりましたっ」
一斉の敬礼は私にも向いている。
案内されるままに船に乗り込み、出発するも具体的な場所はないのだ。
かつて、出た場所を散策するくらいしか今できる事はない。
和やかに見えようとも、この海には得体のしれない生物が潜んでいる。かつて体感したから知っている。
帆船など足の一巻きの大イカだ。
今日昨日生まれた存在ではない。つまり、すでに――この青い海面の下にいるのだ。
「カエ、……アレックス」
「ん?」
第三者が多すぎるので、私も配慮する。
「正確な場所は分からないけど、大体覚えのある……予知した場所、丸印つけてきた」
地図を差し出せば、カエルはカエル顔でもそれとわかるほどに渋い顔をした。
「いや、これ可笑しいよね?? 海のほぼ全部が円で囲まれてるんだけど??」
「どっちかといえば王国側で上の方にしてるでしょ」
「それはそうだけど、範囲広すぎるよっ。今日で全部回るのムリだよ??」
「近くにいればルーファが見つけられるでしょっ」
「は? いや、お前、何いってんの?? 俺様とイカに共通点ねぇだろっ」
「うーん、どうしよう……でも、予知だもんね……場所の特定は難しいか……名目は領海周辺の遊覧にして……」
一人でブツブツ呟き、カエルは船長に出港の話をしに去っていく。
私の指に戻ってきたルーファを睨みつける。
「いやいや、あんた言ったじゃん! 討伐手伝うってっっ」
「討伐は、な。探すのは俺様の仕事じゃねぇし。ってか、そんなのどうやって見つけるんだよ」
「同族わかんないの?!」
「だから、同族じゃねぇーんだって! いいか、よく聞け?! 上は天で、下は獄だ。ここは中域の世界だ。モンスターも人もこの世界で生まれてる存在だ。むしろイカの同族って意味ならお前らと同族なんだよ」
「あんなのと……」
ルーファが更に口をパカリと開いた時、ハトのクチバシがざっくりと頭に刺さった。
声にならない悲鳴をあげる小蛇をくわえ、ポイっと床に捨てるハト。
「いらない情報与えるなって、幼児悪魔。で、役立たずの悪魔に変わってオレが場所を教えてやろう。近くなったらオレが一声鳴く。今日のところはそこで切り上げろ。まだ問題の生物は生まれてもないからな」
「え?」
「あれらが生まれるには条件がある。まだ足りてないのさ」
それって、生まれなくすることも出来るってこと?!
「そんな残酷な事をよく思いつくな。我ら生まれ出でるモノは悪魔すらも受け入れているというのに」
「いや、ルーファの処理にきたよね???」
「それは当然だろ? それより、オレの正体はお前の思ってる存在とは少し違うって事を伝えにきた。オレはこの世界に残されたカケラでしかない。オレにはオレに課せられた役割があっての事だが」
そこで言葉を切り、ハトは振り返る。
カエル王子が戻ってくるところだった。
「場所は教えてやるから、機を待て。今日じゃない。王子には内密に」
羽ばたき、王子の肩に納まるハト。
「チャーリー、船長に言ってきたよ。日が暮れる頃には港に戻るって確約させられたけど、ある程度自由に動かしてくれるって」
「ありがと」
「え、どうしたの?? 随分、控え目で……ちょっと怖いんだけど」
「昔からそうだけど……」
あんたがイイ奴すぎて驚いてる。
「あんたって王になる気ないとか言ってたり、カエルだとか云々はともかく、王様には向いてんじゃない」
「……ありがとう、チャーリー」
たまには素直な感情を伝えておいた。
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