死亡回避困難で悪役令嬢は鬱ってる。―理想ENDは天使も悪魔も出し抜いて大往生ですけど?―

ムツキ

文字の大きさ
44 / 375
第5章・天獄の誓い

◆ 3・思惑 ◆

しおりを挟む
「チャーリー、封じられた書庫を見てくるよ。やりすごし方もあるかもしれない……。あそこは有史以来の禁書が揃っているからね」

 カエルの言葉は右から左に流れている。
 ミランダが来るのだ。
 必ず、来ることが決まってしまったのだ。

「おい! で、この人間たちはどうするんだ? 拷問だろ? どっか切り落としたり、剥いだりするか?」
「ルーファ、チャーリーはちょっと考えられなくなってるからこっちで話そうか。そうだね。話せるようにはしてくれる?」

 カエルが主導で何かが始まるのだと、顔をあげる。

「あのイノシシが、あなた方が用意したモノである事は分かっています。ミランダがヨーク嬢を殺そうとした所も見ました。ですが、分かりません。なぜ狙わせたのですか? ボクの調べではミランダに魔法の才能はありませんでした」

 そういえば、と思い起こす。
 確かに彼女は魔法が使えた事は驚きだ。事態が事態だった為、考えもしなかったがおかしな事だ。今までのやり直し人生でもミランダとは色んな肉弾戦を繰り広げて来たが、その中に魔法での攻撃はなかったのだ。


 あれが、ミランダの魔法じゃないなら……私、見当違いの恨みを買った事に?!


「あの火炎呪文も、彼女のものではありません。ミランダは……おそらく魔法壺を使いました。痕跡すら残っていないのは恐ろしいですが……暗殺用ですよね?」

 魔法壺とは、魔法を詰めた壺だ。割る事によって魔法は解放され力を発揮する。だが、指向性が難しく高位の魔法ほど高額だ。
 ミランダが買えるものではない。

「じゃ、狙われたのはカエルなんじゃないの? 私殺すのに魔法壺って」

 金額的に元が取れる話ではない。

「いや、チャーリーだと思うよ? 成婚予定日も公表されたし、そろそろ出るかもとは思ってたけど。こっち方面とは思わなかったな」
「どういう事?」
「ボクって一応……第一王子なんだよね」
「そうね?」
「カエルでも王子で、おそらく継がないだろうと思われている王子なんだ。……予定でも3番目か4番目の弟に王位継承権を譲るつもりだし。それってつまりボクの旨味は婚家の実家って事になるんだよね」


 つまり? カエルの旨味狙うなら、私を引きずり下ろした方がいいと?


「それは納得してもいい。でもアレックス、なんでそれの片棒をミランダが?」
「そこだよね」

 カエルも神官服の男たちを見つめる。

「チャーリーを殺したい理由はボクも分かるんだ。なぜ教団が後押ししたのか、だよね」

 年嵩の男が苦々しい顔で唾を吐いた。

「神は仰られた!! 貴様は悪魔の手先になるのだとっ、全てを平らかにしてしまうのだと!!!! 始まりはあの日、お前が産声をあげた瞬間から始まった」
「意味が分からないんですよね」

 狂ったように猛る狂信者に対して、カエルは冷静だった。

「そこはもう分かっています。教団がボクの託宣以来、色々と思っている事は知っていますし。こちらだってそちらを可能な範囲で監視の元の自由を許してきました。ですが、ヨーク嬢を狙う意味が見いだせない。現状、教団の後押しとして支持を取り付けたいのであれば、第3王子の婚家などを目指した行動が良いと思います」

 カエルが普段何をしているかは知らないが、色々と王子らしい行動はしていたようだ。元々賢明な男だ。実際、いくつかの時間線では列強諸国と同盟や支配や――色々と画策していた事もあった。


 教団が動いてるんだし、フローレンス関連でって事よね? 多分。


「私を狙ったのは聖女がらみでしょ」
「それはどうかな? そこで質問なんだけど、ボクって魔王だったりしないよね?」
「え?」

 カエルを見る。
 何を言い出すのかと思い、次の瞬間に理解する。おそらく彼は自分に下された託宣とやらについて悩んでいたのだ。
 聖女や悪役の傍に魔王や勇者がいる事もオリガの話から分かっている。
 自分に割り振られあ役割は何だろうと考えた先に行きあたってしまったのだろう。


 いや、あんたは勇者なんじゃ?
 覇王とか、そんなの勇者でしょ絶対。


「魔王って意味では第二王子なんじゃない? あんたより酷い託宣だったみたいだし?」
「それはどうかな。昔からボクは教団に嫌われてきた。それが魔王だからっていうならある程度は納得もできるんだ」


 どうかな?
 嫌われてんのは、カエルだからじゃないの??


 珍しく先走った内容に思えて首を傾げる。

「じゃあ、アレックス。とりあえず話したくなるまで拷問しよう」
「……チャーリー……それは」
「大丈夫よ。蜘蛛好きに蜘蛛を群がらせても意味がないのと一緒。こいつらは拷問OKどんどん来いって思ってんのよ」

 そう、私はかつての世界で彼らと殺り合い知っている。

「彼らが痛いのは、背徳、不信心、神への冒涜、そして悪魔崇拝。そういう宗派の理念を裏切る行為なわけよ。そこでルーファ!」
「お?」
「こいつらの家を神を象ったモノぜーんぶ悪魔に変えちゃって! ついでに祈るたびに悪魔からの甘い囁き声が聞こえるとかもいいわね? 神に祈りながら、隣には悪魔しかない。この絶望、最高でしょう?」

 ルーファが何かを言おうとするも、カエルが一瞬早くその口にパンを突っ込む。
 首を傾げ、パンを見つめるルーファ。
 初めての出会いだったのか、目が爛々に輝いている。


 流石カエル。今、絶対ルーファのヤツは『そんな都合の良い魔法ねぇ』とか言おうとした。問題はできるかどうかじゃない。信じるかどうかよ!


 青い顔をしている教団員を前に、もう一声をと口を開く。
 口にパンが突っ込まれた。


 うん、うまい。


「悪魔崇拝というものに具体性はないんですよね。第三者から見て、それはとても抽象的なモノです。信じる信じないは個人の感情ですし。信心を謳いながら背徳を行う事も良くあります。そして信心とは上に近ければ近いほどに狭い世界です」

 カエルの真面目な言葉の最中にルーファは「うまいな、これ」などと声をかけてくるが放置した。

「狭い世界は排斥によって確立しています。あなたがたが白い目で見られ教理から排斥される程度の事なら、今のボクでもできますよ」

 言外にどうします、と問いかけている。
 彼らにとっては一番されたくない事だろう。


 相変わらず、人の痛い所をつくのがうまい。


「何が聞きたい……」

 男の言葉にカエルは再度問う。

「なぜミランダにヨーク嬢を殺させようとしたのですか?」
「……お前たちの結婚を阻む事が神から与えられた役目だからだ……」
「神、ですか。抽象的ですね? 直に頼まれたのですか?」


 カエルよ、神は分からないが天使は言いに来たかもしれないぞ?


 フットワーク軽めのおっさん天使を思い起こす。

「天使様だ……」
「まさか……それ!!!! 髭の半裸おっさん?!」

 私は食いついた。
 男は逡巡し頷く。「罰当たりな」という声も聞こえたが、そこはもう関係のない事だ。おっさん天使こと、私の前世だかの兄が何かをしているのだ。


 くそ、名前思い出せないっっ。
 あいつ、一体なにを?? 私を箱庭に押し込めて、ミランダに命を狙わせてきたってこと? それってなんで? だってアイツは妹の事を大事にして見えた。
 私とは違っても、この魂が妹なら、守ろうとするんじゃって思ってたけど、やってることが全部反対じゃん!!


「チャーリー?」
「半裸のおっさん、みたでしょ? あの記憶の……魔王を瞬殺したヤツよ!」

 カエルはやっと髭の半裸おっさんと天使が繋がったようだ。

「おっさん、ではなかったような?」
「確かに、ちょっと若かったけど! 今はもうおっさんよ!」
「で、どういう事? チャーリー」

 パンを欲しがる悪魔に荷物から食べ物を広げる。
 おもむろに人間食に手を出すルーファ。

「私もよくわかんないけど、私もその書庫いくわ! 天使について調べたいのっ」
「それは、いいけど」

 カエルの目が後ろの犯罪者たちにそそがれる。

「あぁ、ルーファ。後は頼んだ!」
「え?」
「ちょっと食事にして気力減退させて、どっかに押し込めといて!」

 ルーファの食事事情を知らないカエルが焦る。

「チャーリー、悪魔の食事って?!」
「死にゃしないってっ。それより行くわよ! 時間ないのよっっ、私はミランダに狙われてるんだから! ついでにダースで私の警護も雇ってちょうだい!」

 彼の返事を待たずに、御者に命じる――行先は王城だ。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...