45 / 375
第5章・天獄の誓い
◆ 4・封じられた書庫 ◆
しおりを挟む王城の地下には秘密がたくさんある。
拷問部屋を始め、各種呪具、あらゆる薬物が詰まった薬部屋、弑逆された王の墓もあれば、大昔に使用していたという祭具もある。
そしてそれらを全て通り過ぎた最下層。
カエルは閂のかかった部屋の扉を開く。
薄暗い室内には井戸のような穴だけがある。
私も知っている。井戸には梯子が下へと続いており、そこからはまともな道すらもない洞窟のような横穴を歩いていくのだ。
封じらた書庫――どれほど昔に封じられたのかも分からない。
数十年前のリスタート時に入った折に、見たままの姿だ。カエルから逃げて迷い込んだ挙句、書庫で餓死した苦い記憶だ。
「チャーリー? 大丈夫?」
カンテラを手にしたカエルが心配そうな声を出す。
あのカエルは、操られたりとかしてたしな……。
「うん。で、指輪もってきたの?」
封じられた書庫とは言うが、鎖のかかった本があるわけではない。書棚に並ぶ本の中にはそういった部類もあるが、一番は中心に据えられた水晶球だ。
どこから見ても普通の水晶玉なのだが、王家の指輪を填めて触れれば知識が映像となって見れるのだという。
「陛下に頼んで借りて来たよ。ただ量が膨大だからね、最適な検索ワードを見つけるまでが大変かな」
「よし、任せた!」
「……チャーリーには、紙媒体の方を頼んでいい?」
「……えぇ……がんばるわ」
天井が見えない程の巨大な本棚が乱立する部屋だ。かつては腹が減りすぎて食べようと口に含んだ事すらある本たちだ。
やる気は薄いが、やるしかないのだ。
私は本棚に掛かった梯子へ、彼は水晶玉へと手を伸ばす。
月並みに言えば古今東西の歴史や秘密に塗れている本たちだ。どれが特別かなど、最早分からない。重苦しい文章と前置きで脱落しそうになった事も多々だ。
それでも数冊は読んだ。
そして――脱落した。
「チャーリー、あったかもしれない」
本を開いたまま眠りに落ちていた私を起こしたのはカエルだ。
いつの間にか身体にはカエルのコートが掛けられていた。
「それ、私も見られる?」
「王家の名と指輪がいるから……結婚してないし無理だね」
「……今、結婚するわ!」
「いやいや、チャーリー落ちついて。どうも、可笑しいんだ。歴史によると、憎悪と人数がポイントなんだよね」
憎悪と人数? 何の話よ。
「悪徳値という概念があって、たくさんの死に関わった人間が悪魔に捧げ物をする。悪魔は応える。捧げられた者は供物となるが、その後、捧げた人間の魂を刈り取りにくる。地上から醜悪な種を取り除かれる」
「どの辺がおかしいの? さっきのルーファの説明まんまじゃない」
「悪魔が地上の浄化に一役かってるんだよね。悪行への報いを悪魔が起こすの、可笑しくない? 世界が汚れれば悪魔には生きやすいんじゃないかなって思ったんだけど」
カエルの言う思想的な事は分からない。むしろどうでもいい。
「問題はミランダを止められるかよ」
「そうだね。チャーリーが思ってるよりも難しくない」
「そうなの!?」
「契約を持ち掛けるんだ。悪魔は契約に逆らえない」
「け、契約?? 私がミランダと? 何の契約するのよ」
内容はなんでもいいのだと、カエルは言う。ミランダが現れた瞬間に『契約を結びたい』意思を伝える。すると、悪魔は天獄の規約上から『契約』についての取引段階へと移り、害する事ができなくなるらしい。
「じゃあ、内容は何でもいいの? そんな契約結びたくないとかはないの?」
「内容によっては断れる。でも契約を持ち掛けた時点で上客入りするんだ。その期間が過ぎるまでは害されない。難しい契約を持ち掛ければそれだけ、上客期間も伸びるし……契約を結べるのが一番だけど」
言外にどうするかと聞いてくるカエル。
契約……難しい契約。
「あんたの、……託宣をかえてもらうってのはどう?」
カエルは奇妙な表情で固まっている。
「過去は変わらないかもだけど、記憶をいじってもらうのは出来ないかな」
「……多分、無理じゃない? 個人の願いを超えてる気がするね? 大勢の人の記憶と感情を動かすって事だし。それに託宣に関係する事を変えると、ボクが蛙な理由にも繋がるからね」
それもそうか……。
「魔王を探してくれ、とかは? 勇者と戦う方の」
「ルーファも言ってたけど、悪魔規約上できないんじゃない? 契約と規約、どちらが上位かわからないけど」
「……じゃあ」
じゃあ、なんだろう?? 応じにくい願い事が必要って、案外難しいな。いや応じにくいならさっきのどっちもいけるのでは??
カエルは見透かしたように先回りする。
「上客としての期間よりも、応じてもらえる願いで終身契約にしたほうが安心だし得だよ」
「どうしようって言うのよ。なんか考えあるの?」
「死ぬまでメイドになってもらうんだ」
ポカンと口を開ける。
「絶対に叶えられる願いだから、叶えるしかない」
死ぬまで……カエルよ、あんたは知らないだろうが……私は大概、死にやすい!!!! そして死んでは戻る! 死ぬ前の契約は死後延長無理っすよね?! ミランダは悪魔になったから、ルーファみたいに記憶もちで私と一緒に永遠ループ展開!
上客期間すらもなくなるじゃん!!!!
「あのさ、死ぬまでって……さっき私死にかけたし? 案外死にやすい属性なのよね……私って。その、死んだ、認定されてさ? 生まれ変わった的な判断されてさ、とかなったら……意味なくない?」
「あぁ、なら『魂が壊れるまで』ってしたら?」
「た、魂が?! 壊れる?!?!」
カエルは水晶をなでる。
「魂は肉に封じられている。肉の死が魂の死には直結しないのだから、肉の死での認定でなくしてしまえばいいんじゃないかな。ボクたち人間のいう『死』は概念でしかないし、その概念は天使や悪魔とも別みたいだ」
「はぁ……」
魂が壊れるまでメイドに、って言えばいいのか。ミランダOKするか? まぁ悪魔の契約で断れないっていうならソレするしかないんだけど……。
「アレックス、それってなんか……得が少ない願いね」
「損を生まなければいいんじゃないかな」
「それもそうか……」
生き延びる事は最優先だ。
「チャーリー、ところで天使について調べてたんだよね? 何かわかった?」
「当たり前の事ばっかりなら」
「例えば?」
「そうね、天界にいて人を導くとか、神の使徒とか、美しいとか」
カエルも頷く。
一般的な天使像は皆同じものを持っている。おっさん天使はあくまでイレギュラーだ。
「ボクの方でも少しだけ見たけど……天使って不思議だね」
「不思議?」
「人間とは違う理で動いてる所為もあるけど、なぜこの時に降臨したんだろうって事が多かったんだ。それに、天使って天使なのかな」
え?
「ボクには天使が神のしもべには思えないんだ」
「悪魔なの?!」
だったら納得だわっ。
「いや、……それは違うけど。あ、それより護衛だけど。さっき頼んでおいたよ。最高の騎士に24時間警護を頼んでおいたから、安心して」
「ダース?!」
「一人だけど。チャーリー、さすがにダースで雇うのは周囲からも可笑しく見られちゃうし。ボクこれでも王子だしね? いらない政敵を刺激しそうだ」
「本当に、そいつ強いの?」
「うん、それは間違いなく」
結局、天使の事に関しては収穫0だが、ここに通って探し続ければ何かしら出てくるだろう。ミランダ対策ができただけでも成果は上々だ。
後は魔王捜しだけとも言える。
怪しいのは、カエルの弟……第二王子だよね。託宣からしてヤバいし。
「あんたの弟に会いたいんだけど」
「……それって、魔王疑惑から?」
話の早いカエルは溜息をつく。
「ボクは違うと思うけど……じゃあ、会っていくといいよ。あ、ボクは引き合わせるけどすぐ退散するよ? 同席しないね。凄く、苦手に思われてるの分かるし……」
カエルの兄弟仲が悪い原因は、カエルだ。
出来が良すぎるのに、カエルだからだ――少なくとも私はそう思っている。
「会いたいって言ってすぐ会える?」
「頑張るよ……」
カエル王子は困ったように笑った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです
志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑!
10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。
もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。
(頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる