53 / 375
第6章・喪失と再生
◆ 2・閉ざされた声(後) ◆
しおりを挟むドレッサーの前に座り、私は鏡を覗き込む。
鏡の中には眉を下げて気弱く自分を見つめている女がいる。
「おはよう……シャーロット」
ポツリポツリと漏らす。
目覚めて7日が経っているが、いまだ混乱の日々だ。
どうやら私の名前はシャーロット・グレイス・ヨークらしい。記憶はないし世界にもなじめてないけれど、良いおうちの子だったらしい。
そして、どうやら私は足が悪いらしい。まともに歩く事ができず、何度もヨタヨタとよろけてはこけてしまう。
私の世界には『らしい』しかない。
どれもが本当の事に思えない。
ルフスは私を『アーラ』と呼び、傍にいて一生懸命面倒を見てくれている。どう略したら、そうなったのかはまだ聞けていない。
ルフスは言った。
『今日から、必ず自分に話しかけるんだ』
だから私は今日も『シャーロット』に話しかける。
私はシャーロットなのにシャーロットに話しかけるなんて、何だか哲学的ね。不思議な感じだけど、嫌じゃないし、シャーロットには良く思ってほしい、……私の事。
良く思われたい……?
なんだろう、私、今とても哲学してるわ。
鏡の中の女は困った顔をしている。
慌てて、微笑む。
同時に『彼女』も微笑んだ。
「おはよう、シャーロット! 今日はとてもいい日になるわ、だってあなたが笑っているんですもの。ね、今日はタルトを焼いてもらいましょう? あなたの好物らしいの。私も昨日食べたんだけど、私の口には合わなくて……」
またも顔が陰る。慌てて笑顔を取り繕った。
「あ、心配しないで、シャーロット! ごめんなさい、不安にさせてしまったわね? 大丈夫よ、ルフスがくれた薬湯を飲んだら、美味しいって思えたから。ちゃんと与えられた分を食べきれたのよ? 私が何かを食べるなんて……なんて? なんて……可笑しくは、ない、のよね?」
何かが可笑しい気がしてしまう。
まだ、ルフスの言う通り『混乱』しているんだろうか?
「不思議ね、ルフスは本当に不思議な人」
翼のあった場所が疼く。
いや、翼はないのだ。ないのに在ったのだと体が疼いている。何もかもが可笑しいと叫びそう唇をかみしめる。
「大丈夫よ、シャーロット。私、あなたを守れる……ちゃんとあなたを『出来る』から」
そこが時間切れ。
小鳥の鳴き声に交じり、朝を告げる時計の音。
扉をノックするメイド。
「お嬢様、おはようございます」
入ってきたメイドはワゴンを押してやってくる。湯の入った盥で顔を洗う事にも段々慣れてきた。いつもは――いつもは間違いだ。『いつも』は、私に存在していないのだから――。
「今日も良い天気ですよ、お嬢様」
私付きのメイドは眼鏡を外し、強く握りしめる。パキリと音がして、落ちる破片。
「ミランダ……?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです
志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑!
10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。
もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。
(頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる