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第7章・二つの心
◆ 25・騎士ミルカ・ヘルレヴィ(後) ◆
しおりを挟む木戸からヨタヨタと出て来たのは、老人だった。
ボサボサの白髪、眼鏡。ひょろりとした長身ながら、腰を折り曲げて歩く為に身長は低く見える。
ミランダの前で盾のようになっていた私は、ポカンとして見つめる。
これが、ミルカ・ヘルレヴィ?
叙勲受けた有名人? すごく強いって話じゃなかった? ヨボヨボのお爺さんじゃないの!?
ミルカ・ヘルレヴィが叙勲を受けたのは、今から10年以上昔の話だ。そう考えれば、年をとっていても違和感はないのだが――。
気付けばミルカ・ヘルレヴィことお爺さんは間近く迫っていた。
「ミルカ……ただいま帰りました」
彼はミランダを視界に入れ、一つ頷く。
「そちらは?」
声は案外年齢を感じさせないハリをもっていた。
「お仕えしているお嬢様です」
契約も躱しているし、メイドという意味だけではなく『お仕え』はしているだろう。
「シャーロット・グレイス・ヨークです」
礼儀正しく挨拶をすれば、途端老人の顔がしかめっ面に変わる。
「ヨーク……っ、ヨークの娘か!」
うん、多分、これ……100%でお父様関連の、いざこざな気がする……。
流石にいきなり殺人行為は働かないだろうと思いながらも、安心安全第一な私はミランダの後ろへと下がった。危険からは遠ざかるべきなのだ。
父が何をしたかも聞く気はない。下手に突っついて寝た子を起こすわけにはいかないのだ。
最高峰の騎士に、一体何したの、お父様っ!!!!
「補足しますと、旦那様はミルカの元恋人たちを全員寝取ったそうです」
おぅふ……お、お父様……!!!!
「あんな男を『旦那様』などと呼ぶな!」
「更に補足しますと、浮名のレベルMAXだった養父の地位を奪ったのが、旦那様です」
「そんな地位……いる?」
思わず漏らす。
父も父だが、こんな老人に熱をあげていた女たちも女たちだ。
「どこから命を狙われてもいいように、見通しの良い敷地と壊れてもすぐに立て直せる家にしていたそうです。ですが、それも旦那様に人気を取られた事で、ただの貧乏騎士の侘しい館。いえ、掘っ立て小屋ですね」
「うるさい!」
ミルカが反論する。
「儂は特に不自由もしておらんし、充分じゃ。大体、久々に帰ってきたと思ったら……人の悲しい過去を暴露するとは、どういうつもりだ」
「今日はミルカの誕生日ですから、顔見せに戻りました。どうせ一人っきりだったんでしょう? 哀れな老人への優しさですよ。ごちそうを作ります」
淡々と言うミランダに、老人が鼻を鳴らす。
意外と、……イイトコあるじゃん。
「補足しますと」
ミランダがまた何か追加する気らしい、と顔をあげる。
「ミルカは転生者だそうです」
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