死亡回避困難で悪役令嬢は鬱ってる。―理想ENDは天使も悪魔も出し抜いて大往生ですけど?―

ムツキ

文字の大きさ
118 / 375
第8章・侵入者

◆ 7・フローレンスの秘密(中) ◆

しおりを挟む

 ふんわりと頬に髪が降りてきて、着地を悟る。


 あれ? 衝撃が、ない?


 考える暇はカクンと頭を振られた感覚にかき消された。
 ミランダが走っているのだと気づく。
 流れる景色で、どこに向かっているのかも分かった。
 私の部屋だ。
 中庭を駆け、大回りながらも邸内の人間の視線をしっかりと避けている。


 流石はスパイ。
〈チャーリー、せっかくお部屋に行ったのに……お父様と会わなくていいの?〉
 部屋を漁った事が私だと思われたくないし……何より、……あれは、ただの人身売買の書類じゃなかった。


 人の売り買いは使用人から愛玩目的まで、多岐に渡って存在する。
 大貴族でもあり、人間的に褒めれないタイプである父がどんな目的であろうと関わっていても『へぇ』である。『お父様に限ってそんな!』などと擁護する気は全くない。


〈そんなに変なものだったの?〉


 現世に疎い天使らしい言葉は、相槌すらも面倒臭い。
 元々、フローレンスは孤児院から引き取られた子だ。それは孤児院から『買われた子』とも言い換えられる。聖女云々の話を知らない頃は、体のいい寄付と慈善事業のポーズと思っていた。
 なにせ子供は私とフローレンスだけだ。
 跡取りという意味でいうなら、父がどこかで男の子を作ってくるのが妥当だろう。実際、父の奔放な下半身事情が受け入れられている背景にはその辺りの事情が強い。
 最終的に子ができなければ――出自不明のフローレンスよりも、親戚筋から相応しい跡取りを見繕ってくる方が早いくらいだ。
 

 でもフローレンスの買い取りは、聖女だったから……なんだよね。聖女だから、お父様は手元に置いての監視だったと思う。
 教団とお父様が金だけでなく繋がっていて、互いの情報を共有していたとして……。
〈さっきの紙と、どう関係するの?〉
 あの紙が事実なら……ってか、事実だとは思うけど。鍵付きの引き出しにあったし。でも意味が分からないのよね、あの書類の意味が。


 書類は、フローレンスの買い取りと買う人のリスト――それにまつわる契約の書類だ。
 曲がりなりにも娘であるフローレンスを性の道具にでも貸し出していたなら、侮蔑の言葉ついでの義憤で行動してもいい。
 だが、父は何人もの少女たちと『フローレンス契約』をしているのだ。
 同じ年頃で似た容姿の子を買って、フローレンスに仕立てあげる契約のようだった。少なくとも、私にはそう見えた。
 そして、彼女たちにフローレンスを演じさせるだけではなく、フローレンスの涙や血、魔力の移動をしている経過も書いてあった。
 どれくらいでフローレンスになるのか、フローレンスとして存在できるのか――そして、彼女たちは一定の時間で、別の人間に売られている。


 意味が分からない……『フローレンスになる』って何よ。ちょっと調べる時間が欲しいわ。


「掴むな」

 ミランダの不機嫌そうな声にハッと我に返る。
 丁度良い取っ手気分で鷲掴んでいた胸から手を離す。
 思考にとらわれている間に、再び邸内に入っていたらしい。いつの間にか、見慣れた私の部屋だ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...