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第8章・侵入者
◆ 7・フローレンスの秘密(中) ◆
しおりを挟むふんわりと頬に髪が降りてきて、着地を悟る。
あれ? 衝撃が、ない?
考える暇はカクンと頭を振られた感覚にかき消された。
ミランダが走っているのだと気づく。
流れる景色で、どこに向かっているのかも分かった。
私の部屋だ。
中庭を駆け、大回りながらも邸内の人間の視線をしっかりと避けている。
流石はスパイ。
〈チャーリー、せっかくお部屋に行ったのに……お父様と会わなくていいの?〉
部屋を漁った事が私だと思われたくないし……何より、……あれは、ただの人身売買の書類じゃなかった。
人の売り買いは使用人から愛玩目的まで、多岐に渡って存在する。
大貴族でもあり、人間的に褒めれないタイプである父がどんな目的であろうと関わっていても『へぇ』である。『お父様に限ってそんな!』などと擁護する気は全くない。
〈そんなに変なものだったの?〉
現世に疎い天使らしい言葉は、相槌すらも面倒臭い。
元々、フローレンスは孤児院から引き取られた子だ。それは孤児院から『買われた子』とも言い換えられる。聖女云々の話を知らない頃は、体のいい寄付と慈善事業のポーズと思っていた。
なにせ子供は私とフローレンスだけだ。
跡取りという意味でいうなら、父がどこかで男の子を作ってくるのが妥当だろう。実際、父の奔放な下半身事情が受け入れられている背景にはその辺りの事情が強い。
最終的に子ができなければ――出自不明のフローレンスよりも、親戚筋から相応しい跡取りを見繕ってくる方が早いくらいだ。
でもフローレンスの買い取りは、聖女だったから……なんだよね。聖女だから、お父様は手元に置いての監視だったと思う。
教団とお父様が金だけでなく繋がっていて、互いの情報を共有していたとして……。
〈さっきの紙と、どう関係するの?〉
あの紙が事実なら……ってか、事実だとは思うけど。鍵付きの引き出しにあったし。でも意味が分からないのよね、あの書類の意味が。
書類は、フローレンスの買い取りと買う人のリスト――それにまつわる契約の書類だ。
曲がりなりにも娘であるフローレンスを性の道具にでも貸し出していたなら、侮蔑の言葉ついでの義憤で行動してもいい。
だが、父は何人もの少女たちと『フローレンス契約』をしているのだ。
同じ年頃で似た容姿の子を買って、フローレンスに仕立てあげる契約のようだった。少なくとも、私にはそう見えた。
そして、彼女たちにフローレンスを演じさせるだけではなく、フローレンスの涙や血、魔力の移動をしている経過も書いてあった。
どれくらいでフローレンスになるのか、フローレンスとして存在できるのか――そして、彼女たちは一定の時間で、別の人間に売られている。
意味が分からない……『フローレンスになる』って何よ。ちょっと調べる時間が欲しいわ。
「掴むな」
ミランダの不機嫌そうな声にハッと我に返る。
丁度良い取っ手気分で鷲掴んでいた胸から手を離す。
思考にとらわれている間に、再び邸内に入っていたらしい。いつの間にか、見慣れた私の部屋だ。
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