271 / 375
第13章・悪役闘争
◆ 10・迫る死(後) ◆
しおりを挟む
部屋の前で立ち止まる。
中から微かに人の――鼻歌のような、独特の調子っぱずれな歌が聞こえてくる。
女????
モニークはさっき別れたし……、歌姫の歌がコレなわけもないよね?
今まで何度も死に瀕してきた私には分かる。
これは開けてはダメなやつだ。
くるりと戸に背を向ければ、中から明確に伝える意思を持った声。
「入り!」
マジで誰よ……。
「はよ!」
逡巡するも、再度の苛立ちを交えた「はよ!」に押されて戸を開く。
目の入ったのは赤い女だ。
まだ燭台に火も入っていない部屋は明るい。そんな普通よりは少しグレードの高い客間に、全くそぐわない女が仁王立ちで立っている。
青く逆巻く髪に、赤い瞳。褐色のグラマラスな肌に炎が衣服のように絡みついていた。
むしろ彼女の炎のおかげで、ベッドも机も照らされ、彼女自身が動く燭台状態だ。
炎の魔王!?
そうか、この変わったイントネーションは……そうだわ、前に聞いてた炎の魔王のものじゃないの!
「よう来たね!」
いや、そっちがな?!
なんで炎の魔王がいるのよっ。ってか、人界に現れるとか自由にできるの?! なに、どうして? 意味わからないよっ!!
ともあれ、返事をする。
「炎の、魔王様ですよね? えーっと……呼び出しとか、してない気がするんですけど……案外、普通に地上に出れちゃったりするんですね……」
いささか声がげんなりするのは否めない。
魔王が地上に降臨しているのだ。
夢だと思いたい。むしろ今すぐお帰り願いたい。
「今日はな、ウチの旦那があんたにお願いがあってなぁ、来たんよ。あ、ウチの旦那わかる?」
知るわけないし、興味もないし、会いたくもないわ。
「あ、物忘れ激しい子ぉの為にもう一回教えとこうなぁ? ウチ心読めまっせ!」
……美人で、最高の炎の女神様の旦那とか絶対勝ち組よね。うらやましいわ!
「ありがとぉ、ほな旦那呼ぶで!」
「どんな方か先に聞いても良いですか?」
魔王の旦那というのだから、ある程度の情報は欲しい。
機嫌を損ねて即死だけは避けたい所だ。
「水の魔王やで?」
「え?」
待って?
「ほな、歯ぁ食いしばり!」
「え?」
待って待って?!?!
炎の魔王の拳が私の胸元にめり込む。
痛く、な……ったい!!!!
めり込んだ拳が燃え上がる。一瞬後にやってくる衝撃は知らない苦しみだ。あえぐように口を開くも、同時に彼女の手が私の口を塞いだ。
「耐え」
傲然と告げる魔王。
まるで腹が――内臓が、かき回される感覚だ。
痛みと気持ち悪さに涙があふれる。
「大丈夫や、……たぶん」
たぶん??
「気合入れて耐え。……死にたなかったらな」
炎の魔王は半笑いで不穏な事を言った。
中から微かに人の――鼻歌のような、独特の調子っぱずれな歌が聞こえてくる。
女????
モニークはさっき別れたし……、歌姫の歌がコレなわけもないよね?
今まで何度も死に瀕してきた私には分かる。
これは開けてはダメなやつだ。
くるりと戸に背を向ければ、中から明確に伝える意思を持った声。
「入り!」
マジで誰よ……。
「はよ!」
逡巡するも、再度の苛立ちを交えた「はよ!」に押されて戸を開く。
目の入ったのは赤い女だ。
まだ燭台に火も入っていない部屋は明るい。そんな普通よりは少しグレードの高い客間に、全くそぐわない女が仁王立ちで立っている。
青く逆巻く髪に、赤い瞳。褐色のグラマラスな肌に炎が衣服のように絡みついていた。
むしろ彼女の炎のおかげで、ベッドも机も照らされ、彼女自身が動く燭台状態だ。
炎の魔王!?
そうか、この変わったイントネーションは……そうだわ、前に聞いてた炎の魔王のものじゃないの!
「よう来たね!」
いや、そっちがな?!
なんで炎の魔王がいるのよっ。ってか、人界に現れるとか自由にできるの?! なに、どうして? 意味わからないよっ!!
ともあれ、返事をする。
「炎の、魔王様ですよね? えーっと……呼び出しとか、してない気がするんですけど……案外、普通に地上に出れちゃったりするんですね……」
いささか声がげんなりするのは否めない。
魔王が地上に降臨しているのだ。
夢だと思いたい。むしろ今すぐお帰り願いたい。
「今日はな、ウチの旦那があんたにお願いがあってなぁ、来たんよ。あ、ウチの旦那わかる?」
知るわけないし、興味もないし、会いたくもないわ。
「あ、物忘れ激しい子ぉの為にもう一回教えとこうなぁ? ウチ心読めまっせ!」
……美人で、最高の炎の女神様の旦那とか絶対勝ち組よね。うらやましいわ!
「ありがとぉ、ほな旦那呼ぶで!」
「どんな方か先に聞いても良いですか?」
魔王の旦那というのだから、ある程度の情報は欲しい。
機嫌を損ねて即死だけは避けたい所だ。
「水の魔王やで?」
「え?」
待って?
「ほな、歯ぁ食いしばり!」
「え?」
待って待って?!?!
炎の魔王の拳が私の胸元にめり込む。
痛く、な……ったい!!!!
めり込んだ拳が燃え上がる。一瞬後にやってくる衝撃は知らない苦しみだ。あえぐように口を開くも、同時に彼女の手が私の口を塞いだ。
「耐え」
傲然と告げる魔王。
まるで腹が――内臓が、かき回される感覚だ。
痛みと気持ち悪さに涙があふれる。
「大丈夫や、……たぶん」
たぶん??
「気合入れて耐え。……死にたなかったらな」
炎の魔王は半笑いで不穏な事を言った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです
志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑!
10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。
もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。
(頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる