死亡回避困難で悪役令嬢は鬱ってる。―理想ENDは天使も悪魔も出し抜いて大往生ですけど?―

ムツキ

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第15章・共謀する聖人

◆ 30・始まりの勇者 ◆

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 その男は生まれながらに罪を背負っていた。
 意識はつま先まで走り、思考は秒で加速する。

 何もない白い世界。
 ここはどこだと考える。己の身が存在すること、どこかから落ちたことが分かった。それは世界が存在することと同様に、当たり前すぎた。

「汚いな」

 声が天から響いた。
 心底気だるく、憂鬱な男の声だ。
 男はその蔑んだ声だけで、理解した。この声が自分だと――。

 だが言葉の意味や内容までは理解できなかった。
 ただ不快感だけが皮膚を突き刺した。

「なんて醜いんだろう? オレとは思えないな」

 またも不快さを増した声。
 姿は見えない。

「オレはオマエを切り離すとする。……そうだな、『下』を統括しろ。意味は分かるか?」

 空を見上げる。
 身体は問題なく動くようだ。肌寒い白の中で、彼はむき出しの肩をさすった。

「はぁ、分からないのかよ。めんどくさいなぁ……ったく、これが最初で最後だ」

 パチリと視界に光が走る。
 同時に目に痛いほどの色が飛び込んでくる。

 緑、青、赤――。

「……うぅ……」

 うめく。
 嘲る意味での笑いが響く。

「おいおい、どこを見てるんだ? オレはこっちだよ」

 声につられて上を見上げる。
 そこには巨大な翼を持つ白い蛇が浮かんでいた。時折波打つ姿に、目を見開く。爪の一枚すら、男よりも大きい。

「オマエに下す命は一つだ。『下を統括しろ』もうオレの言葉は分かるよな?」

 頷く。
 確かに男は相手の言葉の意味を理解していた。
 この下に広がる世界に住む生物の『支配者になれ』と言われたのだ。

 だが、そこで男は問いかけた。

「どうして?」

 と。
 それが始まりで終わりだ。


◆◇◆


 緩い眠りから覚める。
 この瞬間が好きだ。まるで世界から切り捨てられるような、頼りのない寒い世界に放り出される感覚。


 ……シャーロット・グレイス・ヨーク。


「あぁ、愚かな娘よ。『また』そこに戻ったか」


 己の子とは思えないほど、浅慮な子だ。だがそれは愛さない理由にはならない。
 かつて己が浴びたような呆れも感じない。慈しみ、情を与えるに足る不思議な生物なのだ。


 さて、今度は記憶を持てるだろうか? 


「しょうのない子だ……。お前がそうなら、父様は何度でも手を貸してやろうじゃないか」

 愛は複雑だ。
 何千年生きようとも理解しえないし、理解したいとも思わない。

「さて、世界よ」

 声には出さず、ただ微笑む。


 さようなら。


 あと数秒で再生のため、世界は輝くだろう。
 目覚めとは違い、この瞬間の眩しさは好きじゃない。そっと目を閉じ、ポツリ。

「ようこそ、世界」
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