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第二章 6歳
(6歳)1 前世の記憶を取り戻す
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何か、これといったきっかけがあったわけじゃない。
転生して6歳になっていた俺は、唐突に前世の記憶を取り戻した。
うららかな午後。屋敷の中庭で、木の幹にもたれて座り、俺は本をももの上に広げて読んでいた。
季節は初夏だが、大きく枝を張った樫(に似た木)の木陰は、ひんやりしてて快適だ。
(こっちは涼しくていいな)
日本のように蒸し暑くもないし、最高気温も高くて三十度くらいだろう。エアコンなしではとても過ごせなかったうだるような夏とは、もう六年も無縁である。
突然そんな感想が浮かんできて、それをきっかけに、脳内を無数のフラッシュバックが駆け巡った。
前世の記憶は飛び飛びだったり曖昧だったりしたが、おおよそ、二十代前半で過労自殺した、一人の男の人生が思い出せた。
「要するに、異世界に転生したってわけか」
こっちで6歳になるまでの記憶もちゃんとある。いまさら、この世界の実在を疑う気にはなれなかった。
むしろ、この「前世の記憶」とやらがただの妄想だと言われた方が納得がいく。
だが、思い出せば思い出すほどに、前世の記憶は辻褄が合っている。
この世界とはあまりにかけ離れた世界だけに、六歳児の妄想としてはできすぎだ。
とても妄想とは思えないくらいに、自分がそれを生きたという実感もある。
「神さまにも、会ったような、会ってないような……」
いや、この世界には精霊はいるが、神という存在はいなかったはずだ。
でも、俺がこうして転生している以上、超常的な力を持つ存在がいてもおかしくない。
「転生の話を持ち出されて、もうストレスを味わうのは嫌だ、と言って断ったような?」
神はどう答えたんだっけ?
たしか、
「それなら、ストレスを感じずに済むようにしてあげる、だったかな」
優しい女性の声だったと思う。
「ストレスを感じない、か」
いまの俺は六歳児だが、歳の割に落ち着いてるとよく言われる。
ぐずらない。母親が離れても泣き出さない。剣の練習や書き取りみたいな他の子どもが嫌がることも、途中で決して投げ出さず、放っておくといつまでも続けてる。
サンヌルでさえなかったらいい魔術師になれただろうに……と、大人たちから残念がられるほどだ。
「で、『サンヌル』ってのは何かって話だな。
これまでの人生で、だいたいのとこはわかってる」
これまでの人生(六年)だけどな。
俺は、混乱しそうな記憶をまとめようと、思考を口に出して整理する。
「この世界には、六大精霊と呼ばれる存在がいる。まぁ、ざっくりいえば神さまみたいなもんだ」
だからこそ、転生する時に出会ったあの「神」はなんだったのかって疑問が湧くのだが……
それはとりあえず措いておこう。
「六大精霊は、地水火風光闇の六属性をそれぞれ司ってる。
六大精霊は、日替わりで世界の運行を担ってる……と、されている」
「世界の運行」ってのが具体的にどんなことを意味するかはよくわからん。
ただ、神話や迷信でない証拠ならいくつもある。
「この世界では、六大精霊のシフトに合わせて曜日が決まってる。一週間は地水火風光闇の6日間。光曜日と闇曜日がお休みだ」
地球より休みが多いことになるな。
地球の聖書の神も、一週間は七日、休日は日曜だけ、なんてケチなことを言わず、もっと休みを多くすればよかったのに。
「この曜日にはちゃんと意味がある。
まず、曜日によって、各属性魔法の威力が変わる。
たとえば、今日は火曜日だから、火属性魔法の威力が上がってる」
地水火風に比べると、光と闇は、威力が上がっても日常への恩恵がそれほどない。
光曜日と闇曜日が休日になってる背景には、そんな現実的な理由もあるらしい。
「それだけじゃない。もっと重要な話もある。俺の生まれに関わることだ」
曜日によって各属性の威力が変わる。
それはいま説明した通りだが、この属性の影響がもっとも大きく出るのが出産だ。
「新生児は、産まれた曜日と同じ属性の加護を授かる。
この世界の人間は多かれ少なかれ魔法が使えるが、使える魔法は加護を授かった属性のものに限られる」
火曜日である今日、赤ん坊が生まれたとしよう。
その赤ん坊は、火の精霊から加護を授かる。
大きくなれば、火属性の魔法を使えるようになる。
逆に言えば、他の属性の魔法はどうあがいても使えない。
「それぞれ、生まれた曜日と同じ属性の魔法だけを使えるってことだな」
そんなわけで、六大精霊が日替わりで世界の運行を担ってるという説も、あながち迷信とも言い切れない。
精霊なるものがどんな存在かはさておき、6日で一巡する属性の周期があることは確実だ。
そのことは、この世界の文化にも大きな影響を及ぼしてる。
「この世界の名前は、現代日本と同じで姓と名前から成っている。順番は日本と逆で、名前・姓の順。ただし、名前と姓のあいだに、『属性名』を挟む必要がある」
生まれた曜日に応じて、属性名は決まってる。
地 ホド
水 アマ
火 ジト
風 ヒュル
光 サン
闇 ヌル
「火曜日に生まれたスミス家のジョンだったら、ジョン=ジト=スミスってことになる」
この世界にジョンとかスミスって名前があるわけじゃないけどな。
あくまでも説明のための例だ。
ともあれ、名前を聞けば、その人の使える魔法の属性までもがわかってしまう。
「手の内がバレるって意味じゃ、属性名はないほうが便利なんだろうけど、属性名をきちんと名乗らないと精霊が機嫌を損ねると言われてる。
社会通念上、属性名を名乗らないのは非常識だし、後ろめたいことがあるのではとも疑われる。
だから、みんな属性名はちゃんと名乗る」
闇社会に生きてるマフィアや犯罪者みたいな連中は、属性名を隠すこともあるらしい。
で、だ。
肝心の俺の名前は何なのか?
「俺のフルネームは、エリアック=サンヌル=ブランタージュ、だ」
属性名は「サンヌル」。
俺が産まれた時に父親や司祭が口にしてた謎の言葉は、俺の属性名だったのだ。
「サンが光、ヌルは闇の属性名。サンヌルっていうのは、光と闇、両方の加護を授かったってことだ」
これだけ聞くと、すごそうに思えるよな?
でも、そうじゃないんだ。
「なんで二つの加護を授かることがあるのか?って話だな。
それは、赤子が曜日の変わり目に産まれると、前後の曜日を司る二体の精霊が混乱して、両方が加護を授けてしまう……なんてことが、まれにだけど起こるからだ」
もっとも、毎回毎回そうなるわけじゃない。
月が隠れてるなどの理由で曜日の境目がわかりにくいと、交代時間の精霊二体が混乱して、二重に加護を授けてしまうと言われてる。
なお、精霊二体がどっちも加護を授けそびれて無加護になる例は、これまでのところないようだ。
「うがった見方をすると、加護のつけ忘れを防止するために、加護を二重につけてしまうほうのミスは許容してるってことかもな」
誰もが魔法を使えるこの世界で、魔法が使えなかったら大変だ。
そういう事故を防ぐために、精霊たちは、混乱したらダブってもいいからとりあえず加護を授けておく、という仕事の仕方をしてるのではないか。
いい加減なのかしっかりしてるのかわからない連中だ。
「だから、二重の加護は、隣り合った曜日の組み合わせだけでしか起こりない。
ええっと、地水、水火、火風、風光、光闇、闇地の6パターンだな」
地と火とか、水と闇とかの組み合わせは起こりえない。
精霊がいくらぼんやりしてても、非番の日にうっかり加護を授けることはないからだ。
二重に加護を授かったことを、この世界では「二重属性」と呼んでいる。
「加護が二つ! 二つの属性が使えてラッキー!
……と、思うだろ?
それが、そうでもないんだよなぁ……」
RPGが好きな人なら、もうピンと来てるかもしれない。
属性には、相性があるのだ。
相性自体はごくシンプルなもので、
地と風
水と火
光と闇
……の組み合わせが、互いにとって相性が悪い。
この組み合わせの属性がぶつかりあうと、「相克」と呼ばれる現象が起こる。
魔力が反発しあい、対消滅や暴走などの現象を起こすのだ。
「この相克は、二重属性の場合にも起こるんだ。二重属性で相克を起こすのは、水火と光闇の二つだな」
この場合、二重に宿った加護が、その人の体内で相克を起こす。
俺のサンヌルの場合、3D酔いをものすごく酷くし、周囲で間断なくフラッシュを焚かれながら、重いうつのような精神の急激な落ち込みと、パニック発作が襲ってくる、そんなような現象が起こってしまう。人によっては、幻聴や幻覚にまで襲われる。
アマジトの場合は、冷感と熱感が交互に、あるいは同時に、全身をまだらに駆け巡る、みたいな感じらしい。熱湯と氷水を交互にぶっかけられる感じ、と、ものの本には書かれてる。
「魔法には集中力が必要だ。そんな現象が起きたらまともに魔法を使えない。使えたとしても、光の魔法なら闇の加護が足を引っ張るし、逆なら逆だ。要は、威力が落ちてしまう」
つまり、サンヌルは、サン単体・ヌル単体よりもはるかに扱いづらく、しかも弱い。
唯一の救いは、相克は魔法を使おうとしなければ起こらないってことかな。
もし常時相克が起きてたら、とてもじゃないがまともな生活が送れないだろう。
「アマジトはまだマシらしいんだよな。水と火で熱湯を出すみたいなことができるらしい。六大のうち、地水火風の四大のほうは、光と闇に比べて、反属性でも相克が弱いとか」
それでもアマジトは、「湯沸かし魔法」と呼ばれてバカにされてるんだけどな。
「サンヌルなんてそれ以下だ……。相克が激しすぎて、まずまともに魔法を使えないからな」
ちなみに、俺=エリアックの両親は、それぞれ地水と火風の加護の持ち主だ。
父・エリオスがホドアマで、母・ミスラがジトヒュルだな。
ホドアマは氷を生み出す複合魔法が使えて、ジトヒュルは火炎旋風の複合魔法が使える。
複合魔法は、強力な分、習得難易度が高いらしい。
そもそも、産まれた時点で加護を二重に引いてる必要もあるので、使える者はごく限られてるという。
両親ともに二重属性で、しかも複合魔法が使えるなんて、相当なレアケースのはずだ。
え? サンヌルでも光と闇の複合魔法が使えるんじゃないかって?
ただでさえ難しい複合魔法の制御を、相克に襲われながらこなせれば……だけどな。
そんなことができたという記録は、残念ながら残ってない。
俺が生まれた後、両親が必死で調べたが、眉唾ものの伝説の類しかなかったらしい。
「おかしい……光と闇が合わさり最強に見えるのに」
総合的に見れば、
地水、火風>風光、闇地>(単属性の)地水火風光闇>>>超えられない壁>>>水火>>>超えられない壁>>>光闇
ってことになる。
俺が産まれた時、母親が「わたしがもう少し我慢できていれば」と言ってたのは、「もう少し産むのを遅くできれば、大ハズレのサンヌルになるリスクを避けて、単属性の闇にできたはずなのに」という意味だったんだな。
そのために、精霊庁の司祭は、使用人に空を見張らせ、月の位置に応じて、お産のタイミングを急がせたり、遅らせたりしようとしてたのだ。
この世界の、とくに上流階級では、普通に行われてることらしい。
「いや、お産のタイミングずらせとか、無茶ぶりもいいとこだと思うんだけどな……」
自分で産んだ経験はもちろん、お産に立ち会った経験すらない俺でも、薬もなしにお産を急いだり我慢したりしろっていうのが無理なことくらい察しがつくぞ。
だが、この世界の人たちにとっては、それほどに重要なことなのだ。
伝え聞くところでは、過去の王が、サンヌルを生んだ妃に激怒して、生まれた赤子ごと斬り殺した、なんて話もあるらしい。
「うちはまともでよかったな」
俺の新しい父親は、最初こそ落胆してたものの、すぐに気持ちを切り替え、母親のことを慰めてた。
両親とも、貴族とは思えないほどまっとうな人たちだ。
気の毒なのは、俺を産んだ後、子宝に恵まれてないことだな。
もともと転生というイレギュラーで産まれたのが俺だ。
この夫婦は、ひょっとしたらもともと子どもができない体質だったりするのかもしれない。
それなのに、その唯一の子どもがサンヌルときてる。
サンヌルは家が継げないなんてことはないのだが、口さがない連中には陰でいろいろ言われてるようだ。
「とまあ、そんなわけで、六大精霊の加護と二重属性については以上! 閉廷! 解散!」
俺は、誰にともなくそう言った。
転生して6歳になっていた俺は、唐突に前世の記憶を取り戻した。
うららかな午後。屋敷の中庭で、木の幹にもたれて座り、俺は本をももの上に広げて読んでいた。
季節は初夏だが、大きく枝を張った樫(に似た木)の木陰は、ひんやりしてて快適だ。
(こっちは涼しくていいな)
日本のように蒸し暑くもないし、最高気温も高くて三十度くらいだろう。エアコンなしではとても過ごせなかったうだるような夏とは、もう六年も無縁である。
突然そんな感想が浮かんできて、それをきっかけに、脳内を無数のフラッシュバックが駆け巡った。
前世の記憶は飛び飛びだったり曖昧だったりしたが、おおよそ、二十代前半で過労自殺した、一人の男の人生が思い出せた。
「要するに、異世界に転生したってわけか」
こっちで6歳になるまでの記憶もちゃんとある。いまさら、この世界の実在を疑う気にはなれなかった。
むしろ、この「前世の記憶」とやらがただの妄想だと言われた方が納得がいく。
だが、思い出せば思い出すほどに、前世の記憶は辻褄が合っている。
この世界とはあまりにかけ離れた世界だけに、六歳児の妄想としてはできすぎだ。
とても妄想とは思えないくらいに、自分がそれを生きたという実感もある。
「神さまにも、会ったような、会ってないような……」
いや、この世界には精霊はいるが、神という存在はいなかったはずだ。
でも、俺がこうして転生している以上、超常的な力を持つ存在がいてもおかしくない。
「転生の話を持ち出されて、もうストレスを味わうのは嫌だ、と言って断ったような?」
神はどう答えたんだっけ?
たしか、
「それなら、ストレスを感じずに済むようにしてあげる、だったかな」
優しい女性の声だったと思う。
「ストレスを感じない、か」
いまの俺は六歳児だが、歳の割に落ち着いてるとよく言われる。
ぐずらない。母親が離れても泣き出さない。剣の練習や書き取りみたいな他の子どもが嫌がることも、途中で決して投げ出さず、放っておくといつまでも続けてる。
サンヌルでさえなかったらいい魔術師になれただろうに……と、大人たちから残念がられるほどだ。
「で、『サンヌル』ってのは何かって話だな。
これまでの人生で、だいたいのとこはわかってる」
これまでの人生(六年)だけどな。
俺は、混乱しそうな記憶をまとめようと、思考を口に出して整理する。
「この世界には、六大精霊と呼ばれる存在がいる。まぁ、ざっくりいえば神さまみたいなもんだ」
だからこそ、転生する時に出会ったあの「神」はなんだったのかって疑問が湧くのだが……
それはとりあえず措いておこう。
「六大精霊は、地水火風光闇の六属性をそれぞれ司ってる。
六大精霊は、日替わりで世界の運行を担ってる……と、されている」
「世界の運行」ってのが具体的にどんなことを意味するかはよくわからん。
ただ、神話や迷信でない証拠ならいくつもある。
「この世界では、六大精霊のシフトに合わせて曜日が決まってる。一週間は地水火風光闇の6日間。光曜日と闇曜日がお休みだ」
地球より休みが多いことになるな。
地球の聖書の神も、一週間は七日、休日は日曜だけ、なんてケチなことを言わず、もっと休みを多くすればよかったのに。
「この曜日にはちゃんと意味がある。
まず、曜日によって、各属性魔法の威力が変わる。
たとえば、今日は火曜日だから、火属性魔法の威力が上がってる」
地水火風に比べると、光と闇は、威力が上がっても日常への恩恵がそれほどない。
光曜日と闇曜日が休日になってる背景には、そんな現実的な理由もあるらしい。
「それだけじゃない。もっと重要な話もある。俺の生まれに関わることだ」
曜日によって各属性の威力が変わる。
それはいま説明した通りだが、この属性の影響がもっとも大きく出るのが出産だ。
「新生児は、産まれた曜日と同じ属性の加護を授かる。
この世界の人間は多かれ少なかれ魔法が使えるが、使える魔法は加護を授かった属性のものに限られる」
火曜日である今日、赤ん坊が生まれたとしよう。
その赤ん坊は、火の精霊から加護を授かる。
大きくなれば、火属性の魔法を使えるようになる。
逆に言えば、他の属性の魔法はどうあがいても使えない。
「それぞれ、生まれた曜日と同じ属性の魔法だけを使えるってことだな」
そんなわけで、六大精霊が日替わりで世界の運行を担ってるという説も、あながち迷信とも言い切れない。
精霊なるものがどんな存在かはさておき、6日で一巡する属性の周期があることは確実だ。
そのことは、この世界の文化にも大きな影響を及ぼしてる。
「この世界の名前は、現代日本と同じで姓と名前から成っている。順番は日本と逆で、名前・姓の順。ただし、名前と姓のあいだに、『属性名』を挟む必要がある」
生まれた曜日に応じて、属性名は決まってる。
地 ホド
水 アマ
火 ジト
風 ヒュル
光 サン
闇 ヌル
「火曜日に生まれたスミス家のジョンだったら、ジョン=ジト=スミスってことになる」
この世界にジョンとかスミスって名前があるわけじゃないけどな。
あくまでも説明のための例だ。
ともあれ、名前を聞けば、その人の使える魔法の属性までもがわかってしまう。
「手の内がバレるって意味じゃ、属性名はないほうが便利なんだろうけど、属性名をきちんと名乗らないと精霊が機嫌を損ねると言われてる。
社会通念上、属性名を名乗らないのは非常識だし、後ろめたいことがあるのではとも疑われる。
だから、みんな属性名はちゃんと名乗る」
闇社会に生きてるマフィアや犯罪者みたいな連中は、属性名を隠すこともあるらしい。
で、だ。
肝心の俺の名前は何なのか?
「俺のフルネームは、エリアック=サンヌル=ブランタージュ、だ」
属性名は「サンヌル」。
俺が産まれた時に父親や司祭が口にしてた謎の言葉は、俺の属性名だったのだ。
「サンが光、ヌルは闇の属性名。サンヌルっていうのは、光と闇、両方の加護を授かったってことだ」
これだけ聞くと、すごそうに思えるよな?
でも、そうじゃないんだ。
「なんで二つの加護を授かることがあるのか?って話だな。
それは、赤子が曜日の変わり目に産まれると、前後の曜日を司る二体の精霊が混乱して、両方が加護を授けてしまう……なんてことが、まれにだけど起こるからだ」
もっとも、毎回毎回そうなるわけじゃない。
月が隠れてるなどの理由で曜日の境目がわかりにくいと、交代時間の精霊二体が混乱して、二重に加護を授けてしまうと言われてる。
なお、精霊二体がどっちも加護を授けそびれて無加護になる例は、これまでのところないようだ。
「うがった見方をすると、加護のつけ忘れを防止するために、加護を二重につけてしまうほうのミスは許容してるってことかもな」
誰もが魔法を使えるこの世界で、魔法が使えなかったら大変だ。
そういう事故を防ぐために、精霊たちは、混乱したらダブってもいいからとりあえず加護を授けておく、という仕事の仕方をしてるのではないか。
いい加減なのかしっかりしてるのかわからない連中だ。
「だから、二重の加護は、隣り合った曜日の組み合わせだけでしか起こりない。
ええっと、地水、水火、火風、風光、光闇、闇地の6パターンだな」
地と火とか、水と闇とかの組み合わせは起こりえない。
精霊がいくらぼんやりしてても、非番の日にうっかり加護を授けることはないからだ。
二重に加護を授かったことを、この世界では「二重属性」と呼んでいる。
「加護が二つ! 二つの属性が使えてラッキー!
……と、思うだろ?
それが、そうでもないんだよなぁ……」
RPGが好きな人なら、もうピンと来てるかもしれない。
属性には、相性があるのだ。
相性自体はごくシンプルなもので、
地と風
水と火
光と闇
……の組み合わせが、互いにとって相性が悪い。
この組み合わせの属性がぶつかりあうと、「相克」と呼ばれる現象が起こる。
魔力が反発しあい、対消滅や暴走などの現象を起こすのだ。
「この相克は、二重属性の場合にも起こるんだ。二重属性で相克を起こすのは、水火と光闇の二つだな」
この場合、二重に宿った加護が、その人の体内で相克を起こす。
俺のサンヌルの場合、3D酔いをものすごく酷くし、周囲で間断なくフラッシュを焚かれながら、重いうつのような精神の急激な落ち込みと、パニック発作が襲ってくる、そんなような現象が起こってしまう。人によっては、幻聴や幻覚にまで襲われる。
アマジトの場合は、冷感と熱感が交互に、あるいは同時に、全身をまだらに駆け巡る、みたいな感じらしい。熱湯と氷水を交互にぶっかけられる感じ、と、ものの本には書かれてる。
「魔法には集中力が必要だ。そんな現象が起きたらまともに魔法を使えない。使えたとしても、光の魔法なら闇の加護が足を引っ張るし、逆なら逆だ。要は、威力が落ちてしまう」
つまり、サンヌルは、サン単体・ヌル単体よりもはるかに扱いづらく、しかも弱い。
唯一の救いは、相克は魔法を使おうとしなければ起こらないってことかな。
もし常時相克が起きてたら、とてもじゃないがまともな生活が送れないだろう。
「アマジトはまだマシらしいんだよな。水と火で熱湯を出すみたいなことができるらしい。六大のうち、地水火風の四大のほうは、光と闇に比べて、反属性でも相克が弱いとか」
それでもアマジトは、「湯沸かし魔法」と呼ばれてバカにされてるんだけどな。
「サンヌルなんてそれ以下だ……。相克が激しすぎて、まずまともに魔法を使えないからな」
ちなみに、俺=エリアックの両親は、それぞれ地水と火風の加護の持ち主だ。
父・エリオスがホドアマで、母・ミスラがジトヒュルだな。
ホドアマは氷を生み出す複合魔法が使えて、ジトヒュルは火炎旋風の複合魔法が使える。
複合魔法は、強力な分、習得難易度が高いらしい。
そもそも、産まれた時点で加護を二重に引いてる必要もあるので、使える者はごく限られてるという。
両親ともに二重属性で、しかも複合魔法が使えるなんて、相当なレアケースのはずだ。
え? サンヌルでも光と闇の複合魔法が使えるんじゃないかって?
ただでさえ難しい複合魔法の制御を、相克に襲われながらこなせれば……だけどな。
そんなことができたという記録は、残念ながら残ってない。
俺が生まれた後、両親が必死で調べたが、眉唾ものの伝説の類しかなかったらしい。
「おかしい……光と闇が合わさり最強に見えるのに」
総合的に見れば、
地水、火風>風光、闇地>(単属性の)地水火風光闇>>>超えられない壁>>>水火>>>超えられない壁>>>光闇
ってことになる。
俺が産まれた時、母親が「わたしがもう少し我慢できていれば」と言ってたのは、「もう少し産むのを遅くできれば、大ハズレのサンヌルになるリスクを避けて、単属性の闇にできたはずなのに」という意味だったんだな。
そのために、精霊庁の司祭は、使用人に空を見張らせ、月の位置に応じて、お産のタイミングを急がせたり、遅らせたりしようとしてたのだ。
この世界の、とくに上流階級では、普通に行われてることらしい。
「いや、お産のタイミングずらせとか、無茶ぶりもいいとこだと思うんだけどな……」
自分で産んだ経験はもちろん、お産に立ち会った経験すらない俺でも、薬もなしにお産を急いだり我慢したりしろっていうのが無理なことくらい察しがつくぞ。
だが、この世界の人たちにとっては、それほどに重要なことなのだ。
伝え聞くところでは、過去の王が、サンヌルを生んだ妃に激怒して、生まれた赤子ごと斬り殺した、なんて話もあるらしい。
「うちはまともでよかったな」
俺の新しい父親は、最初こそ落胆してたものの、すぐに気持ちを切り替え、母親のことを慰めてた。
両親とも、貴族とは思えないほどまっとうな人たちだ。
気の毒なのは、俺を産んだ後、子宝に恵まれてないことだな。
もともと転生というイレギュラーで産まれたのが俺だ。
この夫婦は、ひょっとしたらもともと子どもができない体質だったりするのかもしれない。
それなのに、その唯一の子どもがサンヌルときてる。
サンヌルは家が継げないなんてことはないのだが、口さがない連中には陰でいろいろ言われてるようだ。
「とまあ、そんなわけで、六大精霊の加護と二重属性については以上! 閉廷! 解散!」
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