NO STRESS 24時間耐えられる男の転生譚 ~ストレスから解放された俺は常人には扱えない反属性魔法を極めて無双する~

天宮暁

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第五章 15歳

50 戦う理由

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 ラシヴァのいた処置室を出た俺は、医務棟の中を進んで、あらかじめ会長から聞いておいた一室を探す。

 その部屋のドアは開いていた。
 中から、女の子同士の声が聞こえる。

「その時、エリアが壇上に登ってきて言ったの。『ご歓談中失礼いたします、国王陛下、王妃殿下』って。それで、エリアはわたしに右手を伸ばして、『まだ若輩の身ではございますが、ローゼリア姫のお手を取る栄誉を賜れれば、これにまさる幸いはございません』。
 はぁ~、何度思い出してもかっこよかったなぁ……」

「のろけ話、うざ……」

 ……どうやら絶好調でしゃべりまくってるのはロゼらしい。
 気配でわかってたけどな。
 相方のほうは、ロゼの話に早くもげんなりしてるようだった。

 俺は戸口に立って、開いてるドアをノックする。

「お二人さん、入っていい?」

「あ、どうぞ」

 俺の声に答えたのはユナだった。
 霊威兵装に囚われていた、二百四十年前の生徒騎士。
 アクアマリンの髪と瞳を持つ、類まれなほど強力なアマ(水)の女子だ。
 年齢よりあどけない顔の少女は、病室のベッドに身を起こし、ロゼとガールズトークをしてる最中だった。

 病室は、木目を生かした落ち着いた内装だ。
 前世の病院みたいな真っ白なそっけない空間ではない。

「エリア! どうだった?」

 ロゼが聞いてくる。

「ラシヴァのことなら、オーケーだ」

「やったっ! 一人目の仲間だね!」

 ロゼが小さくガッツポーズをする。

「ユナ。調子はどうだ?」

「もともと、調子は悪くない。何かあっては困るからと言われただけ。監視されてるようなもの」

 あいかわらずの淡々とした口調でユナが言った。

「学籍は残ってたけど、さすがに学生寮の部屋はなかったからな」

 ちょうど新入生を受け入れたばかりで、学生寮の部屋の準備が間に合わなかったらしい。
 今入院してるのは、宿泊所代わりの意味もあった。

「ちょうど、ロゼから事情を聞いてたところ。エリアックは仲間を探してる。それも、円卓に挑むための」

「ああ。霊威兵装から解放されたばかりのユナに、無理にとは言えないけど」

 ユナが、青く透き通った目で、俺の目を覗き込んでくる。

「な、なんだ?」

「エリアックは、戦争がしたいの?」

 ユナが端的に聞いてきた。

「いや。んなもん、しないに越したことはない。戦えば戦うほど、紅瀬川くぜがわ……じゃなかった、キロフの思う壺になりそうだしな」

「じゃあ、なんのために戦うの?」

「その理由はひとつじゃないな。俺の中でいくつかの優先順位がある」

「全部教えて」

「全部、か……。
 まず第一に、大切な人たちを守りたい。ここにいるロゼ、俺の両親、俺の仲間になってくれる奴ら。そして、その周囲の人間。まずはそこだ」

「当然」

 ユナがうなずく。

(そりゃ、学園の仲間のために、最後まで戦ったやつだからな)

 当時は円卓の一員でもあったという。

「他人より身近な人を優先して守る。そこは譲れない。
 でも、それだけじゃ、結局誰も守れなくなるかもしれない。
 ミルデニア――この国を守るのももちろんなんだが、帝国で戦争のための道具とされてる兵士たち、彼らに搾取される市民たち。彼らのことも考えるべきだ。
 当たり前だけど、戦争になれば、どっちの国からも犠牲者が出る」

「そんな大風呂敷を広げていいの?」

「あの丞相は、それくらいに危険なんだ。帝国自身にとってもそうだろう。俺の最終目的は、キロフの排除ってことになりそうだ」

「でも、敵は帝国の中枢にいる」

「そうだな。だから、学園騎士団にいる間にどうにかできるとは思えない。
 ただ、それを見据えて今から動いておかないと、将来すべてを失うことになる。
 キロフと俺、数年後にどっちがより強くなってるか。
 これはそういう戦いなんだ」

「そんな先の見えない戦いに、わたしについてこいって言うの?」

「ついてこいとは言わないよ。一緒に戦う仲間がほしい。
 実力だけじゃない。こんなことは許しておけない、そう強く思ってくれるやつじゃないと、一緒にやっていくのは難しいだろう。
 俺とロゼは、仲間に相当シビアな要求をすることになるはずだ」

 俺の言葉に、ユナがわずかに視線を落とす。

「……わたしは、戦争が嫌い。大嫌い。どうしてこんなことをするのかわからない。死んだ人まで兵器に変えて、さらにたくさんの人を殺そうとする。そんな人間の浅ましさが大嫌い」

 身体にかけた毛布をぎゅっと握ってユナが言う。

「でも、死者たちは、わたしをこっちに送り返してくれた。
 まだ死ぬのは早い。そう言って。
 だけど、死者たちとずっと一緒にいたわたしは、どちらかといえば、そのまま死者たちとともに冥府へと消えてしまいたかった。『こっち』には辛い思い出が多すぎる」

 俺とロゼは何も言えない。
 戦争に巻き込まれ、敵兵に蹂躙された悲劇の世代。
 その円卓だった彼女には、いろんな悔いがあるのだろう。

「一度は失くしたと思ってた命。
 死者たちにもう一度もらった命。
 それなら、わたしは大嫌いな戦争をなくすために戦いたい。
 それが彼らへのせめてものはなむけになるはずだから」

 ユナが、再び俺の顔を見て言った。

「おかしいと思う?
 死霊なんて、ほんとはいない。
 霊威兵装がなければ、死者は固定されず、精霊に導かれていずこかへ向かっていく。
 いないはずの者たちのために戦う。
 変な話だと、自分でも思う」

「おかしくはないだろ。
 人ってさ、人の心の中に住み着くんだ。
 俺たちは、この場にいない人を思い描くことができる。
 でもその時、その人がもう死んでしまってる可能性だってあるわけだろ?
 だったら、生きてる人を思い描くのも、死んだ人を思い描くのも、その人にとっては同じことだ。
 死んだ人がその人にとって大事な人だったのなら、大事にし続けたっていいと思う。
 彼らは、そいつの中ではまだ生きてるんだからさ」

「……詭弁」

 ユナはぽつりと言ったが、その顎は小さくうなずいていた。

「わかった。エリアックがいなければ、わたしはまだ霊威兵装の中にいた。その恩も返したい」

「あれは成り行きだよ」

「それでも恩は恩。
 それに、ちょっと興味がある」

「興味? 何に?」

「二百四十年後の円卓に。後輩たちがどのくらい手強くなってるのか」

 ユナの青い海のような目に、ゆらりと闘志が揺らめいた。

「なんだ、そうは言っても武闘派なんじゃないか」

「当然。武闘派じゃない円卓なんていない」

「そ、そんなこともないんじゃないかな……」

 ロゼが微妙な顔でつぶやいた。

 ともあれ、俺とロゼは、これで二人目の仲間を確保したのだった。
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