Vtuberだけどリスナーに暴言吐いてもいいですか?

天宮暁

文字の大きさ
13 / 34

#13 親公認で相談相手にされました

しおりを挟む
「絵美莉ちゃんの――いえ、七星エリカの配信は全部見てるわ」

「「ひぃっ!」」
 俺と神崎の悲鳴がハモった。

 ――親が自分の配信を見てる。
 人ごととはいえ、おもわず悲鳴が出てしまった。

 ママさんが小さく息をつく。
「ママにはVtuberのことはわからないけど。いまの状態はちょっと……よくないわよね?」
「ううっ!?」
「元気がいいのは絵美莉ちゃんの魅力だとは思うんだけど、ね。コラボしてくれる人たちのことを困らせるのは、ママ、よくないことだと思うの」
「ぐううっ!?」
「視聴者さんは、エリカちゃんに関心を持ってくれた有り難い人たちよね? そんな人たちのことを傷つけるのも、ダメだと思うの」
「ぐふぉっ……」
 神崎が食卓に突っ伏した。

「ママ、心配なの。もちろん、七星エリカは架空の存在よ。エリカちゃんがいくら叩かれても、絵美莉ちゃんが直接危害を加えられるわけじゃない。絵美莉ちゃんの評判や経歴に、傷がつくわけでもないわ。
 でも、こんな形で七星エリカをやめることになったら、絵美莉ちゃんはきっと落ち込むと思う」
「そ、それは……」

「勘違いしないでほしいんだけど、『一度始めた以上最後まで責任を持て』なんて言うつもりはないの。Vtuberとしての活動は応援してるし、仕事である以上責任感は必要よ。
 だけど、絵美莉ちゃんが辛い思いをするくらいなら、いつだってやめていいとも思ってるの。事務所の人たちには迷惑をかけてしまうけど、それでもママは、絶対絵美莉ちゃんの味方をする」
「ま、ママ……」

「お金のことなんて、心配しなくていいのよ? それは親であるわたしが責任を持つことなんだから。心配してくれるのは嬉しいけど、わたしはわたしで、今の仕事が嫌なわけじゃないわ。
 でもね、小さい頃から見てるからわかるけど、他ならぬ絵美莉ちゃん自身が、こんな形でやめるのは納得いかないんじゃないかと思うの」
「そ、そう……ね。そんな終わり方は、イヤだわ。絶対イヤ!」

「うん、そうよね。絵美莉ちゃんのそういうところ、ママは大好きよ。
 でも、もう絵美莉ちゃん一人では抱えきれなくなってるのも事実だと思うの」
「うぐ……」

「ママのお仕事でもね、そういうことってよくあるの。まだ仕事に慣れてない人が、無理な仕事を抱え込んじゃって、どうにもならずに潰れちゃうってことが」
「……潰れる……」

「学校とはちがってね、お仕事っていうのは際限がないの。学校だったら、事前に試験範囲を教えてくれるわよね? その範囲も、真面目にやればちゃんとこなせるはずの範囲に収めてくれるわ。絶対無理な試験範囲になんて、まともな先生ならしないもの」
「そ、そう、ね」

「でも、お仕事には試験範囲なんてないのよね。絶対こなせっこない量のお仕事が、当たり前のように降ってくるの。しかも、全部完璧にできて当然だって言われるの。そんなの、できなくて当たり前。ちゃんと自分の状態を把握して、これ以上は無理だと思ったら、早めに上に相談するの」

「でも、自分の仕事なんでしょ?」
「そうなんだけどね。どうにもならなくなって困るのは自分だけじゃないから。周りの目を気にして助けを求めないでいると、そのほうが大変なことになっちゃうの。恥ずかしくても、バカにされても、助けを求めなくちゃいけないのよ。そこまで含めてお仕事なの」

「わたしは……バカになんてされたくないわ」
「みんなそうよ。本当は、ちゃんと上の人が見てて、助けてあげるべきなんだけど。みんな忙しいから、他の人のことまで気がつけないこともあるわ。
 だから、ピンチになってる本人が、自分の状況を自覚して、助けを求める必要があるのよね。
 難しいことだけど、それができるようになれば、ママも安心して見ていられるわ。事務所の人だってそうでしょうし、リスナーさんだってそうかもしれない。絵美莉ちゃんが苦しそうな顔で配信してたら、リスナーさんも胸が苦しくなっちゃうもの」
「……そうね」

「絵美莉ちゃんのやってることは、もうお仕事なの。とっても素敵なお仕事だわ。みんなを楽しませて、夢と元気を与えるお仕事。ママも誇らしいと思ってる。だけど、お仕事だから、絵美莉ちゃんが抱えきれなくなったらみんなに迷惑がかかっちゃう。それなのに、絵美莉ちゃんには助けを求められる人がいない」
 ママさんの言葉に、神崎が黙り込む。

 ひょっとしたら……と俺は思う。
 ママさんは今日、神崎の様子が気になって、早めに仕事を切り上げてきたんじゃないか?
 チカちゃんとのコラボ事故が昨夜のこと。
 それを、休み時間にでも知ったママさんは、娘のことが心配になって、いつもより早く帰ってきたんじゃなかろうか?

 ママさんが、俺にいたずらっぽい笑みを向けてくる。
 俺が気づいたことに気づいたって感じだな。

 俺は、ママさんにうなずいた。

「――わかりました。七星エリカのことについては、絵美莉さんの相談相手になります。俺でよければ、ですけど」

「ち、ちょっと! 勝手に決めないでくれる!?」
「どうせまだセッティングが終わってないだろ。カメラとマイクをつけて、今夜の配信までに調整しないと」
「そ、そうだった! って、もうこんな時間!? ママごめん! 配信の準備をするわ!」
「はぁい、がんばってね」
「あ、ごちそうさまでした」
「うふふ。お粗末様でした」
「ちょっとあんた! 人のママに色目使ってないで、早くわたしの部屋に来なさいよ!」
「い、色目なんて使ってねえよ!」
「ふふっ。こんな娘でごめんなさいね」
 ウィンクして謝ってくるママさんに会釈を返し、俺は神崎の後を追いかける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

処理中です...