Vtuberだけどリスナーに暴言吐いてもいいですか?

天宮暁

文字の大きさ
17 / 34

#17 意外な組合わせ

しおりを挟む
 俺たちはちょっと歩いて駅を越え、その裏にあるカタロニヤに入った。
 カタロニヤは駅の学校側にもあるんだが、そっちはうちの生徒が多すぎる。

 ウェイトレスさんに案内されて席に向かってると、予想もしない相手と出くわした。
「あれ? 北村じゃん」
「えっ、美夏がどうしてここに」
 俺と神崎が同時に声をあげる。

 ボックス席のひとつに、クラスメイト二人が向かい合わせに座ってた。
 俺のオタ友である北村と、神崎の「親友」駒川だ。駒川のファーストネームはいま初めて知ったけどな。

「人見氏ではござらんか。どうしてはこっちのセリフでござるよ」
「そうだよ! どうして絵美莉がこんなとこに。それも、人見君と一緒なんて意外!」
 北村と駒川が、俺と神崎を見比べながら言ってくる。

「いや、俺こそ意外だって。北村と駒川さんって……まさか、付き合ってんの?」
 同志だったはずの男に彼女がいた!
 しかも、相手はクラスで有数の人気を誇る陽キャ女子だと?
 ブルータスに裏切られたカエサルの気持ちが、いまならわかる。

 が、北村は首を左右に振った。
「ちがうでござるよ。駒川嬢にVtuberについて教えてほしいと頼まれただけでござる」
「いや、それでも十分有罪ギルティなんだが?」
「デートではないでござるよ」
「本当かぁ?」
「それは、悪魔の証明というものでござるな」
 デートであると証明することはできても、デートで「ない」ことは証明できないってことだな。
 だが、それは論点のすり替えだ。
 クラスの女子と放課後にファミレスでだべってる時点で、たとえデートじゃなくても有罪である。
 ……って、今は俺もそうなのか。
 わがことながら実感できねー。

「あはは。北村君、べつにデートってことにしてもいいんだよ? ま、付き合ってるわけじゃないけどね」
 と、駒川が笑って言う。
「って、わたしたちより絵美莉と人見君のほうが意外じゃない! 教室で仲悪いのは偽装だったの!?」

「ち、ちがうわよ! こ、これは、そのう……」
 神崎が顔を青くして口ごもる。
 顔を「赤く」ではなく「青く」してる時点で、こいつの俺への評価がわかろうというものだ。

 それにしても……薄々気づいちゃいたけど、こいつ、アクシデントに弱いよな。
 しかたないので、俺からフォローを入れてやる。
「いや実はさ。昨日神崎さんが俺のシャツにジュースをこぼしちゃって。神崎さんの家にお邪魔してシャワーを借りたんだ。そうしたらお母さんまで帰ってきちゃってさ。なぜか夕飯をご馳走になる流れになっちゃって……」
 ……って、これフォローになってんのかな。
 俺だったら「それなんてエ○ゲ」ってつっこんでるぞ。

 言いながら不安になる俺だったが、さいわいにも駒川はべつのところに食いついた。
「あ、人見君も絵美莉ママに会ったんだ! 綺麗だよね、あの人」
「ああ、マジ綺麗だった。子どもがいるとはとても思えん」
 100%の実感を込めて、俺は力強くうなずいた。
 リアルであれほどバブみに溢れた女性を見たのは初めてだ。

「なるほど。拙者にアリバイ工作を依頼したのはそれが原因でござったか。なかなかのラッキースケベでござるな」
 北村がにやにや笑いながら言ってくる。
「べつにスケベじゃないだろ」
 実際、ラッキースケベもあったけどな。
 北村の目を見るに、こいつ絶対「それなんてエ○ゲ」って思ってるぞ。女子の目があるから言わないだけで。

「そうなの、絵美莉?」
 と、神崎に振る駒川に、
「そ、そうなのよ! で、そのお詫びってことでカタロニヤの安いデザートでも奢るって話になったわけ」
 俺の嘘ではないが本当とも言い切れない説明に、神崎が慌てて乗ってくる。

「ふぅん?」
 駒川が、神崎をおもしろそうな顔で見つめてる。
「な、なによ?」
「ママさんの手料理食べさせてもらったんならそれで十分よね? それでも人目を忍んでここに来たってことは……」
「そ、そういうんじゃないから! ママのわがままに付き合わせて悪かったなって思っただけよ! だいたいデートだったらカタロニヤには来ないでしょ!」
「それもそうだね」
 JK二人が、カタロニヤへの熱い風評被害を繰り広げる。
 デートでカタロニヤに連れてくなってのは、ネットでも定番のネタではあるけどな。カタロニヤは、お財布に優しい普段使いのファミレスなのだ。

「それより、あんたたちこそ何してんのよ!? どうして美夏がVtuberに興味持ってるわけ!?」
 神崎の疑問には北村が答えた。
「昨日拙者が、美少女キャラクターの中身がおっさんの場合もあると言ったでござろう?」
「ああ、そういや言ってたな」
 神崎が教室から飛び出し、駒川が俺に追いかけろって言ってきた時のことだな。

「駒川嬢はそれをおもしろがって、自分で調べたそうなのでござる。で、一人お気に入りのVtuberを見出した……とのことでござった」
「えっ、誰なんだ?」
 興味をそそられ、おもわず聞いた。

(まさか……七星エリカとか言わないよな?)
 神崎の親友である駒川なら、七星エリカとも波長が合うかもしれない。
 俺の隣で神崎も、興味なさそうな様子を取り繕いながら、駒川の次のセリフに集中してる。

 駒川が、あっけらかんと言った。
「ヴァーチャルチャバネゴキブリだけど?」
「なんでそこから入ったんだよ!?」
 ヴァーチャルチャバネゴキブリ。
 口に出すのもおぞましい例の生物を、モーションキャプチャーで自在に動かし、ゴキブリ(あっ、言っちゃった)の生態についてレクチャーするという「バーチャルゴキブリ受肉おじさん」だ。
 俺の隣にいる神崎も、肩をかくりと落としてる。

「駒川嬢はなかなかのゲテモノ好きなのでござる。他の配信者についても知りたいと言われるので、不肖拙者からレクチャーさせてもらっておったのでござるよ」
「な、なるほど……」

 俺たちの会話がひと段落したところで、ウェイトレスさんがやってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

処理中です...