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第2話 それはどう見てもセーブポイントだった
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「それ」は、不可思議な存在だった。
あたたかな緑の光で描かれた魔法陣と、その上に浮かぶ光の玉。
そんなものを、王子としての俺は見たことも聞いたこともない……はずだった。
だが、「それ」を目にした途端、俺の口からは知らないはずの言葉が滑り出していた。
「セーブ……ポイント」
そうつぶやいた瞬間、俺の脳裏に膨大な知識が溢れ出した。
それは、
あまりにも異質で、
あまりにも多岐にわたり、
あまりにもナンセンスな知識だった。
――異世界の、ゲームの攻略情報。
ただの遊戯のために、
なんの利益になるわけでもないのに、
国籍も言語も異なる数百万人もの「プレイヤー」たちが、
「インターネット」なる高度な情報網を駆使して集積した、
ゲームをより効率的に進めるための知識やテクニック。
その情報量は、この世界であれば学問の一分野に匹敵するか、それ以上のものだろう。
ゲームとは何か?
地球と呼ばれる場所で、高度な科学文明が生み出したヴァーチャルな遊戯のことだ。
セーブポイントとは何か?
ゲームを中断するために、ゲームの進行状況を保存できる場所のことだ。
唐突に溢れ出した膨大な情報に、俺の視界がちかつき、激しいめまいに襲われる。
俺は、断片的に咀嚼した知識に導かれ、ふらふらとセーブポイントに近づいた。
あたたかな蛍光緑の球体に手をかざす。
かざした手の先に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。
セーブ
ロード
キャンプ
ファストトラベル
タイトルへ
やめる
「…………はぁ?」
それは、見慣れすぎたウィンドウだった。
いや、こんなものを、王子としての俺は見たことがない。
それなのに、懐かしさに涙がにじむほどに見覚えがある。
「マジ……かよ」
事態の急転についていけず、俺はただ呆然と、そのウィンドウと手の先に生まれたカーソルとを見比べる。
ウィンドウは俺の視線を追うように動き、カーソルは俺の手の震えに従って手ブレする。
「――見えたぞ! 王子だ!」
その声にぎくりとして振り返る。
隠し通路の奥に、魔法の明かりを掲げた敵兵の姿が見えた。
鎧兜が邪魔をして通るのに時間がかかってるようだが、その背後からもさらに敵兵の声がする。
「くっ!?」
考えるより早く、俺はウィンドウにカーソルを合わせていた。
>セーブ
ロード
キャンプ
ファストトラベル
タイトルへ
やめる
中指の先を、タップするように動かした。
ゲームと同じジェスチャーは正しく認識され、セーブの文字が明るく光る。
その次に現れたのは、
【セーブ】
スロット1:なし
スロット2:なし
スロット3:なし
・
・
・
「マジで、セーブ画面なんだな!?」
俺がスロット1を選択すると、
【セーブ】
スロット1:
ユリウス・ヴィスト・トラキリア
トラキリア城・地下隠し通路入口(北)
942年双子座の月4日 05:03
スロット2:なし
スロット3:なし
・
・
・
聞き慣れた効果音とともにセーブが終わった。
セーブができた。
できてしまった。
だが……だからなんだってんだ?
ゲームの断片的な知識からとりあえずセーブしてしまったが、そのあとのことなど何も考えていなかった。
そのあいだに、通路を抜け出た敵兵が弓を構える。
「くそっ!」
俺は慌てて反対側に逃げようとするが、
「人間に生まれたことを呪うんだな!」
敵兵の放った矢は、避ける暇もなく俺の眼窩を貫いた。
さいわいにも、激痛は一瞬だけだった。
激しいめまいとともに俺の視界が暗転し――
GAME OVER
闇に閉ざされた視界の真ん中に、赤いアルファベットが現れた。
あたたかな緑の光で描かれた魔法陣と、その上に浮かぶ光の玉。
そんなものを、王子としての俺は見たことも聞いたこともない……はずだった。
だが、「それ」を目にした途端、俺の口からは知らないはずの言葉が滑り出していた。
「セーブ……ポイント」
そうつぶやいた瞬間、俺の脳裏に膨大な知識が溢れ出した。
それは、
あまりにも異質で、
あまりにも多岐にわたり、
あまりにもナンセンスな知識だった。
――異世界の、ゲームの攻略情報。
ただの遊戯のために、
なんの利益になるわけでもないのに、
国籍も言語も異なる数百万人もの「プレイヤー」たちが、
「インターネット」なる高度な情報網を駆使して集積した、
ゲームをより効率的に進めるための知識やテクニック。
その情報量は、この世界であれば学問の一分野に匹敵するか、それ以上のものだろう。
ゲームとは何か?
地球と呼ばれる場所で、高度な科学文明が生み出したヴァーチャルな遊戯のことだ。
セーブポイントとは何か?
ゲームを中断するために、ゲームの進行状況を保存できる場所のことだ。
唐突に溢れ出した膨大な情報に、俺の視界がちかつき、激しいめまいに襲われる。
俺は、断片的に咀嚼した知識に導かれ、ふらふらとセーブポイントに近づいた。
あたたかな蛍光緑の球体に手をかざす。
かざした手の先に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。
セーブ
ロード
キャンプ
ファストトラベル
タイトルへ
やめる
「…………はぁ?」
それは、見慣れすぎたウィンドウだった。
いや、こんなものを、王子としての俺は見たことがない。
それなのに、懐かしさに涙がにじむほどに見覚えがある。
「マジ……かよ」
事態の急転についていけず、俺はただ呆然と、そのウィンドウと手の先に生まれたカーソルとを見比べる。
ウィンドウは俺の視線を追うように動き、カーソルは俺の手の震えに従って手ブレする。
「――見えたぞ! 王子だ!」
その声にぎくりとして振り返る。
隠し通路の奥に、魔法の明かりを掲げた敵兵の姿が見えた。
鎧兜が邪魔をして通るのに時間がかかってるようだが、その背後からもさらに敵兵の声がする。
「くっ!?」
考えるより早く、俺はウィンドウにカーソルを合わせていた。
>セーブ
ロード
キャンプ
ファストトラベル
タイトルへ
やめる
中指の先を、タップするように動かした。
ゲームと同じジェスチャーは正しく認識され、セーブの文字が明るく光る。
その次に現れたのは、
【セーブ】
スロット1:なし
スロット2:なし
スロット3:なし
・
・
・
「マジで、セーブ画面なんだな!?」
俺がスロット1を選択すると、
【セーブ】
スロット1:
ユリウス・ヴィスト・トラキリア
トラキリア城・地下隠し通路入口(北)
942年双子座の月4日 05:03
スロット2:なし
スロット3:なし
・
・
・
聞き慣れた効果音とともにセーブが終わった。
セーブができた。
できてしまった。
だが……だからなんだってんだ?
ゲームの断片的な知識からとりあえずセーブしてしまったが、そのあとのことなど何も考えていなかった。
そのあいだに、通路を抜け出た敵兵が弓を構える。
「くそっ!」
俺は慌てて反対側に逃げようとするが、
「人間に生まれたことを呪うんだな!」
敵兵の放った矢は、避ける暇もなく俺の眼窩を貫いた。
さいわいにも、激痛は一瞬だけだった。
激しいめまいとともに俺の視界が暗転し――
GAME OVER
闇に閉ざされた視界の真ん中に、赤いアルファベットが現れた。
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