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24 待ち合わせ
本当にいるのだろうか。
そんな思いを抱えながら一日の勤務を滞りなく終えた。ポニーテールを手櫛で縛り直し、そのままの姿で緑の門へと向かう。
そこには壁に背を預け、腕を組む……ルルを肩に乗せたファーガス様がいた。二人の仲は、悪くない感じだ。
何てことはないただの建物、彼一人がそこに立つだけでそこが絵画の世界になっている。
先に気付いたルルが首をくるっと90度こちらに折る。その仕草でファーガス様が私に気付き、こちらに足早にやってくる。
「どう、体調は? 記憶は戻った?」
挨拶より先に出た言葉に、私はどうしていいか分からず、横に目を泳がせた。
「焦る事はないよ」
「そうですね」
ファーガス様から私に移ったルルは、なぜか私の頭の上に腰を落ち着けたようだ。爪が出ていないから大丈夫だけど、ルルの重みは首にくる。
「ルル、高い所が好きならファーガス様の所へ戻りなさい」
言葉は通じないし、彼が動く気配はない。ファーガス様が手を出し迎えようとしても同じだった。
「移動しよう」
「ひと目のない場所でお願いします」
頭に珍獣を乗せた姿は出来れば誰にも見られたくない。肩のりだったら自慢できるだろうに。
ルルのおかげで、ファーガス様と照れる事がなく喋る事ができた。
先を歩くファーガス様の背は高い。
私の目の前が肩甲骨だ。天辺はどれほどかと確かめようとしたけれど、ルルを落としそうで見上げられなかった。
立ち入り禁止ではないけれど、足を踏み入れた事がない区域の建物を抜け、外に出た。
一人では来ようと思わない場所だし、実際初めてきた。
芝が広がり低木が植えられた憩いの庭といった感じの場所で、目に付いた鋳物の立派なベンチには先客がいた。
後ろ姿ではあるけれど私と同じ制服。
ん?
バラ騎士の女性と男性が寄り添っている! これが……逢引きか!
あまりの衝撃に立ち止まりそうだったのか、遅れをとっている私に気付いたファーガス様に苦笑いされ、手を繋がれ引っ張られた。
「そんなにじっと見るのは失礼だよ」
「そうですね。すいません」
その二人の姿も見えない所まで歩き、芝に腰を落とした。
「ど、どうして」
あり得ないものをみて動悸が収まらない。
「どうしてって、近衛の男女の活動の境界は厳しく分けられているけれど、それ以外の場所は結構緩いよ。それに職場恋愛は禁止じゃない。現に君の隊長の結婚相手は工作部の副参謀だ。一番多いパターンは騎士同士の結婚だけど。まさか、それすら知らないの?」
「そうです。知りませんでした。そんなの全部が初耳です」
驚いているのに頭が動かせない私を不憫に思ったのか、ファーガス様がルルを抱き上げ胸に抱える。
頭が軽くなった。
「髪が」
空いた片手で私の髪を躊躇いなく前髪を梳き横に流す。自慢でもない髪に触れられたかと思うと恥ずかしかった。
「男性との交流が普通にあるなんて知らなかったです」
照れを誤魔化すように言った。
「君は……本当に……無垢だ」
残念ながら、無垢ではなくて無知。世間を知らないのだ。
「そうだ。ルルはね、僕の勤務中は魔学部に預けている。それ以外は僕の部屋で飼っているんだ」
「そうなんですね。よかった安心しました」
「最初はどこに押し付けようか迷ったんだけど、君が守った命だと思うと無下にできくなったんだ。たまにね、森が恋しくなるのか、それとも君を想ってなのか、窓辺で何時間も動かなくなる時があって驚くよ。この魔獣の生態は謎だから、僕の手元で色々試してみるのも楽しいかなって今は思っている」
「色々試すんですか?」
過去、輸送部に連れてどこぞへ送り込もうとしていたことを思うと、いい想像はできなかった。酷い目にあわなければいいのだが。
「大丈夫。ルルにおかしな事はしないから。安心して」
ファーガス様の元で大人しくしているルルの様子で邪険に扱われていない事はわかる。
――るるぅ
何となくではあるけれど、安らぎの感情が伝わってきた。
「ファーガス様の事を、きっとルルは家族だと、例えばパパだと思っているかもしれませんね」
腕の力が緩んだのか、こちらにやってきたルルを次は私が抱え込む。
小さくて、ちょこちょこ首が動くのが可愛い。耳が三角形で、鼻は黒くてまん丸。愛らしい顔立ちだ。
「……だったら、君は……マ……だ……」
短い毛並の柔らかさを長く楽しんでいて、うっかり聞き逃した。
「え!? すいません。もう一度言ってもらえますか?」
「いや……もう無理だろう」
「だって、ファーガス様の声が小さくなるので」
「君は、嫌になるほど鈍感になる時があるんだね」
長い溜息をつかれた。
「すいません」
「僕がパパなら、きみは……ママと言ったんだ」
あぁ……なるほど。
それは聞かなければよかったのかも、です。
そんな思いを抱えながら一日の勤務を滞りなく終えた。ポニーテールを手櫛で縛り直し、そのままの姿で緑の門へと向かう。
そこには壁に背を預け、腕を組む……ルルを肩に乗せたファーガス様がいた。二人の仲は、悪くない感じだ。
何てことはないただの建物、彼一人がそこに立つだけでそこが絵画の世界になっている。
先に気付いたルルが首をくるっと90度こちらに折る。その仕草でファーガス様が私に気付き、こちらに足早にやってくる。
「どう、体調は? 記憶は戻った?」
挨拶より先に出た言葉に、私はどうしていいか分からず、横に目を泳がせた。
「焦る事はないよ」
「そうですね」
ファーガス様から私に移ったルルは、なぜか私の頭の上に腰を落ち着けたようだ。爪が出ていないから大丈夫だけど、ルルの重みは首にくる。
「ルル、高い所が好きならファーガス様の所へ戻りなさい」
言葉は通じないし、彼が動く気配はない。ファーガス様が手を出し迎えようとしても同じだった。
「移動しよう」
「ひと目のない場所でお願いします」
頭に珍獣を乗せた姿は出来れば誰にも見られたくない。肩のりだったら自慢できるだろうに。
ルルのおかげで、ファーガス様と照れる事がなく喋る事ができた。
先を歩くファーガス様の背は高い。
私の目の前が肩甲骨だ。天辺はどれほどかと確かめようとしたけれど、ルルを落としそうで見上げられなかった。
立ち入り禁止ではないけれど、足を踏み入れた事がない区域の建物を抜け、外に出た。
一人では来ようと思わない場所だし、実際初めてきた。
芝が広がり低木が植えられた憩いの庭といった感じの場所で、目に付いた鋳物の立派なベンチには先客がいた。
後ろ姿ではあるけれど私と同じ制服。
ん?
バラ騎士の女性と男性が寄り添っている! これが……逢引きか!
あまりの衝撃に立ち止まりそうだったのか、遅れをとっている私に気付いたファーガス様に苦笑いされ、手を繋がれ引っ張られた。
「そんなにじっと見るのは失礼だよ」
「そうですね。すいません」
その二人の姿も見えない所まで歩き、芝に腰を落とした。
「ど、どうして」
あり得ないものをみて動悸が収まらない。
「どうしてって、近衛の男女の活動の境界は厳しく分けられているけれど、それ以外の場所は結構緩いよ。それに職場恋愛は禁止じゃない。現に君の隊長の結婚相手は工作部の副参謀だ。一番多いパターンは騎士同士の結婚だけど。まさか、それすら知らないの?」
「そうです。知りませんでした。そんなの全部が初耳です」
驚いているのに頭が動かせない私を不憫に思ったのか、ファーガス様がルルを抱き上げ胸に抱える。
頭が軽くなった。
「髪が」
空いた片手で私の髪を躊躇いなく前髪を梳き横に流す。自慢でもない髪に触れられたかと思うと恥ずかしかった。
「男性との交流が普通にあるなんて知らなかったです」
照れを誤魔化すように言った。
「君は……本当に……無垢だ」
残念ながら、無垢ではなくて無知。世間を知らないのだ。
「そうだ。ルルはね、僕の勤務中は魔学部に預けている。それ以外は僕の部屋で飼っているんだ」
「そうなんですね。よかった安心しました」
「最初はどこに押し付けようか迷ったんだけど、君が守った命だと思うと無下にできくなったんだ。たまにね、森が恋しくなるのか、それとも君を想ってなのか、窓辺で何時間も動かなくなる時があって驚くよ。この魔獣の生態は謎だから、僕の手元で色々試してみるのも楽しいかなって今は思っている」
「色々試すんですか?」
過去、輸送部に連れてどこぞへ送り込もうとしていたことを思うと、いい想像はできなかった。酷い目にあわなければいいのだが。
「大丈夫。ルルにおかしな事はしないから。安心して」
ファーガス様の元で大人しくしているルルの様子で邪険に扱われていない事はわかる。
――るるぅ
何となくではあるけれど、安らぎの感情が伝わってきた。
「ファーガス様の事を、きっとルルは家族だと、例えばパパだと思っているかもしれませんね」
腕の力が緩んだのか、こちらにやってきたルルを次は私が抱え込む。
小さくて、ちょこちょこ首が動くのが可愛い。耳が三角形で、鼻は黒くてまん丸。愛らしい顔立ちだ。
「……だったら、君は……マ……だ……」
短い毛並の柔らかさを長く楽しんでいて、うっかり聞き逃した。
「え!? すいません。もう一度言ってもらえますか?」
「いや……もう無理だろう」
「だって、ファーガス様の声が小さくなるので」
「君は、嫌になるほど鈍感になる時があるんだね」
長い溜息をつかれた。
「すいません」
「僕がパパなら、きみは……ママと言ったんだ」
あぁ……なるほど。
それは聞かなければよかったのかも、です。
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