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48 夜会
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当日、私は震えるほどに緊張していた。
その日は休日にあてられいたのは、偶然ではなくそう組んであったからだった。そして昼からは時間をかけた化粧とヘアメイクに苦しむことになった。
研究所の会議室、床には布が引かれドレスが汚れないように配慮されている。
以前はなかった鏡が設置され、椅子に座らされあとはひたすら耐えるだけ。
プロにしてもらう完璧な化粧というのは初めてで、仕上がった自分の顔をみて驚いてしまう。あれほど地味だった顔が華やかになっていたのだ。
そして夜会は髪を結いあげるのが決まりらしく、天辺近くてまとまった髪はあちこちをピンでとめられ形を作っている。くせ毛なのが幸いしたのか、動きがあって可愛らしい。
光っているのは宝石ではなく作り物らしいけれど、若いからこそ、これだけ大振りな飾りを付けることができるのだと説明された。
そしてなんといっても素晴らしいのはドレスだった。
部屋の真ん中に置かれたいたそれを、私は何度かチラ見するほど存在感があったのだ。
軽くコルセットで締められ袖を通すと、小さくてとても入らないと思っていたそれが、驚くことにぴたりとはまる。
襟ぐりは深いけれど、ショルダー部分にドレープがかかっているせいか、貧しい胸はあまり気にならない。いかつい肩もカバーできる。
A ラインのドレスは美しく足元へと流れ、その完璧なバランスに見とれてしまった。鏡を前にポカンとするしかない。
「お姫さまが仕上がったね」
「ジェド様……見かけだけは、完璧にしていただきました」
「外側だけとは思えないよ。大丈夫、自信を持って」
自分に見とれていた訳でなく、ドレスに見とれていたのに、鏡の中で目が合い急なジェド様登場に恥ずかしくなる。
振り向こうとすると、後ろから両肩に手がかかり、触れ合うそこに温もりがある。
「うん、すごく似会ってる。どこからどう見ても君はお姫様。隣にいる私は王子に見えるだろうか」
「ええ、ジェド様もとてもよく似合っています」
最後の仕上げだと、ジェド様はベルベッドの箱からネックレスを取り出し、そっと私の首にさげ、後ろでそのホックを留めた。
ひやっとして思わず首をすくめるような冷たさもすぐに馴染んだけれど、大きな存在感はその輝きから失われなかった。
今夜のジェド様はごく普通の紳士にしか見えない。
服がそう見せているのだろうけれど、既製品を直したとは思えないほど彼の姿は決まっている。色は全身黒のブラックタイだけど、胸に入れたチーフは確かに私のドレスと同じ布だ。
「もっと派手に着飾る男性もいるだろうけれど、今夜はパトリシアの引き立て役に徹するよ。さあ、今夜は楽しもう」
お手をどうぞと片手を差し出され、私はそっとそこに指先を置いた。
「すっ、すごいです……」
王城内にある広間に入り、私はすぐに声を失った。
広間はドレスを仕立ててくれたお針子の女性が言っていた通り、荘厳な雰囲気で満ちている。
あちこちに灯ったランプのせいで、まるでそれが夜空に灯る星のようにも見える。
そしてその星々の下にいるのは、着飾った男女。
老若男女、見知った顔があるはずだけど、私にはまぶしすぎて見分けられなかった。
女性はやはり青を基調にしたドレスが多く、そうでなくとも寒色系の冷たい色、そして流行なのかワンショルダーの方が多い。
やっぱり、お古のドレスではかなり浮いていただろう。すごい偶然でジェド様に出会い、こうして手助けして頂いたことに感謝しかない。
人は次々と会場に入ってきて、場がゆっくりと盛り上がっていく。
食事をするスペースは設けられておらず、しきりに銀盆に飲み物や、軽く摘める食事を持った給仕の男性が通り過ぎる。
会場の前方にはステージがあり、そこでは会話を邪魔しない音量で楽団が音を奏でていた。
ジェド様のリードで流れるように会場を移動する。
「パトリシア?」
広い会場の中で一番に声をかけてくれたのは、ファーガス様の友人、そしてアイリ隊長の夫であるネイハム様だった。
「今夜は大変身ですね。一瞬誰かわからなかったほどです。すいません、女性を褒めることに慣れていなので」
「いいえ、私自身がこの変身に一番驚いていますから」
「アイリは欠席だから、私は最初だけと、申し訳程度にと顔を出したのですが……」
ネイハム様はちらりとジェド様を見る。
そうだ。ネイハム様はジェド様をご存じないだろうし紹介しなければ。
「あの、こちらは母の知人で研究所に所属するジェド様です。私が困っていることを知って、エスコート役を引き受けてくださいました」
「初めまして、ジェドと申します。いつもパトリシアがお世話になっているようで、ありがとうございます」
一歩前へ出てネイハム様と握手を交わす。
その視線にピリッとした鋭さを感じたけれど、そう思うと間もなくふたりは柔らかく微笑み合う。
気のせい……だったのかも。
「こちらこそパトリシアがお世話になったようで大変申し訳ありません。家の妻はパトリシアの上司にあたりまして、今夜のことで気を使えなかったことを申し訳なく思います。パトリシア、他にも困ったことがあったのでは?」
「いえ、大丈夫です」
この道のりまでの苦労を教える気はなく、どうかこれ以上のつっこみはしないで欲しいと願った。
「すごく素敵なドレスだね。それも?」
「ええ、ジェド様にご用意いただきました」
「なるほど。パトリシアの魅力が引き出された、とてもよい物ですね。一体どこであつらえたものでしょう」
ネイハム様はジェド様に話しかけておられる。
「それは私が直接手配したのではなく、知人を通したもので」
「ほぉ……知人とは……?」
「この場では、内緒にしておきましょう」
「あらあら、詳しくは教えて頂けないのかしら?」
二人の間に入ってきたのは、見知らぬ年かさの女性だった。お洒落が板についているというか、どんな衣装も着こなせそうな迫力のある方がずいっと話に入ってくる。
「私も、とても興味がありますわ。会場に入って来た時から気になってたんです。それ、どこでお作りになったのかしらって」
「実は店に発注したのではなく、とある方に専属で仕えているデザイナー集団に作っていただいたんです」
「それは、すごいわね。でも納得だわ。彼女にぴったりの彼女だけのドレスだもの」
乱入者にも慌てずジェド様は悠然と微笑む。作り物めいて見えなくて自然で、社交の場に慣れている人だとわかる対応だ。
それにしても、あの人たちはとある方の専属デザイナーだったんだ。
採寸から着付けまでしてくれた三人の女性を思い浮かべる。
とある方がどなたかはわからないけれど、力を持った方なのはわかる。三人を常に雇うだけの財力がある人となると、それは数が限られる。私がまだお会いしたこともない、そんな立派な方の力をお借りしてこの場に来ることができたのだ。
その女性の声が通るのか、それとも有名な方のご婦人なのか、その女性を中心に人垣ができていき、私も自然にその輪に組み込まれてしまった。
「あなたは……バラ騎士の方?」
「ええ、そうです。パトリシアと申します」
「まあ、今年の方はなんて可愛らしいんでしょう。でもやっぱり騎士の方は雰囲気でわかるものね。とても姿勢がよくて自信に満ちているもの」
「ぜひ次は隊服の時にお会いしたいわね」
私は次々とお友達の紹介を受け、握手していく。私のどこが自信に満ちて見えるのかわからない。雰囲気にのまれそうになるのを必死に堪えているのだけど、それを都合よく勝手に勘違いして下さってくれている。
今後どこかで会おうこともあるだろうし、その時のためにもと、必死で顔を名前を頭に叩き込んだ。
話しは尽きず、集まった皆さんの会話がぽんぽん飛ぶのに感心してしまう。
「今夜はアイリ隊長がいらっしゃらないのね」
「残念だわ。あの方にお会いするを楽しみにしていたのに」
「私もファンですのよ。あの凛としたお姿を見るだけでどきどきします」
隊長はマダムたちをも惹きつけておられることを初めて知った。そしてバラ騎士はやはり人気のようだ。
そしてネイハム様はいつの間にか挨拶もなくそっと消えていらっしゃり、ジェド様は輪の後ろでそっと微笑んでいらした。
その日は休日にあてられいたのは、偶然ではなくそう組んであったからだった。そして昼からは時間をかけた化粧とヘアメイクに苦しむことになった。
研究所の会議室、床には布が引かれドレスが汚れないように配慮されている。
以前はなかった鏡が設置され、椅子に座らされあとはひたすら耐えるだけ。
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光っているのは宝石ではなく作り物らしいけれど、若いからこそ、これだけ大振りな飾りを付けることができるのだと説明された。
そしてなんといっても素晴らしいのはドレスだった。
部屋の真ん中に置かれたいたそれを、私は何度かチラ見するほど存在感があったのだ。
軽くコルセットで締められ袖を通すと、小さくてとても入らないと思っていたそれが、驚くことにぴたりとはまる。
襟ぐりは深いけれど、ショルダー部分にドレープがかかっているせいか、貧しい胸はあまり気にならない。いかつい肩もカバーできる。
A ラインのドレスは美しく足元へと流れ、その完璧なバランスに見とれてしまった。鏡を前にポカンとするしかない。
「お姫さまが仕上がったね」
「ジェド様……見かけだけは、完璧にしていただきました」
「外側だけとは思えないよ。大丈夫、自信を持って」
自分に見とれていた訳でなく、ドレスに見とれていたのに、鏡の中で目が合い急なジェド様登場に恥ずかしくなる。
振り向こうとすると、後ろから両肩に手がかかり、触れ合うそこに温もりがある。
「うん、すごく似会ってる。どこからどう見ても君はお姫様。隣にいる私は王子に見えるだろうか」
「ええ、ジェド様もとてもよく似合っています」
最後の仕上げだと、ジェド様はベルベッドの箱からネックレスを取り出し、そっと私の首にさげ、後ろでそのホックを留めた。
ひやっとして思わず首をすくめるような冷たさもすぐに馴染んだけれど、大きな存在感はその輝きから失われなかった。
今夜のジェド様はごく普通の紳士にしか見えない。
服がそう見せているのだろうけれど、既製品を直したとは思えないほど彼の姿は決まっている。色は全身黒のブラックタイだけど、胸に入れたチーフは確かに私のドレスと同じ布だ。
「もっと派手に着飾る男性もいるだろうけれど、今夜はパトリシアの引き立て役に徹するよ。さあ、今夜は楽しもう」
お手をどうぞと片手を差し出され、私はそっとそこに指先を置いた。
「すっ、すごいです……」
王城内にある広間に入り、私はすぐに声を失った。
広間はドレスを仕立ててくれたお針子の女性が言っていた通り、荘厳な雰囲気で満ちている。
あちこちに灯ったランプのせいで、まるでそれが夜空に灯る星のようにも見える。
そしてその星々の下にいるのは、着飾った男女。
老若男女、見知った顔があるはずだけど、私にはまぶしすぎて見分けられなかった。
女性はやはり青を基調にしたドレスが多く、そうでなくとも寒色系の冷たい色、そして流行なのかワンショルダーの方が多い。
やっぱり、お古のドレスではかなり浮いていただろう。すごい偶然でジェド様に出会い、こうして手助けして頂いたことに感謝しかない。
人は次々と会場に入ってきて、場がゆっくりと盛り上がっていく。
食事をするスペースは設けられておらず、しきりに銀盆に飲み物や、軽く摘める食事を持った給仕の男性が通り過ぎる。
会場の前方にはステージがあり、そこでは会話を邪魔しない音量で楽団が音を奏でていた。
ジェド様のリードで流れるように会場を移動する。
「パトリシア?」
広い会場の中で一番に声をかけてくれたのは、ファーガス様の友人、そしてアイリ隊長の夫であるネイハム様だった。
「今夜は大変身ですね。一瞬誰かわからなかったほどです。すいません、女性を褒めることに慣れていなので」
「いいえ、私自身がこの変身に一番驚いていますから」
「アイリは欠席だから、私は最初だけと、申し訳程度にと顔を出したのですが……」
ネイハム様はちらりとジェド様を見る。
そうだ。ネイハム様はジェド様をご存じないだろうし紹介しなければ。
「あの、こちらは母の知人で研究所に所属するジェド様です。私が困っていることを知って、エスコート役を引き受けてくださいました」
「初めまして、ジェドと申します。いつもパトリシアがお世話になっているようで、ありがとうございます」
一歩前へ出てネイハム様と握手を交わす。
その視線にピリッとした鋭さを感じたけれど、そう思うと間もなくふたりは柔らかく微笑み合う。
気のせい……だったのかも。
「こちらこそパトリシアがお世話になったようで大変申し訳ありません。家の妻はパトリシアの上司にあたりまして、今夜のことで気を使えなかったことを申し訳なく思います。パトリシア、他にも困ったことがあったのでは?」
「いえ、大丈夫です」
この道のりまでの苦労を教える気はなく、どうかこれ以上のつっこみはしないで欲しいと願った。
「すごく素敵なドレスだね。それも?」
「ええ、ジェド様にご用意いただきました」
「なるほど。パトリシアの魅力が引き出された、とてもよい物ですね。一体どこであつらえたものでしょう」
ネイハム様はジェド様に話しかけておられる。
「それは私が直接手配したのではなく、知人を通したもので」
「ほぉ……知人とは……?」
「この場では、内緒にしておきましょう」
「あらあら、詳しくは教えて頂けないのかしら?」
二人の間に入ってきたのは、見知らぬ年かさの女性だった。お洒落が板についているというか、どんな衣装も着こなせそうな迫力のある方がずいっと話に入ってくる。
「私も、とても興味がありますわ。会場に入って来た時から気になってたんです。それ、どこでお作りになったのかしらって」
「実は店に発注したのではなく、とある方に専属で仕えているデザイナー集団に作っていただいたんです」
「それは、すごいわね。でも納得だわ。彼女にぴったりの彼女だけのドレスだもの」
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それにしても、あの人たちはとある方の専属デザイナーだったんだ。
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その女性の声が通るのか、それとも有名な方のご婦人なのか、その女性を中心に人垣ができていき、私も自然にその輪に組み込まれてしまった。
「あなたは……バラ騎士の方?」
「ええ、そうです。パトリシアと申します」
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今後どこかで会おうこともあるだろうし、その時のためにもと、必死で顔を名前を頭に叩き込んだ。
話しは尽きず、集まった皆さんの会話がぽんぽん飛ぶのに感心してしまう。
「今夜はアイリ隊長がいらっしゃらないのね」
「残念だわ。あの方にお会いするを楽しみにしていたのに」
「私もファンですのよ。あの凛としたお姿を見るだけでどきどきします」
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