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第五章 甘い時間

1. 大丈夫

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 洋輔は彩子を抱きしめていた腕を解くと、彩子のことをじっと見つめ、髪を梳くようにしてそっと彩子の頭に触れてきた。


「彩子。昨日はひどくしてごめん」
「ううん、大丈夫だよ」
「本当にごめん。彩子のことすごく大事なのに、大事にしたかったのに……傷つけた」
「私は傷ついてないよ。そんなふうに見える?」
「ううん。でもひどくしたのに変わりない。だから……」


 洋輔は瞳に涙を浮かべている。でもそこに先ほどのような絶望の色はなかった。


「私といられなくなると思った?」

 洋輔は静かに頷いた。きっとまた一人になると思ってこわかったのだろう。彩子は洋輔をそっと抱きしめて優しくその頭を撫でてやった。

「こわかったね。ごめんね、こわい思いさせて」

 そっと洋輔の顔を覗き込めば、泣き笑いの表情を浮かべていた。

「彩子は優しすぎる……いつだって彩子に救われてる」

 洋輔の口からその言葉を聞けるとは思いもしなかった。きっとそういう存在になれていると信じてはいたが、それでも本人から直接言われれば彩子はひどく安心した。

「そう?」
「うん。ははっ、こんなに大事にしたいと思った人は初めてだよ。彩子、まだ俺と一緒にいてくれる?」
「当たり前でしょ。私も洋輔のこと大事だって言ったよね? この耳は飾り物なの?」

 彩子はそう言って洋輔の耳を軽く引っ張ってやった。

「あはは。彩子、俺のそばにいて? 大事にするから。もうあんなことしない」
「うん。洋輔のそばにいる。でもね、昨日のもそんな悪くなかったんだよ? 荒っぽい洋輔にちょっと興奮したっていうか……あの……うん……うっ……」

 彩子は思わず本音を漏らしてしまって急激に恥ずかしくなった。

 確かに昨日の抱き方は手荒なものだったが、それはあくまでも洋輔基準なのだ。本当に乱暴にされていたら、こんなものでは済んでいないだろう。彩子の身体がきしんでいるのも、どちらかといえば彩子の運動不足が原因といえる。本能むき出しの洋輔はあまりにセクシーで、彩子は少しの興奮を覚えていたのだ。



「彩子……」

 洋輔は片手で顔を覆って、そっぽを向いてしまった。


「さすがにそんなこと言われたら、ちょっとくる……今からってわけにはいかないから煽るようなこと言わないで……」
「ごめん……」
「ふぅー……」

 洋輔は大きく息を吐きだしたあと、彩子に向かって微笑み、彩子の頭を軽く一撫でした。

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