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第七章 かなわない

2. 叶わない

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 洋輔にはもう長いこと想いを寄せる相手がいた。


 彼女との出会いは大学三年生のとき。洋輔の所属するサークルに新入生の小谷が入ってきたときのことだ。

 小谷はとても純粋で裏表のない、とてもかわいらしい子だった。

 最初はただの先輩として、彼女をかわいがっていた。特別な感情は持っていなかった。

 けれど何をやっても喜んでくれる彼女に、洋輔は次第に想いを募らせていった。彼女の反応も悪くなかったから、両想いかもしれないとも思った。告白だって考えていた。


 しかし、洋輔のその想いはすぐに打ち砕かれてしまった。

 彼女は別の人間の恋人になってしまったのだ。よりにもよって洋輔の親友の青木大隆の恋人に。


 想いあっている二人に割って入ることなど当然できなかった。

 洋輔の恋は叶わない恋だった。



 就職すれば距離も離れ、苦しむこともなくなっていったが、それはたったの二年で終わりを迎えてしまった。小谷が同じ会社に就職してしまったのだ。

 せっかく忘れられると思ったのに、こんなにも近くにいれば洋輔はその想いを消すことができなかった。

 親友の恋人に懸想する自分が嫌でたまらなくて、少しでも好きになれそうな人から告白されれば迷わずに付きあった。その恋人を好きになろうとしてできる限りの努力もしたが、結局どうやったって小谷への想いは変わらなかった。


 洋輔は変わらない自分にほとほと疲れ果てていた。


 そんなときだったのだ、彩子からの提案は。

 彩子にそういう想いを抱いたことはないが、それは向こうも同じようだった。今と同じ距離感で彩子がずっとそばにいてくれるというのなら、恋人は作らずにただただ彩子との時間を楽しむのも悪くないと思った。

 もう無理に別の誰かを好きになるのはやめようと決めた。



 結果として、彩子との時間は洋輔を大層癒してくれた。

 恋人になって出かける場所が変わっても、二人の距離感はそのままで、一緒にいるのはとても楽だった。

(最初からこうしてればよかったな。恋人なんか作らないでずっと折戸といればよかった)


 このままこの関係が続いていくと思えば、洋輔はとても幸せなことだなと思った。二人の距離を縮めようだなんてまったく考えなかった。

 あの水族館デートのときもあんなことしようだなんて思っていなかったのだ。
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