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第九章 束の間を超えて

1. 両想いの朝

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 目が覚めると、目の前に洋輔がいた。彩子を見て微笑んでいる。

「おはよう、彩子」
「おはよう」

 そっと頭を撫でられる。それがとても心地いい。

「彩子、好きだよ」

 洋輔はとても柔らかく甘い顔をしていた。今の言葉が本当なんだとでも言うように。

 彩子は、それをもう素直に受け取ってもいいのだと思うと胸がいっぱいになった。喜びが身体いっぱいに広がる。

「私も、好き」
「うん」

 額にそっと口づけが降ってきた。

 離れると洋輔はまた微笑んで彩子を見つめてくる。それが嬉しくて彩子も微笑み、見つめ返した。


「彩子、目、腫れちゃったね。冷やすもの持ってくるよ」

 洋輔は起き上がり、ベッドを離れていこうとする。


「いっちゃやだ……」

 思わず洋輔の服の裾を掴んで、そう口にしていた。



「っ……何これ……かわいすぎるっ」
「……」


 昨日自分の心を全開にしてしまったからだろうか。普段はしないような甘えたことをしてしまった。

 今まで見せたことのない自分を晒してしまって、なんだか不安になってくる。



「そんな顔しないで? 大丈夫。思ったこと言って大丈夫だから。ほら、わかる?」

 洋輔は彩子の手を取ると、その胸に当てさせた。心臓が強く脈打っているのがわかる。

「ドクドク言ってるでしょ? 彩子がかわいいからこうなってるんだよ。大丈夫。何言っても大丈夫だから」

 優しい顔で彩子のことを見つめてくる。それに背中を押されて口を開いた。

「……離れるの、やだ」
「うん、わかった。彩子」

 ちゅっと音を立てて、また額にキスが降ってきた。洋輔はにこにことしている。

「かわいいね、彩子。好きだよ。大好き。全部教えて? 彩子の思ってることは何でも知りたい。もう俺は彩子にベタ惚れなんだから」


 あまりに糖度の高い洋輔に、恥ずかしくてたまらなくなるが、もう今までみたいに怒ることもできない。洋輔から与えられるすべてをその身に浴びていたかった。

 そうして素直に受け止めてみれば、ふわふわと宙を浮いているようなとても心地のいい感覚に襲われた。

 あまりにも心地よくて、そのまま身をゆだねていたくて、気づけばさらに甘えた台詞を言っていた。

「ぎゅってして?」
「っ」

 洋輔がぎゅっと彩子を抱きしめてくる。

「ぎゅーっ。これでいい?」

 少しだけ強い抱擁は彩子に安心をもたらした。彩子は頷いてから、自分もそっと洋輔に腕を回して抱きしめた。

「はぁ、彩子がかわいすぎてつらい。彩子がこんなふうに甘えるの初めてだね? 甘えてくれるの嬉しい。もっといっぱい甘えて?」

 その台詞が恥ずかしくて、彩子は洋輔に回している腕にきゅっと力を込めた。

「ふふっ、彩子照れてる? かわいい」

 洋輔の甘さに酔っているような気分だ。



「よしっ。彩子、抱っこしてこう」
「へ?」
「冷やすもの一緒に取りにいこう。ね? はい、おいで?」

 洋輔は彩子から離れるとベッドの端に立ち、両手を広げて待っている。そこに抱きつけと言っているのだろう。

 その姿はバカップル甚だしいが、これは冷静になったら負けだと、彩子は開き直ることにした。今日くらいバカップルになったって許されるはずだ。思い切り洋輔に抱きついた。

「ははっ。これ彩子の重さを感じられていいな。癖になりそう。ちゃんと掴まっててね」

 洋輔は本当に彩子を抱っこしたまま歩いていき、保冷剤とタオルを持って寝室まで戻ってきた。


「はい、これで目押さえて?」
「ありがとう」

 タオルで目を押さえていれば、ちゅっちゅっといろんなところへキスが降ってくる。

「ふふっ、洋輔、くすぐったい」
「んー? 大人しく受け入れて? 今俺は彩子を愛でてるんだから」

 容赦なくキスの雨が降ってくる。

「んっ」

 耳に音を立てて口づけられれば、思わず鼻から抜けるような声が漏れてしまった。

「彩子……その声はえっち」
「もう、洋輔っ!」

 目に当てていたタオルを外して、キッと睨んでみせた。


「ははっ。ごめんって。じゃあ、冷やしてる間、お話ししようか」
「……うん」

 またタオルを目に当てれば、洋輔が彩子の肩に手を回してそっと抱き寄せるようにするから、彩子は抵抗せずにそのまま洋輔の身体にもたれかかるようにした。
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