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第23話

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青年が右腕、ごつい男が左腕を振る。ゴッ!鈍い音が辺りに響いた。

「ぐっ・・・」

呻いたのははたして青年なのか、ごつい男なのか、それとも両方だったのか。

またしても、二人が同時に間をあける。青年は額から、ごつい男は唇から血をのぞかせていた。

「やるじゃねぇか」

「あんたもな」

再び二人が少しずつにじり寄る。

「だりゃぁ」

先に動いたのはごつい男。先程よりも鋭く早い動作で拳を振る!

「なっ!?」

しかし青年の姿はそこにはなくごつい男の拳が空を切る。

「残念だったな」

早くも男の後ろに出現した青年が勝利を確信して声を上げると同時に男の頭部にむかって蹴を放つ。バシィィィン

「馬鹿な!?」

「そこまでにしておけ」

青年の驚愕の声に答えるかのように、低い声で突然あらわれた男が言った。

年はあと2、3年で三十歳になるといったところか、短く刈り込まれた黒髪、意思をもった鋭い眼、全身を覆う紺色の服、背丈は170センチくらいだろうか、決して大柄なわけではない。

まさか・・・、あたしはひとりでに手が震えだすのを感じていた。

「・・・親分がおまえのことを大層つぶしたがっているぜ」

突然の来訪者にびっくりしてか、それともこの男の威圧感にやられたのか、野次馬や当事者である青年までもが黙っているなか、目に見えないが確かに存在する何かに抗かのようにごつい男が何とか声を発した。

「・・・ヤーク・タイザーの部下か・・・」

ごつい男の方をちらりと一瞥し、低く、それでいて聞くものの体に直接働き掛けるような声で答える。

「いい加減離れたらどうだ?シークス・ブライト」

いまだ蹴を繰り出した姿勢のまま固まっている青年に向かって声をかける。

「はっ、はい」

青年が言われて素直に、脚を引く。

「さて、諍いはあるだろうが、双方収めてくれるかな?」

「誰がてめぇの言うことなんかきくかよ!」

「わかりました!」

ごつい男と青年・・・シークスといったっけかな・・・が一方は喧嘩腰で、一方は従順に、込める意志は違うが大きな声で答える。

「そうか・・・、戦わずして負けたいというのなら、止めはしないぞダラス・ガイン」

「なんだと?」

ごつい男・・・ダラスというらしい・・・が不信げにききかえす。

男はゆっくりと直立して気を付けをしているシークスと鎖につながれた野獣のように自分を威嚇しているダラスを見回し、淡々と言う。

「私の任務は、世界大会開催に伴って急増してくる諍い、特に世界大会出場者同士で起こるものを鎮圧するものだ。したがって、これ以上おまえたちが喧嘩を続けるというなら」

と、此処で一息をつく。さすがに“間”と言うものがわかっているわね。

数分しゃべらなかった認識を周りに与え・・・実際には3秒ほどだったが・・・より静かにだが強い気を込めてことばを紡ぐ。

「出場資格を剥奪した上、二度と戦えない身体にする」

 ザワッ 

男の言葉と同時に、戦慄が走った。男が抑えていた氣を解き放ったのだ・・・こんなに離れてるのに。

「くっ、仕方ねぇ。ここでお前を倒すのはわけねぇが、親分に申し訳ないからな。親分に倒されるのを首を洗って待ってな!」

と、調子のいいことを言う・・・だけど、あんな間近で男の氣を受けて、これだけ負け惜しみを言えるのってのもたいしたものよね。ダラスが男に向けていた人差し指をシークスの方向にかえて、

「おい、お前!」
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