その女剣士は世界を救い、英雄となる。

千石

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第68話

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「あなたも物好きねぇ」

感心半分、呆れ半分といったようにリリヤが呟く。

場所はかわってあたしの滞在している宿の下にある食堂である。

夕飯を食べ逃したので、あたしだけが食事を摂っている。

リリヤは酒をのんでいる。

「そうかな?」

スパゲッティを頬張ってから聞いてみる。

あら、おいしいわね、このスパゲッティ。

「かなりね」

リリヤは一気に酒を飲み干し、近くに来ていたウェイトレスにお代わりを頼む。

むっ、なかなかの酒豪ね。

サイカは今頃、あたしの部屋でお風呂に浸かっている所だろう。

薄汚れたままじゃあ身体に毒だと思い、あたしが勧めたのだ。

「まあ、そんなことよりもさ、まさか前大会準優勝者が棄権するなんて驚いたわ」

「・・・そうね。あれには私もびっくりしたわ。ああ、あんたがあの子・・・サイカちゃんっていったっけ・・・を追い掛ける前に言おうとしていたことってそれだったのね」

リリヤが納得がいったと言う感じで声を上げた。

「うん、正解。それでさ欠席した理由がまた傑作だったわね」

「本当よね。たしか自宅の階段で足を滑らしたってことだったわよね?」

「ええ、全治1ヵ月らしいわ」

表面上は微笑を浮かべていたあたしだが、内心では、階段で足を滑らした何ていうのは嘘だと思っていた。

「どんな能力を持ってたの?」

何気ないように尋ねる。

「あれ、知らないの?」

リリヤが冗談でしょ?って感じで聞いてきたのに対してあたしは黙って頷いた。

「私も人づてに聞いただけだから、正確じゃあないかもしれないけど、何でも“火の素質”を持ったルフトらしいわ」

「へー、火のルフトねー。それは実際に見てみたかったわ」

本当に残念だわ。・・・ん?待てよ、“火”のルフトですって!?あたしはハッとした。

「どうかした?」

リリヤがあたしの動揺に気付いたようだ。

「いや・・・何でもないわ・・・」

それからあたしは黙々と食事を続ける。

考えをまとめる時間がほしかったからだ。

あたしの記憶が確かなら、あれは・・・そう“存在しなくなった日”のことだ。

あたしとレベンが闘技場に向かおうとしたときに他の場所で爆発が起こり、レベンが止めにいったのだ。

それでもって、レベンが再び現われた時には着ている服がそこらじゅう焦げ落ちていたのだ。

レベンくらいの人間がてこずる相手で火を使うっていったら・・・いやいやまさかね。

あたしは自分の考えを自ら否定した。

爆発を見たからって、それが“火の素質”を持ったルフトだって考えるのは、あまりに短略的すぎたわね。

たまたま爆弾で攻撃しただけかもしれないし。

まあ、・・・直接レベンに聞けば、いいことなんだろうけど・・・。

よし!

あたしがレベンに勝ったら聞くことにしよう。

そのほうが面白いものね。

といっても、レベンと当たるのは決勝戦だけどね。

しかも、レベンは準決勝で、あの男に勝たなければならないけどね。

はっきりいって今日、あの男の試合を見たほとんどの人が我が目を疑ったことだろう。

それもそのはず、審判が開始の合図をした瞬間に対戦相手が降参したのだから無理もない。

仮にも、この大会に出場しているのだから選りすぐりの戦士であったのは間違いない。

そういった手合いなら、必ずしも強い人間が勝利するわけではないということは自ずと理解しているはずなのだ。

そんな人間が戦う前に降参したのだ。

これを驚かずして何を驚くというのか。

先程この話をリリヤにしなかったのは、この試合を見ていたときの彼女の表情を見てしまったからに他ならない。

“私は何も見なかった”

そう顔に書いてあったのだった。
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