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第78話 対等に

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ルークが同行する騎士との待合せ場所に到着したのは日の出前の小一時間前だった。

早めに休んで目が覚めてしまったのだ。

「たまには鍛錬でもするか」

軍を出てから今まではとてもそんな気持ちになれなかったが何故か今日は自然とそう思った。

そうして早めに待ち合わせ場所に到着したルークは護命剣を抜き素振りを始める。

ルークが学んできたのはほとんど実戦である。

型とかは無く、色々な場面を想像しながら剣を振っていく。

基本的に多対一であることが多いため、一撃で無力化するための想定がメインである。

「ふぅ」

一通りこなした後、今日はこのくらいでいいかと剣を納める。

「そろそろだな」

ルークは待ち合わせである門のところまで向かい、近くの木に寄りかかって目を閉じる。

周りの気配を探るためである。

最近二度もトラブルに巻き込まれているので、いつ起こるとも分からない。

しばらくすると、王都内からこちらに走ってくる気配を感じた。

南門の手前でゆっくりと歩き出すのが分かる。

ルークは、待ち合わせている近衛騎士だと感じた。

やがてその人物はルークに近づき、声を掛けてきた。

「ルークさん、おはようございます!」

元気な声が聞こえ、やはり先程の気配の主が待ち合わせの人物だとわかる。

ルークは、目を開けると見覚えのある人物であるが想定外の人物だったので驚く。

「おはよう。・・・君が選ばれたんだな」

(騎士に成り立てのこの子を同行させる意図はなんだ?)

ルークにはメリッサの意図が掴めない。

思考に没頭していると、その人物・・・ミリーナは自己紹介を始めた。

「私は近衛騎士所属第二部隊特別班班長ミリーナ・インスパイア一級騎士です!これからよろしくお願い致します!!」

頭を下げてくる。

(ほぅ。いきなり班長か。メリッサは随分とこの子に期待しているようだな)

ルークはミリーナの自己紹介を聞いて漸くメリッサの意図が分かってきた。

「ルークだ。付き合わせて悪いな。よろしく頼む」

そう言い、ルークは右手を差し出す。

(この子に伝わるか分からないがこれから長い付き合いになるかもしれない。利き腕を差し出すに相応しいだろう)

「はい!こちらこそよろしくお願い致します!あと、悪いなんてことはありません。寧ろ光栄です!」

ミリーナが嬉しそうにルークの手をとりそう言ってきた。

(伝わったようだな)

ミリーナの反応を見てルークはそう感じた。

(それにしても、まだ若いのに中々鍛えているな)

ミリーナの手の平の感じからルークはそう確信する。

(メリッサが期待するわけだ)

「どうかしたか?」

ミリーナの様子が少し変わったのでルークがそう尋ねる。

「いえいえ、何でもないです!」

ミリーナはそう言ってなんでも無いことをアピールする。

「そうか、なら行こうか」

「はい!」

ルークの言葉にミリーナは元気に答える。

しばらく南に向かって歩く二人。

「・・・」

「・・・」

二人の間に会話はない。

「ちょっといいか?」

「はい!何でしょうか!?」

ルークの言葉に即座に反応するミリーナ。

(・・・固いな)

「これから先は君が交代するなりしない限り共に行動をすることになる。そんなに固くなる必要はない」

「は、はい!」

(・・・まだ固いな。頭では分かっているのだろうが・・・よし)

「そうだな。これからは対等に接しよう」

「た、対等ですか?」

「ああ、対等だ。これからは俺に意見をするのも遠慮しなくて良い。そうだな、まずはその敬語からやめようか?」

「で、できませんよルークさんにそのようなことは!?」

ミリーナがルークの言葉に慌てる。

「・・・」

ルークからの反応が無い。

「・・・あの?ルークさん??」

ミリーナが呼びかけるがルークはスルーする。

「ううう・・・。わかりましたよ!ルーク?」

「何だ?」

ミリーナが自棄になったかのようにルークを呼び捨てて初めて反応した。

「わかりまし・・・分かった、これから先はあたしとルークは対等ね!」

「ふっ、そうだ。その調子だ」

ルークが嬉しそうに答える。

『ルークとミリーナ』

この名前がセインツ王国中に響き渡ることになることをまだ誰も知らない。
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