他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石

文字の大きさ
1 / 488

第1話

しおりを挟む
「あー。また今日から学園か・・・憂鬱だ」

学園指定の制服に着替えながら黒髪黒目、中肉中背の男・・・グレイ・ズーがボヤきながら言う。

グレイは魔法学園の4年生として在籍中で、今日は週始まりの月曜日の朝である。

そんな時、部屋のドアがノックされる。

「おーい、グレイ~。もう行ける~?」

「おー、エルかぁ。もうちょっと待ってくれ~!」

友達のエルリック・バスターが迎えに来てくれているようなので、グレイは支度を急ぎ部屋のドアを開ける。

「悪い。待たせた」

「全然気にしないでいいよ。おはようグレイ」

「ああ、おはようエル。・・・エルは相変わらず光り輝いてるよな」

「ふふ、グレイってばいつもそういうよね」

エルリック・バスター。

名門貴族の次男坊である。

金髪碧眼の美男子だ。

魔法も剣術も学科も学年上位をキープしており、性格も良しという完璧超人である。

噂ではファンクラブもあるという。

(天は二物を与えないって言ってなかったか?エルなんて何物貰ってるんだか・・・)

グレイはエルを見てもう何度目か数えるのも馬鹿らしいくらい考えたことを今日も考える。

「仕方がないだろう。エルみたいな完璧超人を見た凡人はそう思うんだよ」

「そんなことないよ!僕はグレイの優れているところを沢山知ってるし」

「わかったわかった。ありがとう。この話はおしまいにして学園に行こうぜ」

「・・・何かはぐらかされた気もするけど、わかったよ。行こう」

このやり取りは朝の挨拶みたいなものなのでエルも理解しているのか簡単に引き下がる。

グレイは部屋の鍵を閉めて、エルと一緒に学園に向かって歩き出す。

学園の生徒は例外を除いて全寮制である。

寮から学園までは徒歩15分ほどの距離である。

とは言え、寮も学園内に建てられている。

学園自体がとても広いのだ。

グレイとエルは近道を進む。

道は狭く、エルが先頭を歩く形になる。

グレイはいつもここでエルを良く『視る』ことにしていた。

『エルリック・バスター。16歳2ヶ月。残り寿命76年2月2日』

(ふぅ。今日もエルはいつも通りだな)

グレイは内心安堵する。

これは恐らくグレイだけの特別な能力で、相手の名前、年齢、残り寿命が視えてしまうのだ。

過去に周りの人にも視えていると思い、話してしまった事があったが散々な目にあったためこの学園に入ったときには誰にも話していない。

グレイ自身も気持ち悪い能力だと思うがこれはオンオフが効かないため、普段から視えてしまう。

長年の経験で視えても視ないように意識出来るようにはなっていた。

とはいえ身近な人のことだと把握しておきたくなり視るようにしている。

今日も何事もなく、二人は学園に辿り着いた。

「おはよう、みんな!」

エルが元気にクラスのみんなに挨拶をしながら入っていく。

グレイとエルのクラスは4年D組である。

二人が通っている魔法学園は国唯一のもので国中から通いに来るため物凄く人数が多い。

1クラス50人で1学年で41クラスあるため2000人を超える人数が通っている。

「おはよう、エルリック」

「おはようございますですわ。エルリック様」

「エルリックおはよ~」

流石優等生。全員から気持ちいい位の挨拶を受けながら自分の席に座る。

グレイとエルの席は後ろと前で異なるため、クラスに入るときはエルとは違う後ろから入るようにしていた。

凡人が挨拶しても反応が薄いことを理解しているため、そそくさと入り席に着く。

やがて、始業のチャイムがなり、ホームルームが始まった。



「あ~。やっと昼飯だ!」

グレイはお昼休みを告げるチャイムを聞き、机に突っ伏す。

月曜日から座学ばかりで疲れ果ててしまったのだ。

「おーい、グレイ~。学食行こうよ?」

エルがグレイの席に向かってやってくる。

「おう、行こうぜ」

お腹がペコペコなグレイに断るという選択肢はない。

二つ返事で了承すると席を立上り、二人並んで学食に向かう。

「なぁ、エル」

「ん?どうしたのグレイ?」

「いつも思うんだが、俺なんかと行動していて嫌じゃないか?」

グレイはクラス内でいじめられるということは無い物の平凡な能力しかないため、グレイ・ズーという名前の頭の文字をとって良く『グズ』と呼ばれてからかわれていた。

『グズ』というのは異国の言葉で鈍臭いという意味らしい。

グレイ自体、否定できないと感じているため余り気にはしていなかったが、よく一緒に行動してくれているエルの評判に傷がつくことだけは気になっていた。

「え?嫌なんてことないよ。グレイといると楽しいもの」

何を当たり前のことをといったように答えてくるエル。

余りにもまっすぐな目をして言うため、グレイは思わず口ごもる。

「そ、そうか?なら良いんだ」

少し照れ臭くなり、エルから視線を外し前を向く。

「あれ?グレイもしかして照れてるの?」

勘の鋭いエルがグレイの様子を見てにやにやする。

「て、照れてないぞ」

「・・・説得力無いな~」

そんなやりとりをしていると学食に到着した。

学食同じ入口から入り左右に別の空間に分かれている。

貴族用とそれ以外用である。

両者は同じくらいの大きさなのだが、貴族の人数は全体の10%位なので1人当たりの面積が異なっている。

グレイは言ったことないがエルの話ではメニューも異なるらしい。

「あ、あそこに席が空いているよ」

言うやいなやエルが持ち前の身体能力を駆使して席をとる。

「僕が席を確保しているから、先にグレイが買ってきてよ」

「ありがとう。それだと効率が悪いから俺がエルの分も買ってくるよ。何にする?」

「そう?ならAランチ!」

「分かったAランチな」

俺はエルの食べたいものを聞くや列に並ぶ。

しばらく並んでいると、入口の方から何やらどよめきが起こる。

「ああ!アリシア様よ!!」

「月曜日からお目にかかれるなんて最高だわ」

「いつ見ても神々しい」

「お近づきになりたい」

周りからはそのような声が聞こえてくる。

アリシア・エト・バルム。

グレイたちが暮らしているバルムス王国の貴族の中でも最も高貴な3大貴族の一つであるバルム家のご令嬢である。

容姿端麗、成績優秀というまさに才色兼備を実際の人物にしたような女性で、綺麗な長い赤髪、透き通るような琥珀の瞳が印象的だ。

余り他人に興味のないグレイも名前くらいは聞いたことはある。

(確か、学年は同じだったっけな)

普段ならわざわざ見たりしないのだが、学食の列に並んで手持ち無沙汰だったため、何となく見てみた。

「・・・そんな馬鹿な」

衝撃的な事実に思わず声に出してしまうグレイ。



『アリシア・エト・バルム。15歳8ヶ月。残り寿命5時間19分』



普段は見ないようにしているにもかかわらず、あり得ない寿命に思わず凝視してしまったのだった。



「どうしたの?グレイ?」

あの後、動揺のままに何とかエルの分も含めた食事を購入し、一緒に食べているとエルが心配そうに聞いてきた。

「・・・いや、別にどうともないぞ」

「そう。なら良いけど」

グレイは何とか平静を装いエルの質問に答える。

そしてグレイは再び思考の渦に入っていく。

(何でだ?何であと5時間しか寿命が無いんだ)

グレイはこれまでに無いほど頭をフル稼させていた。

(もしかして病にかかっているのか?)

アリシアが病気持ちだという話は聞いたことはない。

念のため、エルにも聞いてみることにする。

「な、なぁエル?」

「ん、どうしたの?」

「さっきの注目凄かったな」

「ああ、バルムさんのこと?グレイも興味あるの?意外だね」

エルが本気で驚く。

「お、俺だって綺麗な女の子に興味くらいあるさ」

「ほうほう。それで?」

続きがあるんだろう?とばかりにエルが聞いてくる。

グレイは余り大きな声で話すのが憚られたため、エルを手招きし、察しが良いエルが耳を向けてくる。

「バルムさんって、体が悪いとか病気とかあったりするのか?」

「へ?いや、聞いたことないよ」

「そうか。教えてくれてありがとう」

「どうしたの急に?」

エルが不思議そうに聞いてくる。

「あ、ああほら、美人薄命って言うだろ?現実にも有りうるのか気になってさ」

「プフぅ、何それ?やっぱりグレイは面白いなぁ」

エルはグレイの言葉を疑いもせず、お腹を抱えて笑い出す。

これ幸いとグレイは再度思考の渦に再度潜る。

(病気とかではないとすると自殺か他殺か事故になるな。・・・これ以上は情報が少なすぎて分からないな)

ふと、グレイの中の悪い心が囁く。

~別に関係ない人間が死ぬってわかったからといってお前が動く必要ないだろう。運命なんだよ。それが

一方、グレイの中の善い心が囁く。

~グレイだけが知ったということはきっと意味があるんだよ!!運命なんて変えちゃえ!!

「ふぅ」

グレイは一度深呼吸をし、自分の行動を決める。

「・・・知ったからには黙っていられないよな」

グレイはボソリと呟き、未だ笑っているエルにお願いをする。

「エル、悪い。これ下げておいてくれるか。ちょっと用事を思い出したから先に教室に戻っていてくれ」

グレイは一方的にエルにお願いすると、立ち上がってどこかに向かって駆けて行く。

「え?ああ。うん・・・ってあれ?もう居ないや」

エルが返事した時には既にグレイの姿は無かった。



(さて、どうやって接触するか)

グレイは走りながら考える。

相手は大貴族の令嬢だ。

中々一人になることなど無く、いつも誰かしら取り巻きが居るだろう。

今から貴族スペースの食堂に行くのも無謀だ。

要人も多いため辿り着く前に問答無用で捕縛され、下手すれば騎士を呼ばれ連行される。

(学生同士が違和感なく、しかも初対面で二人きりになるには・・・)

グレイが悩みながら歩いているといつの間にか人気の少ない場所に来ていた。

「こう見えて、私も忙しいのですわ。何の用ですの?」

(ん・・・?)

グレイがこっそり覗くと如何にも貴族の女の子が男子と二人っきりでいるのが目に入った。

(そうか、この手があったか!恥ずかしいが仕方がない)

グレイはアリシアと二人きりになる方法が見つかったため、急いで準備をすることにした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...