他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

第246話

「・・・今日からまた【魔法武闘会】までの間特訓か・・・」

先週から訓練をしていた部屋、そして昨日予選を行った部屋にまたやってきたグレイは感慨深げに呟く。

ちなみにセリーとはS組の教室の前で別れた。

アリシアとグレイは授業が免除になったため、【魔法武闘会】に向けて訓練をするつもりである。

もう一人の大会参加者であるゾルゲはちらっとみたS組の中には居なかったため、どこでかは分からないが訓練をしているのだろう。

「・・・」

（うーん。やっぱりアリシアの機嫌は悪いままなのかな・・・）

セリーと別れてからずっと沈黙したままのアリシアの様子にグレイは正直、困っていた。

わざとらしく冒頭のセリフを吐いたが、アリシアは黙ったまま反応が無かった。

（・・・理由が分からないが、俺がアリシアを不機嫌にさせてしまったんだろうから謝るか）

グレイはそう決意するとアリシアの方に顔を向け、声を掛ける。

「アリシア」「グレイ」

「「っ！？」」

どうやらアリシアもグレイに話し掛けるタイミングが被ったようでそれぞれが同時にお互いの名前を呼ぶ。

その事にお互いに驚くグレイとアリシア。

「グレイが先に言ってください」

「いやいや、アリシアが先で良いよ」

グレイとしてはアリシアが沈黙を破ってくれるなら満足なのである。

「・・・そうですか。では、私《わたくし》からお話ししますわね」

アリシアは一瞬の沈黙の後、自分から話すべきだと決意する。

すぅ

アリシアは勢いをつけるためか、普段よりもたくさんの息を吸う。

そして、

「グレイ、昨日は不機嫌な態度をとってしまい申し訳ございませんでしたっ！！」

勢いよく謝りながら頭を下げた。

「・・・」

まさかアリシアから謝られるとは思っていなかったグレイは呆けてしまう。

（・・・いやいや、早く返事をしないとアリシアに悪い）

直ぐに我に返ると、グレイはアリシアに頭を上げるように言ってから、

「正直、気になっていたけど謝ってくれたってことはアリシアの中では解決したんだろ？なら気にしなくていいさ。それより、俺の方こそアリシアを不機嫌にさせてしまって申し訳なかった」

グレイは、そう言うとアリシアと同じく頭を下げた。

「・・・」

「・・・」

お互いに頭を下げ、沈黙をするグレイとアリシア。

だが、その沈黙は長くは続かなかった。

「「ぷっ」」

お互いに吹き出し、それぞれが笑い始めたからだ。

そして、二人はほぼ同じタイミングで顔を上げると、

「俺たち何をしているんだろうな」

「ええ。本当にそうですわね」

先ほどまでギスギスしていた雰囲気はすっかりと霧散し、今では穏やかな空気となっている。

「ところで、何で不機嫌だったかは知りたいんだけど駄目かな？」

グレイは今のタイミングなら聞けるかなと思い、気になっていたことを尋ねる。

「私《わたくし》の勝手な思い込みかと思いますのでご容赦ください。それよりも、改めまして【魔法武闘会】出場おめでとうございます！」

アリシアは簡単に断りを入れると、話題を変えてくる。

（・・・これ以上、深堀りしない方が良さそうだな）

グレイはアリシアの心情を理解すると、

「ああ。ありがとう。昨夜になってようやく実感が湧いて来たところだからまだ自分でも信じられないけどね」

アリシアに付きあって変更した話題に切り替える。

（グレイ、ありがとうございますわ）

アリシアはグレイの反応に対して心の中で礼を言うと、

「ふふふ、来月の大会が近づいてくれば嫌でも実感できますわよ」

と満面の笑みでそう言ったのであった。