【完結】失くし物屋の付喪神たち 京都に集う「物」の想い

第3章 万年筆

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　世界を洪水で流し去ってしまうかのように、土砂降りの雨が降り続けています。

　台風が日本海を通って北を目指す影響で、京都は昨日から雨です。夕方には止むそうですが、風の勢いは強く望みは薄いかと。朝は風が弱まり降水量も少なくなったので、これなら午前中に台風は去るだろうと誰もが判断していました。が、台風は進行速度を緩める事にしたみたいです。

　これでは木の葉が散ってしまい、今年は美しい紅葉の風景は見れないのではと不安になりました。毎年楽しみにしていたので。

　現在、私は学校で足止めされています。台風が弱まるまで、保護者の迎えが無い者は校内で待機するようにと教師陣から指示されたのです。

　みんな、自習や宿題、雑談、読書など思い思いに時間を潰しています。持って来たファッション雑誌を回し読みしている女子達もいます。文化部や体育館で　　活動出来る部活はいつも通り部活動に励んでいます。

　帰宅部の私は暇を持て余していました。図書館に興味のある本は特にありませんでしたし、スマホで聴ける音楽も聴き飽きました。

　教室でぼんやり過ごしているだけです。

　短大生である兄は、一足早く家へ帰ったでしょう。今頃料亭で夜の仕込みをしているはずです。そしてまた、私が帰宅したら嫌味を言うのでしょうね。ずぶ濡れになってでも家に帰って来いよ、それが料亭に尽くす者の努めだろ、とか。

　モモコの件から３日経ちました。あの日、私があかり堂へ抜け出した事は家族にバレませんでしたが、それでも暴言や罵倒を浴びせられる日常です。悲しい事に、これが我が家の「普通」なのです。私を役に立たない召使い扱いする事が。

　料亭の忙しい毎日で、彼らにとって唯一の娯楽なのでしょう。私は行き場の無いストレスを抱えていました。