【完結】船宿さくらの来客簿

ヲダツバサ

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第一章 料理の秘訣と具なし味噌汁

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 ただ、アタシはあの人に想いを寄せているけど、結婚したいとは思ってない。そこまで夢見がちじゃない。出来る訳ないもの。

 男というのは体裁で生きている生き物だ。人の目を気にしているのは、実は女より男だ。気にしているのは服装や容姿よりも、どんな家に住んでいるか、どんな仕事に就いているか……言わば社会的地位というやつだ。

 そんな殿方の一体誰が、小さくて知名度も低いさくらに婿入りしたいと考えるだろうか。

 それに、こちらも世間体を守るため、それなりの人を迎えたいという気持ちはある。根無草や前科者は絶対ダメ。

 あの人と再会出来ても、条件を全て満たさなければ結婚なんて無理だ。

 アタシはあの人の事、何も知らない。

 床に着くため、アタシは二階へ上がった。上は両親の部屋とアタシ達姉妹の部屋に分かれている。

 先に寝ている姉を起こさないよう布団に入った。

 もう何も考えないで寝よう。

 心の中が空っぽになると同時に、緩やかに眠りに落ちて行った。




 
 早朝。船宿を開ける時間になると、彦さんは既に来ていた。人の少ない舟着場で、猪牙舟の状態を確認している。

「彦さん。おはよう。今日も晴れそうね」

 アタシが挨拶すると、彦さんは会釈した。

「おはよう」

「今日は早速、彦さんが味見してくれた焼き豆腐を出すつもりよ。それに合わせて味噌汁も変えなきゃ」

「具や味噌を?」

「ええ。おかずが豆腐で味噌汁も豆腐ってのも面白いけど、もう少し趣向が欲しいわ」

「どうするんだ」

「それは食べてからのお楽しみ。アタシの味噌汁への情熱があれば、さくらはますます繁盛するわ」

 思わず手が拳になるほど強い想いを込めて言った。

 その時だった。

「あ、あのっ」

 変声期がまだの、高い男の子の声が響いた。

「その美味しい味噌汁の秘訣を、是非僕に教えて下さい!」

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