【完結】船宿さくらの来客簿

ヲダツバサ

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第一章 料理の秘訣と具なし味噌汁

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「彦さん、念の為、一緒にいてくれない? お客さんが来るまでに話を終わらせたいの。お父ちゃん達はまだ寝てるし」

「分かった」

「味噌汁の作り方を教えてくれなんて、断るつもりよ。でも小さい子を納得させられる理由を言えるか自信無いし」

「いざとなったら、任せろ」

「暴力はダメだからね。さっきは助かったけど」

 実は彦さんが子供を苦手としているのは知ってる。内心、面倒臭いと思っているはずだ。

 カン坊は土間の腰掛けに座り、アタシは卓を挟んで向かい合うように腰を下ろした。彦さんはアタシの斜め後ろに立っている。

「さて。カン坊。まずは理由を聞かせて頂戴。あなたは何故うちの味噌汁の作り方を知りたいの?」

 カン坊は一瞬目を逸らした。

「凄く美味しかったから、家でも同じ味を食べたくて」

 嘘だ。

 アタシは容赦なく指摘した。

「正直におっしゃい! アタシはさくらに来た客は全て覚えてる。本当よ。アタシだけじゃなく、店をやってる人間は皆そうなんだよ。一度来た客は忘れない」

 こちらが、どれほど真剣に商売しているか、分かってないのね。名前が分からなくても、顔を覚えきれなくても、その人の声・服装・雰囲気……どれかひとつは印象に残ってるものなのだ。

 こんなカン坊なんて子供、うちに来た事はない。断言出来る。

「あなた、本当にどういうつもり? いたずら? ちょっとした遊びのつもり? 飯屋の看板料理の作り方をタダで教えろなんて、とても失礼な話なのよ。ひとつ間違えたら店が傾く危険だってあるんだから」

「ぼ、僕、あの……」

「ハッキリおっしゃいな!」

 アタシは卓をバシッと叩いた。

 カン坊はとうとう口を割った。

「実は、その、うちも飯屋なんだ。おかあが一膳飯屋をやってるの。最近開いたばかり」

 カン坊は縮こまって白状した。

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