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第二章 おふくろの味としじみ汁
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「きゃあああっ! 山川様のお嬢様と、その女中さんでしたか。失礼致しました! 申し訳ありません。いやはや」
次介は卓に額を擦り付けるように頭を下げた。本当に面倒な展開になってきた。
ふと気付くと、買い出しに行っていた母が店の入り口から覗いていた。帰って来たのだが、この騒ぎに目を丸くしている。
「何事だい?」
キリッと整った眉を吊り上げる母。
アタシも訳が分からないよ……。
「えっと、整理しますと……しばらく前に六さんの舟で、あの人達がやって来たの。吾妻橋の近くにある呉服屋、山川屋の人達よ。おチヨさんとトモミさん。味噌汁を作ってくれとしつこくて、出したら色々聞かれた。アタシが誰から料理を習ったのかとか」
「ふうん。そして、そこの次介と孫介の兄弟が着いた。花火師といえど風来坊のような次介と、いかにも育ちの良さそうなおチヨさん。接点など無さそうな二人が、どうやら知り合いのようだ。これはどういう事か……というのが、ここまでの流れかい?」
母、察しが良すぎる。
母は高い声で笑い声を上げた。こっちは何も面白くないっての。
このゴタゴタを、ご近所さん達は店先から首を伸ばして覗き見ている。恥ずかしすぎる。
話を進めたのはトモミだった。
「おチヨ、花火って、うちがお金出してるやつ?」
おチヨは肯定した。
「ええ。そうです。こちらの花火屋に、山川屋が一部出費しています。言わば、後援者です」
「その山川屋の者を、遊女呼ばわり」
トモミはまだ子供だが、江戸に生きる者として遊郭の存在は知っているようだ。何をする場所なのかは知らずとも、嫌悪感は抱いている。
何となく要点が見えて来た。
「出資者の娘の顔ぐらい覚えておきなさい」
トモミは幼さに似合わない威厳を発した。
次介は卓に額を擦り付けるように頭を下げた。本当に面倒な展開になってきた。
ふと気付くと、買い出しに行っていた母が店の入り口から覗いていた。帰って来たのだが、この騒ぎに目を丸くしている。
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キリッと整った眉を吊り上げる母。
アタシも訳が分からないよ……。
「えっと、整理しますと……しばらく前に六さんの舟で、あの人達がやって来たの。吾妻橋の近くにある呉服屋、山川屋の人達よ。おチヨさんとトモミさん。味噌汁を作ってくれとしつこくて、出したら色々聞かれた。アタシが誰から料理を習ったのかとか」
「ふうん。そして、そこの次介と孫介の兄弟が着いた。花火師といえど風来坊のような次介と、いかにも育ちの良さそうなおチヨさん。接点など無さそうな二人が、どうやら知り合いのようだ。これはどういう事か……というのが、ここまでの流れかい?」
母、察しが良すぎる。
母は高い声で笑い声を上げた。こっちは何も面白くないっての。
このゴタゴタを、ご近所さん達は店先から首を伸ばして覗き見ている。恥ずかしすぎる。
話を進めたのはトモミだった。
「おチヨ、花火って、うちがお金出してるやつ?」
おチヨは肯定した。
「ええ。そうです。こちらの花火屋に、山川屋が一部出費しています。言わば、後援者です」
「その山川屋の者を、遊女呼ばわり」
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トモミは幼さに似合わない威厳を発した。
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